『風の刻(こく)-花の陰(かげ)-星の雫(しずく)』 =陰陽伝昔語り=(5/360)PDFで表示縦書き表示RDF


『風の刻(こく)-花の陰(かげ)-星の雫(しずく)』 =陰陽伝昔語り=
作:あんじぇ



第五話 村祭り(二)


 ひと仕事を終えて、和尚がしのの様子を見に行くと、しのは疾風の膝の上で手鞠を大事そうに抱いたまま、ぐっすりと眠っていた。
「おお、これは……」
 思わず和尚が声を出すと、疾風が口の前に指を一本立てて、「しいっ」と言う。
 和尚は頷いて急いで布団を取ってくると、部屋に敷いてそっとしのを寝かせた。

「いててて……」
 後ろで疾風が足を抱えて引っ繰り返り、大袈裟に七転八倒している。
「どれくらいしのを膝に乗せていたのじゃ? すまんかったのう」
「いいさ。すぐ治る……いでで……」
「さすが疾風じゃ。よう遊んでくれたようじゃな。ぐっすり寝ておる」
 疾風は和尚のその言葉に嬉しそうに頬を染め、寝そべったまま両肘をついてしのの方を向いた。
「ミョウジ、しのはどこから来たんだ? これからずっと、寺にいるのか?」
「しのはの……前は笹無村におったのじゃ。事情があってこの寺の子になった。だからずっとこの寺におるとも。疾風、おまえ、しのの面倒を見てやってくれるかの」
 疾風はくすりと笑い、小鼻を(つま)みさする。
「な、ミョウジ。しのは女みたいによく笑うぞ。それに動きはのそのそして、まるで小熊だ。一生懸命鞠を追って、疲れたらいきなり俺の膝の上で寝てしまった……次郎吉より手がかかりそうだな。でも、ま、いいや。よし、しのも今日から俺の弟にしてやる」

 夕刻、早めの夕餉を済ませ、和尚、作造、疾風たちは祭り用に特別に作った提灯を下げ、しのを伴い村へ下りていった。
 疾風は右手に提灯を持ち、左手はしのの手を握っている。
 しのはすっかり疾風になつき、「はやて、はやて」と嬉しそうに声を上げてはしゃいでいたが、村に入る頃、人々が和尚や疾風に声をかけ始めてからは、急に大人しくなった。
 指をくわえ、疾風の後ろに隠れるようにしてついてゆく。
 ついにしのは、疾風から離れると和尚の側へ行き、黒い法衣に隠れてしまった。
「どうしたね、しの。恥ずかしいのか?」

 すると疾風がしのの前に行き、目線を合わせてにっこりと笑って見せた。
「しの、これからしのにも仲間ができるんだぞ。俺と一緒にいよう。大丈夫、俺がおまえを守ってやるから」
 そうして、「ほら、おいで」と手を差し出す。
 しのは、おずおずとその手を取った。
「よし」
 疾風は頷くと、しのの頭を撫でた。

 と、その時である。
「兄貴っ」と声がして、男の子が二人、こちらへ走って来るのが見えた。
 年の頃は、一人は疾風より少し下くらいで、もう一人はしのより少し大きいくらいだ。
 やはり手にはそれぞれ提灯を下げている。
「おう、長吉に次郎吉か」
 二人はすぐにしのに気がついた。
「あれ? 兄貴、そいつは誰だい」
「だいっ」
 兄の長吉について、弟の次郎吉が言葉尻だけを繰り返す。
 それから二人は和尚と作造にも気がつき、慌てて挨拶をした。
「あっ、こんばんは。ミョウジ、作造さん」
「さんっ」
 和尚はにこやかに頭を下げて見せる。
「これはこれは、こんばんは。二人とも、偉いのう。きちんと挨拶ができるのじゃな」
 作造も二人に挨拶を返し、
「さすが、疾風の子分じゃ」
 と言った。

「この子はしのというんだ。寺の子さ。これから俺の弟になるんだ」
 疾風の頬がまた紅潮している。
 長吉と次郎吉は大変驚いたように「ほおーっ」と声を上げ、目を丸くして再度しのを見た。
 それから互いに顔を見合わせ両手を打ち、
「じゃ、俺たちの子分だぞ! 次郎吉、おまえにも子分ができた!」
 とはしゃぎ始めたのだった。
 当然何のことかわからず、しのは泣き出しそうな顔をしている。
 疾風はしのの手をぎゅっと握った。
「こいつらは今日からしのの仲間になる。大丈夫だ、いいやつらだから」
 長吉はぐずっと鼻をすすり、照れくさそうにしのに向かって言った。
「よろしくな」
「なっ」
 またも兄の言葉尻を繰り返した次郎吉は、喉の奥が丸見えになるくらいの大口を開けて笑う。
 上の歯ぐきには小さな白い歯が一本だけの、だが豪快なその笑顔。
 と、それにつられるように笑顔になったしのが、いきなり大声を上げた。
「な!」

 皆の一斉に笑った声が、暗くなった木々にこだました。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう