第十五話 浮動の闇(一)
祭りも無事に終わり、村人たちもそれぞれ散っていった。
たくさんの提灯に照らされていた広場も、今や寂とした闇に沈んでいる。
辺りには消された焚き火から上がる煙の臭いが立ち込めるばかりである。
今、松虫が鳴く道を、芸人一座は縦一列に並んで歩いていた。
今夜は草路村の蓑介という男の家に世話になるのだ。
蓑介の家は、草路村でも大きい方だ。さらに一座六人を泊めることのできる離れを持っているのは、この蓑介の家と孫平の家だけだった。
一座はここ何度か草路村の祭りに呼ばれ、そのたびに蓑介の家に世話になっているが、蓑介は気のいい男であったから一座も気兼ねなく滞在できた。
蓑介の家族は、妻のりくに長男、田吉夫婦とその小さな子供たちである。
一方、孫平の家にはこの村でも評判の別嬪三姉妹が暮らしていたからよそ者を泊めたがらず、孫平の息子で三姉妹の父、源平太は、村の男たちでさえ三人に近付けるのを嫌う始末であった。
孫平も源平太も、将来は三人の娘たちを武士か町の男に娶らせ、こんな田舎の村から出て立派な暮らしがしたいと考えていた。
一座の座長月之進は、今夜は何となく気が暗くなる思いで蓑介の家へと向かっていた。それは一座の舞手でもある我が子千代之介と、今、一座の後ろからひたと付いてくる男のせいであった。
「いやあ、このたびもお疲れさん。ゆっくり休みなさるがよろしいで」
そう言って一座を迎え入れようとした蓑介は、しんがりの大男を見て思わず息を呑んだ。
「お……こりゃお坊様……」
疲れ切ったような月之進が頭を下げる。
「蓑介さん。今夜は後ろのお坊様のために、もうひとつ離れを貸していただけないでしょうか」
同様に、錫杖を鳴らし頭を下げる僧侶を見て、蓑介ははぁはぁと頷いた。
「もちろん、結構ですとも。お坊様にすげなくしては天罰がくだりますわい」
そして後ろを振り向き、
「おおい、田吉。お坊様がお泊りだ、離れを開けてこい」
と大きな声を上げた。
後ろの障子の影から子供たちが覗いている。
「こりゃ、新吉にお珠。もう休むんじゃ。早うお母ぁのところへ行け」
離れになった部屋の一室で、月之進は目の前の雲水に両手をついて頭を下げた。その横には千代之介がまだ舞衣装のまま正座している。
「それではお坊様、千代をお願いいたします」
「うぬ」
月之進が不憫そうな目を一度だけ千代之介に向け部屋を出て行った後、丞蝉は角に積んである夜具を広げ、自分の衣を脱ぎ始めた。
「お主、その舞装束、ひとりで脱げるか」
千代之介はぎこちなく頷くと、細い指で装束の紐を解き始めた。
千代之介は十三歳。今夜が生まれて初めての夜伽であった。
芸人の子なれば、貴族や武士や僧侶の相手を務めるのもいたしかたのないこと、父月之進は、祭りが終わる頃「その子を今夜ひと晩買いたい」と近寄ってきた奇異な相貌の僧侶の話を受けたのだった。
「我ら芸人なれば、いずれは通る道。千代、これも試練じゃ、こらえてくれ」 |