『風の刻(こく)-花の陰(かげ)-星の雫(しずく)』 =陰陽伝昔語り=(2/360)PDFで表示縦書き表示RDF


『風の刻(こく)-花の陰(かげ)-星の雫(しずく)』 =陰陽伝昔語り=
作:あんじぇ



第二話 出会い(二)


「さあ、たくさん食べるといい」

 幼子の前に、(かゆ)と焼いた芋が出された。
 幼子は喉を鳴らすと、小さな手を精一杯伸ばして(わん)を手に持ち粥をすする。それから芋を握ると、無心にかぶりついた。

「それそれ、ゆっくり食べなさい。喉に詰まると苦しいぞ。わしの名は妙心じゃ。おまえさんは何という?」

 一瞬、幼子の動きが止まり、芋をくわえたまま目だけがくるりと和尚を見た。
「……」
 和尚は、思わず頭をかきつつ苦笑する。
「すまん、すまん。そうじゃったな、まずは食べなさい」
 作造もゆっくりと和尚の隣に腰を下ろすと、まじまじと幼子を見た。
「お前……男、女、どっちじゃな?」
 すると幼子は口をもぐもぐさせながら、丸々とした目を上げてあどけない声を上げた。
「しの」
 作造はぽかんと口を開け、和尚はまたも破顔一笑したことである。
「そうか、しのというのか。しの、芋は上手いか?」
 うん、と頷いて、幼子は初めて笑顔を見せた。素直な、屈託のない笑顔であった。
 が、もうすでにこの子の運命を受け入れている和尚と違って、作造は依然心穏やかではない。
 その笑顔がかえって不憫を誘うように思われ、ひとりため息をついてつぶやいた。
「可哀相にのう……捨てられたも知らず」

「作造」

 その時和尚の静かな声がした。
 振り向いた作造に、和尚は目に強い光を湛え、ゆっくりと頷いて見せたのだった。
「作造、あとでしのを湯に入れてやっておくれ。しのは縁あってこの寺へやってきた、もうここの子供じゃ」
 和尚のその様子に寺男の作造の気持ちも固まった。
 ――自分はただ、寺と妙心和尚に仕えればよい。
 へい、和尚様と答えると、作造はしのの頭をひと撫でし、しのが食べ終えた膳を片付け部屋を出て行った。

 しのは小さくげっぷをし、満足そうに腹を撫でていたが、いきなり、
「おっかあはどこ?」
 と和尚を見上げる。

(さてさて、困った)

「しのや、今日からはこの寺がおまえの家じゃ。そしてわしが、おまえの父じゃ。よいかの?」
 こんな小さな子がそれで納得するとは思えず、それでも無理に微笑んで見せた和尚だったが、意外にもしのは、
「うん!」
 と明るく言った。

(おそらく今はまだよくわかっていないに違いない……じゃが、思いのほか強い子なのかも知れぬ)

 曇っていた空は、もうすっかり暗くなっていた。
 どうにか雨は降らずに持ちこたえたようである。
 明日の夜は、子供たちも楽しみにしている村祭りだ。
 和尚も作造も、そして小坊主の恵心(えしん)も、明日は朝から忙しくなるはずであった。
「仕方ない。恵心に守りをさせようかの」
 そうひとりごとを言うと、「おいで」としのに手を差し出した。
「おいで。湯を使いに行こう。気持ちがいいぞ」
「うん」

 ――こんなにも小さな手。しかし温かい……
 
 和尚は、自分の手を握ってくる小さな手の感触を、不思議な気持ちで感じ取っていた。
(わしはこの手を離してはならぬのだ。これも御仏の志なればこそ、離してはならぬ)
 その時和尚はそう考えたが、心の奥底では、これこそ愛情以外の何ものでもないと強く感じていた。












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