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Cの3話「バイオアム」
「うぅ・・・、こんな高級店じゃ、逆に落ち着かないよぉ。・・・マナーとか分かんないし」
 案内された席についたノフィーネが、そんな不平をもらす。
「ここはそんなにマナーを気にする必要はない。・・・というか、さっき、ぜんぜん話に入ってこなかったな」
 まるで借りてきた猫のような静かさだった。
「だって、久郎君が私の知らない人と話をしてたし」
 とは言うが。
「・・・いや、俺とお前も充分初対面なんだが・・・」
 なんで、こうまで打ち解けた感があるんだろうか?
「そういえば、そうだね。なんか、昔からの仲のように接してたよ。大体、今日クリスマスに洋服を買ってもらって、イタリアンの店で食事って・・・、なんだかすごく、こ、恋人みたいだったよ・・・」
 言ってる途中で恥ずかしくなったのか、最後の方はかなり小さな声になっていた。
 そういえば、何でここに来たんだったかな・・・。 ・・・思い出した。この話はこっちから切り出そう。
「なぁノフィーネ。ずいぶんときくまでに時間がかかったが、きいていいか?」
 さすがにいきなりか・・・。
 しかしノフィーネは、このタイミングで俺が言うことを予想していたようだ。
「いいよ。どっちからにする?」
 どっちから、か・・・。
「・・・それじゃあまず、お前の腹の傷についてから頼む」
 こっちを先にしたのは、・・・ノフィーネがいったい何者なのか、を確定させておきたかったからだ。
「うんいいよ」
 ノフィーネはコップの水を少し飲み、少し間を空けてから、ゆっくり話し始めた。
「先に行っておくと、ボクのあの傷は手品や劇の類じゃなくて、本当にホントの傷だったよ。でも今はない。それはさっき久郎君も見たから分かってるよね?」
「あぁ、確かに傷はなかった。だが、血はベットリと付いていた」
 あの血に見えたものは、間違いなく血だ。偽血糊なら固まったりはしないし、ケチャップなんかは論外。絵の具にも見えなかった。
「そうだね。それじゃあ、『鉄骨による傷は本物だった』『後で見ると、傷がなかった』、これらの事実からくる結論は?」
 考えさせているのか・・・。・・・しばらく黙考する。 二つほど思いついた。
「その二つの間で入れ替わったとか・・・」
「そんなことができたと思う?」
 思わない。だからこそ、先に可能性を潰したかった。
 俺の真の結論はこっち。
「普通なら思考停止の結論だが、これしかない・・・。つまり・・・『魔法』かなんかか?」
「へぇー・・・、意外だな。わりとあっさり、その結論を出したね。普通の人なら全否定するのに」
 俺が呪いを信じているのに、魔法を信じないのは変な話だからな。 ・・・それに、今思うと魔法には少し心当たりがあるような気がした。 確か爺さんといたときだったはずだが・・・よく思い出せない。
 考え込むわけにもいかないから、話を続ける。
「その反応からして、どうやら正解みたいだが・・・」
「うん、八割くらいは正解」
 まだ二割あるのか・・・。
「とりあえず整理すると・・・」
 ノフィーネの説明によると、この世界には普通の人たちが気づいてないだけで、魔法・・・正確に言えば魔術が存在していて、魔術師のような者も少なからずいるという。
「で、僕の傷が治ったのは、『バイオアム』にある力の一つによるものなんだよ」
 バイオアム?
 ・・・また新しい単語が出てきたな。
「Basic Intelligence Of the World And Magic。略してバイオアム。さらに、バイムって略す事もあるよ。意味は『世界と魔術の基礎情報』。バイオアムは世界のプログラム・・・って言えば分かるかな? えーと、パソコンの中身に基盤があるよね? あんな感じ、って思ってくれれば多分いいと思う」
 ・・・分かったかどうかは微妙だ。
「さらに、バイオアムには、浅層、中層、深層、の三つがあるんだけど、それぞれ役割が違って・・・」
 ・・・頭が痛いな。
「まずは浅層。これには占いや呪いなんかの簡単に出来る便利な魔術が刻まれている。起動には魔法陣や呪文や動作を使うから、たまに偶然普通の人が起動させてしまう事もあるんだけどね」
 呪い・・・。まさか、と俺は自分の呪いを思い返す。まさか、俺の何かがそれを引き起こしたのか?
 いや・・・人を殺すことが占いと同列の、簡単な、に当てはまるのか・・・?
「それと、回路が焼き切れるように、バイオアムも焼き切れるんだけど、浅層バイムは焼き切れやすい代わりに、修復もされやすい特徴があるんだよ」
 そんな話を聞いているうちに、真田さんが前菜を持ってきた。とりあえず食べながら続きを聞く。
「次に中層バイム。これの起動には魔力が必要だから魔術師にしか使えないけど、火球や雷撃といった殺傷性のあるものが刻まれていて、俗にこれらを魔術の一つとして、バイム魔術って呼ばれるんだけど、魔力を注げばいいだけだから魔術かどうかは怪しいと僕は思う」
 俺は前菜を平らげながら言う。
「俺としては、火球なんかが撃てる時点で、魔術でいいと思うが・・・」
「でも、久郎君はただ剣を振り回すのを剣術って呼ぶ?」
 そう言われると確かに、そうなのかもな。
「中層バイムは、たまに使用数が多くて焼き切れることがあるんだけど、浅層バイムみたいにすぐには修復されないから、使えないことも多いのが特徴」
 前菜を食べつつも、詰まることなくしゃべるノフィーネ。
 ・・・なんだか眠くなってきた・・・。
「眠そうだね。最後に、深層バイム。これは他のとは違って人には手が出せないけど、他のバイオアムより重要な部分を担っているんだよ」
 ・・・。
「他のバイオアムが、パソコンでいう便利機能のプログラムだとしたら、深層バイムは基本システムのプログラム」
 ・・・・・・。
「過去の科学者たちが発見した法則や、自然サイクルの仕組み。さらには中層や浅層が起動する仕組みや、魔術法則なんかも全て。この世界が存在するために最低限必要なものを刻んだのが、深層バイム、って・・・分かった?」
 ・・・・・・・全然。さっき持ってこられたパスタを平らげながら聞いてたけど、半分も理解できなかった。
 ところで、何でこんな話に?
「確かお前の腹の傷の話じゃなかったか?」
「あ、それが今の話と関係あるんだよ」
 とすると、
「中層のバイオアムを使ったバイム魔術・・・とかいうやつで回復した、ってことか」
「残念ながら不正解だよ」
 はずれか、それなら、
「浅層のバイオアムか? だが体の回復ってのは、そんなに簡単できるものか?」
「うん。浅層バイムじゃ無理だよ。それに中層バイムでも、自己回復を促進させることぐらいしかできないんだよ」
 ・・・となると、だ。
「今の話、関係ない・・・」
「ううん。もう一つあるでしょ。バイオアム」
 もう一つ・・・か。
「そう、深層バイム。そこには僕の『不老不死』が刻まれているというわけ」
 ちょっと待て。
「さっき、深層バイムは人が手出しできないって・・・」
「人にはね。でも、この世界を創った神様、・・・創造神になら可能なんだよ」
 創造神・・・とてつもなく飛んだ話になったな。
「昔、神様がね、この世界に対して恒久的に働きかけるための駒が欲しいと思ったらしいんだよ。それで、たまたま死にかけていた僕が選ばれて、かねてから創ってあった『不老不死』のバイオアムの対象を僕にした、ってわけ」
 ・・・まぁ、何にせよ。ノフィーネは不老不死・・・ってわけか。
 テーブルの上には、デザートが置いてある。・・・そう言えば、メインはいつの間に食ったのだろうか。話を理解するのに必死で、食べた記憶がない。
「不老不死ってことは、前の十字軍がどうの、という話は本当なんだな」
「うん。体はあの時のまんま。永遠の十八歳ってよく言うよね。記憶とかは、妙な仕組みで二百年分以上あるけど」
 そう言えばテレビで言ってたな。脳には約二百年分の記憶を蓄積できる、と。
 忘却するのを含めても、さすがに普通ならオーバーしているか。
 ・・・しかし、ノフィーネが、あの時、と言ったとき、なんかもの悲しそうで、つらそうだったな。
 ま、今ではいつも通りの笑顔に戻って、デザートに舌鼓を打ってるわけだが。何かあるんだろうか?
「このデザートおいしいね。こんなの食べたの久しぶりだよ」
「ホントにな。もしかしたら、昔よりもうまいかもしれん」
 さて、時計を見ると・・・九時半か。
「そういやまだ、俺があの場から連れてこられた理由を聞いてなかったんだが・・・」
 でも、もう食い終わってしまったし、そろそろ帰らないと・・・。
 ん? そう言えば俺。つい何時間前まで、死ぬだの何だの言ってなかったか?
 正直、あまり帰るつもりなんてなくて、悔いを残さないために来たんじゃなかったか? ・・・まぁ、今でも呪いの事を気にしてはいるが。
 だけど、久しぶりに他の人と過ごしたからか、それともあり得ないものを見たからか。
 もしくは、死の恐怖を感じたからか。
 今、俺の中に死ぬという気は無かった。・・・本当に勝手な話だろうな。
 さて、長い説明の後の長い回想はこれで終わりだ。
 とにかく疲れた。早く帰りたい。
 俺は会計を済ませようと席を立つ。
「あれ? 理由を聞かないの?」
「そうは言っても、これ以上は集中力が保たない・・・。悪いが今度にしてほしい・・・」
 俺は会計をするため真田さんを呼ぶ。
 お代はいらないと言われたが、急に来て迷惑をかけたんだ。それくらいちゃんと払わせてほしい。
 そう伝えたら、あっさり受け取ってくれた。
 さて、俺はそのまま店から出る。
「ま、待って久郎君」
 後ろから慌ててノフィーネが追ってくる。そう言えば聞き忘れていた。
 店から出てすぐの所で振り返る。
「なぁ、ノフィーネ。続きの話はいつがいい? 俺は今から帰るつもりだが」
「そのこと何だけど・・・、僕も一緒に行っていいかな?」
 ・・・ん? 今なんて?
「いや〜、できたら泊めて欲しいな〜、と」
「待て待て待て待て」
 なんだこの展開?
「お前、何とも思わないのか?」
「あ、やっぱり、ずうずうしかったかな? 久郎君の親御さんも何て言うか分からないし・・・なんなら、外に居させてもらうだけでも・・・」
 いや、そこじゃない。
「今、家には俺一人だ」
「あ、そうなんだ。じゃあ大丈夫そうだね」
 いや、だから、大丈夫じゃないだろ!
「お前、異性の家に泊まって、しかも二人きり・・・何とも思わないのか?」
「あー、そこか。うん、大丈夫だよ。久郎君の事信用してるし」
 いや、信用されてもな・・・。
「ホテルとかじゃ駄目なのか? 代金なら俺が出すし・・・」
「そうじゃないよ。じゃあこう言えばいい? ・・・久郎君は命を狙われていて、僕は久郎君を守りにきたエージェントなんだ。だから久郎君のそばにいなくちゃならない」
「・・・それは事実か?」
「どうだろね? フフッ、もしかしたらそうなるかも」
 ノフィーネが面白そうに笑って言う。
 だが、事実なら俺は笑ってられないんだが。
「それに話の続き、今日中に話しておきたいし。帰り道に話させてほしいな」
 ・・・そこまで言うってことは、結構重要なことなのか・・・。
「・・・分かった。ら、駄目なのかもしれないけど。まぁ、仕方がない・・・、いいよ」
「ホント!? ありがとう! じゃ、早速行こう!」

 取りあえず俺は、なんか物凄くハイテンションなノフィーネを連れて、別荘に帰ることにした。 ・・・こんなことになったのは、
 クリスマスマジック・・・というやつのせいだろうか?
 どんなものかは知らないが。


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