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Cの8話「刹那の延長」
 ジリリリリ!
 ・・・俺は目覚まし時計の音で目覚める。
 時計を見れば7時2分。予定通りの起床。
 この時計、前に落としたせいで壊れたらしく、鳴らない日も多いのだが、ちゃんと鳴ってくれて良かった。
 俺は目覚まし時計の上のスイッチを押して、部屋を出ようと・・・。
 ジリリリリ!
「・・・。」
 カシャ。
 今度は強めに押してみた。
 ジリリリリリリ!
「・・・・・・!」
 ・・・そうか。鳴り止まないのか・・・。
 ・・・鳴り止まぬなら、壊してしまえ、ホトトギス!!
 とその時、俺の部屋のドアが開いた。
「おっはよー、久郎く・・・って、何やってるの?」
 ・・・ノフィーネか。
「・・・この鳴り響く時計を黙らせようと」
「・・・なんかよくわからないけど、平和的解決を望むよ?」
 ・・・その時気づいたが、電池を抜けばいいんじゃないか?
 カチャカチャ・・・。
 ・・・よし、止まった。今度、修理に出しておくとするか。
「で、何か用か?」
「あ、朝食が出来たから迎えにきたんだけど・・・。久郎君、その服で寝たの?」
 ん? あぁ、そうか。
 昨日は結局、着替えずじまいでそのまま寝たんだった。
「と言っても引きこもってたから、これ以外に服はもう二着ぐらいしかないしな」
 その二着も、洗濯した後に乾かすのを忘れてそのままになっている。
「でもかなりくたびれてるよね。・・・今度、買いに行こっか」
「俺の服をか? 別に今買わなくても・・・。それより腹が減った」
 わざと腹に手を当てて、腹が減ったことをアピール。
 ノフィーネは、しょうがないなぁ、というように軽く頬を緩ませた。
「わかったよ。顔洗ったらすぐに来てね。あと、神様二人は先に食べてるから」
 おお、と俺が返事を返すて、ノフィーネは部屋を出る。
 ・・・ちょっと待て、今さら、勝手に食ってるのかよ、とかは言わないが・・・神ってなに食ってるんだ?
 興味があるな、さっさと顔を洗って行くことにしよう。

     C

 先に言っておく、想像以上だった。
「なんじゃ、久郎。妾の茶漬けに何か文句でもあるのかの? 最近の若者はあまり食べたがらんが、最初は緑茶をかけて食べていたのだぞ」
 いや、それはいいが・・・茶漬けね・・・。
 99%茶なのに茶漬けっていえるのか?
「それと、創造神。なんだその、あふれんばかりの探求心を表現したような料理は?」
「・・・あふれんばかりの探求心を表現した料理だが?」
 ちなみに、口で表現するにはおぞましすぎるので、そこは省かせてもらう。
 ヒントとしては、沸騰したお湯が入った鍋に、台所にある調味料を片っ端から入れ、緑黄色野菜を生のままぶち込み、豚肉を骨がついたまま投入。
 それをぐつぐつ煮込み、できたスープをカレーのように大盛りのご飯にかけ、最後にマグロの頭をドカンと上にのせた感じだ。
 もはや、料理ではなく芸術の域に達している。
「うまいのか?」
「・・・そう見えたならお前にやろう・・・」
 だったら作んなよ。
「たとえそれが無謀なことでも、創らずにはいられない・・・創造神の悲しき定めよ・・・」
 知るか。ちゃんと食い切れよ。
「・・・まさか創造神が、自らの創ったものに後悔することになるとは・・・」
 さて、馬鹿についてはそれぐらいにしといて・・・。俺の目の前には、ノフィーネが作ったものらしき朝食が置いてある。
 ふつうのご飯に納豆、後おかずが少々。
 いたってシンプルなのに、特別うまそうに見えるのは・・・さっきあんなものを見たからだな。今は意識して視線をそらしているが。
 それじゃあ、いただくとするか。
 むぐむぐ・・・、お、うまく炊けてるな。
「・・・そういや、今日はなにするんだったか?」
「俺の残飯処理」
「神様は黙って食べててください」
「お前は黙って食ってろ」
 ・・・むぐっ、バリッ、グシャ、キュイーン、ドロッ、ベチョッ。
 ・・・間違っても、飯を食う音じゃないよな・・・。
 右に目を背けると、時神が湯のみをノフィーネに差し出していた。
「ノフィーネ、お茶のおかわりをもらえるかの」
「はい、いいですよ」
 かいがいしく働いてるな。
「ノフィーネ、水をもらえないか」
「自分で入れてください」
「この待遇の違いはなんだ!?」
 食卓にそんなものを持ち込む奴にいい待遇も何もないだろ。
「で、まじめな話に戻すが、今日やるのは『命断』の制御練習だったか?」
 三人に全体的にきいたんだが、答えたのはノフィーネ。
「あ、うん。そうなんだけど・・・」
 ノフィーネの視線が右に向く。
 視線の先には、今にも死にそうな創造神の姿。
「うっ・・・、ダンダン味モナニモ感ジナクナッテ・・・。ウ、ウワァア・・・来ルナ、来ルナァア!」
「・・・これじゃあ、とてもじゃないけど・・・」
 というか、明らかに幻覚見てるよな!? 既に一線を越えてるぞ!!
「ウワァアアア!」
 ヒュン!
 そう叫んだ後、創造神は手元にあったフォークを掴み、おそらく創造神にとっての幻覚に向かって投擲した。
 しかし、現実には幻覚で見ているようなものは無い。
 そのフォークは他でもない、俺に向かって飛んでくる・・・!
 その時、再びあの感覚が戻ってきた。例えるなら、
 世界の歩みが遅くなった。

 俺は冷静に考える間を得て、思い切り首を左にそらす。
 ヒュン! ガッ!
 ・・・ナイフが通り過ぎ、何かに刺さった音がした後、俺は恐る恐る首筋や顔を触ってみる。
「・・・どこにもかすってないか」
「うわぁあああ、・・・ガハッ!?」
 体の無事を確かめ終わったとき、創造神の狂乱の声が突然止んだ。
 立ち上がり意識を目の前に戻すと、泡を吹いて創造神が倒れていた。
 その傍にはノフィーネの姿が、その手にはあの殺人料理が。
「ショック療法って、ホントに効くんだね」
 よい子は真似するなよ・・・。創造神が起きたとき、まともな状態でいたらいいんだが・・・。
 朝から疲れるな、と思いつつ、俺は椅子に座ろうとしたが、ふと横からの視線に気づく。
「どうした時神。おかわりならノフィーネに頼めよ」
 と、楽に言ったのだが、返ってきた言葉は、こいつにしては案外、真面目な声色だった。
「・・・さっき妙な感覚を感じたであろう?」
「・・・唐突に何を言って・・・」
「いいから答えよ」
 今まで聞いてきた、こいつの声の中で、一番冷たい声色、そしてにらむような視線だった。
 それに押された・・・というか、俺は雰囲気的に答えざるをえなかった。
「・・・まぁ、まるで時の流れが急に遅くなったような・・・そんな感覚があったな」
 それを聞いた時神に、少し声の温かみは戻ったものの、物騒な雰囲気は変わらずにあった。
「御前はその力の正体を知っておるのかの?」
「正体? 『命断』の力の一部だろ?」
 俺は、なにを聞いているんだ、といった感じに言う。
 が、俺の考えは違っていたらしい。
「創造神から聞いたがの、その『命断』とやらとは違うものじゃ。ま、きっかけではあったかもしれんがの」
 時神がやけに饒舌だ。
 さっきから一度も湯のみに口をつけてないんじゃないだろうか。
「それなら、なんなんだこの力?」
「『刹那の延長』」
 ん?
「その力の名じゃ。劾煽(がいせん)の奴はそう呼んでおった」
 ちょっと待ってくれ。
「劾煽ってだれだ?」
「なんじゃ、久郎。御前は己の先祖の名も知らんのか?」
 先祖・・・って言うと。
藤草劾煽(ふじくさ がいせん)。御前の先祖であり、妾を負かした男じゃ」 そういや昨日も言ってたな。
「先祖というと、俺のどのくらいの爺さんだ?」
「そんなこと妾は知らぬ。後で家系図でも見ればよいじゃろ?」
 んなものあったかな・・・?
「しかし、御前がそれを使えるとは・・・」
 なんだか感慨深いものがあるようだ。
 野暮かもしれんが、きいてみる。
「『刹那の延長』・・・だっか? 結局なんなんだ? 説明ぐらいしてくれよ」
 話をふってきたのは時神からだ。これをきく権利ぐらいあるだろう。
「お? おぉ。そうじゃな・・・」
 時神は意外にすんなり口を開いた。なんとなく雰囲気も戻ったような気がする。
「有り体に言うと、体感時間を遅くする力じゃな。感覚を鋭くすることで時がゆっくり進むような錯覚が起こるのじゃ」
 ふーん・・・。こういったファンタジーな話の中では、まあまあ分かりやすい話だった。
 が、疑問点は少なからず出てくる。
「その力は魔術なのか? というか、何でそんな力を俺が使えたんだ?」
「二つも同時に質問するでない。答えにくいじゃろが」
 とか言いつつも、ちゃんと答えてくれる時神。
「『刹那の延長』が魔術かと言われたら、正直、微妙じゃのう。呪文とか魔法陣を使うわけでもないが、実際、魔力を糧に感覚を鋭くしておるようじゃしの」
 魔力・・・。何か思い出しそうなんだが・・・。
 そうだ、なぜか減っていた俺の魔力。
 俺は隣で静かに話を聞いていたノフィーネにきく。 ・・・そういや思ったんだが、こいつ俺が他の奴と話してるときは、とことん黙ってるな。
「なあ、確か昨日やった実験みたいなので、俺の魔力がどうこう・・・」
 そこまで言うと、ノフィーネも分かったようだ。
「あ、そっか。それは多分、久郎君が思ってる通りだよ」
 つまり、昨日の俺の魔力が減っていたのは、『刹那の延長』を何回も発動させていたから、ということか。
「何かに納得したようじゃが。話を続けてもよいのか?」
 あ、すまなかった。どうぞ続けてくれ。
「こほん。で、二つ目の質問についてなのじゃが。その力はおそらく、藤草の血によるものじゃ。現に、他の劾煽の子孫の中にも、それらしきものを使う奴がおった」
 血というのは曖昧な表現だな。つまり、この力は遺伝性だ、と言いたいんだろ?
「久郎の思った通りじゃ」 ・・・だから、なんで俺の考えてることがわかるんだ?
「神としての条件の一つに『簡単な読心術』というものがあるからの。それぐらい朝飯前じゃ」
 また読まれた・・・。そんなに顔に出てるか俺?
「むしろ雰囲気に出てるのう。わかりやすい奴じゃ」 カラカラと、変わった笑い方をする時神。そういや、さっきの物騒な雰囲気が自然と薄れてきたな。
「しかし、血は薄れるものじゃ。藤草の者たちも、代が変わるごとに『刹那の延長』の効力を弱めていった。・・・いや、むしろ劾煽の力が強すぎたのかもしれんのう」
 とても懐かしそうに言う時神。特に最後の方には、何かの感情が含まれているのを感じた。
 さらに、時神は続ける。「とにかく、かつての劾煽が使うような強力な『刹那の延長』を使える者は皆無じゃった。御前までは」
 あやうく、最後のフレーズを聞き逃しそうだった。「ん、・・・俺?」
「そうじゃ。さっき御前がフォークをかわした時の力は、劾煽のものと同等じゃった」
 なんか誉められたような気がするが、とりあえず謙遜させてもらう。
「いや、でも俺はたったの数秒ほどしか使えてないぞ」
 しかも、この数秒というのは俺にとっての体感時間だ。実際の時間にすれば、一秒もないかもしれない。 しかし、謙遜というのは、否定されるのがお約束だ。
「当たり前じゃ。人間がそれ以上長くできたら化け物じゃぞ。歴代の者たちができたのは一瞬ぐらいじゃ、劾煽や御前みたいな奴がそうそういるものか!」
 やや興奮気味に時神が言う。なんか怒ってるようにも見える。
 しかし、えらい言われようだ。俺とその劾煽爺さんは化け物かよ。
 というか、なんでそこまで熱く語るんだ? ・・・もしかしたら。
 思い切ってきいてみる。「なぁ、もしかしてお前が負けた理由って、『刹那の延長』のせいなのか?」
「ふん、そんなものに妾は負けぬわ。そのぐらい妾にもできるしの。そもそも、妾は時神じゃぞ。同じような力でも妾の方が強力じゃ!」
 今度は本当に怒ったみたいだ。負けたこと気にしてるのか?
 そこで時神は湯のみに口をつけた。どうやらこれ以上、話す気がないらしい。 ま、俺も食いかけだったしな。

 俺も目の前の朝食に集中しようとしたが、
「・・・どことなく、劾煽と、似ておるな」
 ふいに、ボソッと時神が言葉をもらす。
 と、次の瞬間。
 バンッ!
 時神がテーブルを叩いて立ち上がる。
 ノフィーネ共々、何事かと思って見ていたら、時神はこう宣言した。
「そうじゃ! 久郎、どうせ御前はその力を自由に使えておらんのじゃろ?」
 ・・・まぁ、そうだな。危機が迫ったときだけというが・・・。ちなみに、何でわかったのか、というのはきかないことにする。どうせ神様だからと返されるに違いない。
「てか、急になんだ?」 という俺の問いは無視されて、
「ならば、妾が御前に『刹那の延長』の使い方を手ほどきをしてやろうではないか」
 にやけた顔で時神が言う。つまり、なにか裏があるってことだ。
「そして妾と勝負するのじゃ!」
 ・・・裏ぶっ飛びすぎ。
「どこをどう通ればそうなるんだ!?」「劾煽から受けた妾の屈辱を、同じ力を持った御前に勝つことによって、はらす!」
「無視か! しかも、関係ないところのしわ寄せが俺に来た!?」
「そう決まったら・・・」
「いや決まってないから!?」
 まずい、ここまで振り回されたら取り返しようが・・・。
「『時間停止』!」
「っつ!」
 ・・・・・・。

     C

 え〜、ノフィーネです。今、時神様の『時間停止』を受けて固まった久郎君を、時神様が外に運び出しています。
 創る方の神様はまだ泡吹いて寝てます。今日中には目を覚まさないかもしれません。
 とにかく、僕も外について行こうと思います。


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