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Cの17話「始動と遊戯(前)」
カタカタ・・・カシャッ。

「うーん・・・甘かったか」
 俺がメイナに平安時代について調べると明言してから三時間、・・・全く成果はあがってなかった。
「あの、久郎様。結局、なにを調べようとしてたんですか?」
 さっきからずっとそばにいたメイナがきく。ま、そばにいたと言ってもずっと俺の部屋のマンガを読んでたけど。
 さて、俺がさっきまで調べてたのは平安時代に起こったことや、それが書かれていた歴史書について。あと願わくば陰陽師や妖魔について知れたらいい、と思っていたが・・・、
「こういったものに、時神や劾煽の爺さんや榊原屋敷について、何か書かれていたりしないかと調べてたんだよ」
 見事にそんな記述は存在しなかったがな。じいさんから引き継いだハッキング技術も駆使して、やばいところも覗いてみたのに・・・。
「それは犯罪ですよ、久郎様。それに、裏世界の情報が、一個人の力で破れるようなセキュリティのところにあるわけないじゃないですか」 
 ・・・まあ、やっぱりそうか。
「なので代わってください」
 ・・・へ?
「代わってって・・・お前なにする気だ?」
「ハッキングです。私はアンドロイドですよ。情報操作は得意中の得意です」
 いや、アンドロイドがそういうものなのか俺は知らんのだが・・・、というかお前さっきまで犯罪だとか言って否定してなかったか?
「まぁまぁ、任せてください。こんな楽しそうな・・・じゃなくて、大変そうな作業、久郎様だけに任せるわけにはいきません!」
 おい、今ちょろっと本音でたよな。・・・まったく。
 仕方がない。言っても聞かなそうだし。
 俺はパソコン前の席をメイナに譲る。早速、ツールを開くメイナ。

カタカタカタカタ・・・、

 ほー、これはこれは・・・。どうやら情報操作が得意というのは間違いじゃないらしいな。
「けど、ほどほどに・・・」
「あ、久郎様。もし私の邪魔をしたら、『キャー、変態!』と叫んでノフィーネ様呼びますよ」
 ほどほどにしなくていいぞ。うん、存分にやりたまえ。・・・ホント、何でさっきまで俺、ご主人様と呼ばれてたんだ? 絶対、主従関係にねぇよ。
「・・・。」

カタカタカタカタ・・・。

 はぁ、メイナはまたパソコンに集中し始めたし・・・さて、俺はする事がなくなったな。
 粥を食ったら腹いっぱいで夕食もとる気ないし・・・。
 ま、とりあえずダイニングにでも行くか。

     C

「あれ時神に創造神、帰ってきてたのか」
 俺がダイニングに行くと、そこにはテーブルについてノフィーネお手製の夕食を食べている二人の神の姿があった。
「妾は・・・用事が済んだのでな」
 と、わずかに表情に影を落とした時神が答えた。こいつがこんな顔をしてるなんて・・・さっきの、過去話のせいだろうか。
「あぁ、俺も用事が済んだから帰ってきた。これは土産のタバラガニだ」
 タラバガニな。こいつはむかつくほど、いつも通りだな。
 てかタラバガニって・・・どこまで行ってたんだ。
取りあえず俺に手渡すな。
「せっかくお前にも見せてやろうと、冷蔵庫に入れないでいたんだが・・・」
「残念だったな。タラバガニならわりと見慣れてる」
 時期になると爺さんがよく持ってくるからな。
 創造神は残念そうにタラバを冷蔵庫に入れる。
 そういや・・・今ってタラバガニの時期だったか? うーん・・・そうだったような、そうでなかったような。
「あれ、久郎君。ご飯食べるの?」
 キッチンから例によってエプロン姿のノフィーネが出てきた。
「いや、顔を出してみただけ・・・って、ノフィーネ。その手にあるのはなんだ」
「え? 私のお夕飯だけど」
 いや、それは見ればわかる。いつぞやの創造神の料理じゃないんだから。
 それよりも、さっきあんだけ粥を食ってまだ食べるのか。
「食べ盛りなんだよ」
 不死身のせいで成長しないくせに・・・とはツッコミたかったが、なんか気にしてるっぽいので止めとく。
 む? そういや成長しないって何で俺が知ってるんだ? あぁ、確かさっき俺が寝てる間にノフィーネが言ってたと、後でメイナに聞いたんだったか。
「ま、いいや。取りあえずもう寝るから」
「え? 久郎君、まだ八時前だけど?」
「いや、自分でも自分の体がよくわからないが、もう疲れがピークに達してるらしい」
 さっきたっぷり寝ていたが、実際は『残知回想』で映像を見てたわけだしな。
「ま、明日早く起きるから、問題はない」
 と、付け加えておく。
「そう? なら、ゆっくり休んでね。また明日」
 そうノフィーネの笑顔に見送られながら俺は自室へ戻る。
 っと、そういや、確かメイナが居たんだったか。・・・うーん、まぁ寝てるだけなら別に邪魔にはならんだろ。それよりあいつ、はかどっているんだろうか?
 と考えている内に自室の前にたどり着いた。俺はなるべく静かにドアを開ける。

キィ・・・。
カタカタカタカタ・・・。

〈メイ〉
 ・・・ってな感じで、ご主人様が私を束縛しようとしたわけよ。
〈ナシっち〉
 ほぅ、それは興味深い。それで、その後は?
〈メイ〉
 でね、・・・なことがあって、最後にご主人の脳天にかかと落としが・・・。
〈クロウ〉
 メイさん、ちょっと後ろ向いてください。


 メイナが振り向く。
「・・・。」
 俺は携帯片手に、メイナにきく。
「何やってるんだメイナ」
「・・・。」


〈メイ〉
 お、落ち着いて話し合おう。これには深いわけが・・・。
〈ナシっち〉
 お、謎の人乱入。詳細希望。
〈メイ〉
 そんな場合じゃ、あああああああ
〈ナシっち〉
 どうした!? これは・・・逝ったかな。


「さて・・・どうしてお前は掲示板なんか開いてるんだ?」
「えーと、それは・・・、昔々あるところに・・・」
「俺は昔話を聞くつもりはないが?」
「・・・いいじゃないですか別に、コミュニケーションは大切ですよ」
「今は他にする事があったんじゃないのか? 結局どうなった」
「・・・ボウズです。・・・さらば」
 サァッ、と粒子状になって消えるメイナ。・・・情報状態か、気まずくなって脳内に消えたな。
 まぁ、いいや。俺は数時間前まで寝ていた布団に、この服のまま着替えずに再び潜り込む。中はあまり暖かくなかったが、睡魔のせい・・・というかおかげで俺はすぐに眠りにつくことができた。

     C

 どこかわからない、闇に包まれた空間に、二つの人影があった。
「・・・破壊神様のご光臨まで後少し・・・後少しで世界が変わる・・・」
 老成した雰囲気を持つ一人が、天を仰ぐ。
「ええ、そうですね。しかし・・・気がかりな事が一つある。・・・そうですよね、我が主、ベロ・ランザ卿」
 と、もう一人がきく。
「うむ、・・・創造神。奴に何ができるか分からんが・・・動いているのは確かな事実なのだよ。油断ならん相手だ」
「なら、こちらも動きますか?」
「・・・いや、今はまだ、刀王も槍王も堕天使も動けん。信者達を動かすには早すぎる」
「・・・なら、我が輩達が動こうか?」
 先程までと違う声音、いつの間にか、人影が一つ増えていた。
「・・・吸血鬼の王、ハザードか。音も無く忍び寄るとは、少々無礼だとは思わないか?」
「これは失礼、ベロ・ランザ卿。それは我が輩の癖なもので。ところで・・・破壊神様のために障害を排除するため、餓えた吸血鬼どもを動かそうと思うのですが、いかがで?」
「・・・戦争にはまだ早いぞ」
「心得ています。そう数は出しません。二、三匹程度、優秀なのを。・・・場合によっては我が輩自らが出ましょう」
「それが心配なのだが・・・、まぁいい。なら行け」
「はっ」
 人影が一つ飛び立ち、残った二人もやがてその場を去った。

     C

「街ですよ〜♪」
 妙にハイテンションなメイナが叫ぶ。・・・周囲の視線が痛い。
 さて、メイナが叫んだ通り俺たちは街に来た。あの後二日ほど雪の日が続き、その間メイナが『暇暇麻痺麻痺』とか言ってうるさかったが、今日12月28日。ようやく天気は快晴。見事ショッピングをする運びとなった。ちなみに今は午前九時半。
「メイナちゃんはしゃぎすぎたよ」
 とか言ってるノフィーネも顔が浮かれてるがな。ノフィーネ自身も二日間、別荘にこもりっぱなしで気づかれしてたんだろう。その間、暇つぶしで遊んでいた時に、ひと騒動があったりもしたが、今話すことでもないので省略する。ま、本当にどうでもいいことだし、もしかしたら言わないまま終わるかもしれない。 
 ちなみにいつの間にか『ちゃん』付けでメイナのことを呼ぶノフィーネだが、どうやら昨晩の内に仲良くなったらしい。
 てことは、俺が寝ている間でも、メイナはモード変更ができるってわけか。
「しっかし、今朝になっていきなり『街に行く』ってのにはびっくりしたな。昨日のうちに話しといてくれよ」
 とは、創造神の文句。時神も無言ではあるが、きっと同じことを考えてるだろう。
 どうやらあの二人は、この神たちに今日について話すのを忘れていたらしい。 まぁ、そんなに怒っている様子でもないようだが。 そんなこんなで、朝起きたら早速準備をさせられて、創造神がどこからか持ってきた車に乗って、五人全員で街に来たわけだ。
 さってと、まずすることは・・・、
「ゲーセンに行きましょう!」
「ショッピング行こうよ」
「ん? 食料の買い出しではないのか?」
「・・・茶屋かの」
 ・・・見事にバラバラだな。まぁ、今日1日丸々ここで過ごす予定だから、全て行くことも問題はないだろうけど。なるべく効率がいい方がいい。
 取りあえず、二班に別れる事にする。
 目的のない創造神と、茶屋へ行きたい時神には、買い出しを頼んで、その後自由行動に。
 俺たち三人は、ゲーセンのあるショッピングモールへ向かうことにした。


 久郎たちと別れ、最寄りのスーパーへ向かって数分、創造神は唐突に時神に話しかけた。
「・・・おい、時神。変な気配を感じないか?」
「・・・そうかの?」
「あぁ、街に入る前・・・屋敷を出て数分ぐらいのところから何となくは感じていたんだが・・・」
 創造神は後ろに振り返る。無論、怪しい人影など見えはしない。
 だが、気配に微かに動揺のような揺らぎがあった。これは確定だ。
「尾行されているな。襲ってくる気配はないようだが」
「・・・そうじゃな」
 しかし時神は気のない返事、上の空とでもいうか。
「・・・どうしたんだ? 数日前からやけにブルーだが、何かあったか?」
「いや、何もないのじゃ・・・。・・・心配かけてすまぬな、創造神よ」
 ・・・ダウトだな。こういう事を言うやつは大抵何かを抱えている。
(こいつの場合・・・破壊神が逃げ道みたいなものだからな。このままはまずいか)
 そう確信した創造神は、買い出しの後、時神の気分転換になるような所へ行くことに決め、警戒しつつさっさと足早にスーパーへと向かう。
 ・・・だが創造神は、神としての勘から、それはきっと無駄になるだろうな・・・と、そう感じていた。

     C

 現在、俺たちはショッピングモールに向かい歩いてる最中なのだが・・・、
 うーむ・・・、これはまずい事態だ。
「聞いた話なんだけど、吸血鬼って、ホントは日光に弱くなくて、ニンニクも十字架も大丈夫なんだって」
「そうなんですか? へぇー・・・」
 と、俺の両脇にいるノフィーネとメイナは、普通女の子の会話にはならないだろうことを、のんきに話しているわけだが、・・・俺はさっきから気が気でならない。
 少し忘れがちだったが、片や不死身の力で驚異の美白肌、その上アイドル並みに整った顔の女性。片やその女性を基に創られたアンドロイド。
 つまり両方とも美人であり、俺は両手に花状態なのである。
 いや、問題はそこじゃない。問題は・・・やはり、周囲の視線が二人に向くということと、
「ねぇ、良かったら。俺たちと・・・」
 ドスッ、ガゴッ!
 ・・・こういう浮ついたやつらが近寄ってくることだ。
 とりあえず、裏拳と回し蹴りをそれぞれに浴びせ、気絶させる。自分でも忘れがちだが、一応俺は良いとこのお坊ちゃんで護身術は心得ているんでね。持久力はないが力はある。
「お〜、久郎君すごいね」
「久郎様、以外に強いですね」
 と二人は、一時、感嘆の声を上げるが、すぐに世間話に戻る。まぁ、この二人なら自分で相手をのしてしまうこともできるんだろうが。
 ・・・とまぁこんな感じで、さっきからこの二人、ひっきりなしにナンパされ、今ので6,7人目だ。・・・俺がついているにも関わらずよくも、まあ。
「久郎君が頼りなく見えるからじゃないかな」
「久郎様がボーっとしてるからです」
 ・・・二人からもこう言われると、少ししょげるぞ俺・・・。
 大体、ボーっとしなけりゃいけないのは、おまえ等が二人だけで話し合ってるからで・・・、って聞いてないよなやっぱり。
 二人は自分たちでズンズンと先に進むので、俺も仕方がなく並進する。
「ヘイ、彼女! 俺とグボファ・・・」
 ・・・はあ、やれやれだ。これで八人目。
 早くショッピングモールに着かないものか・・・。
 と、考えていたら着いていた。体感時間は嫌なことをしている間、遅く感じるものだと思っていたが、そうでもないのか。・・・まさか、時神が・・・なわけはないか。
 さて、俺は正面にそびえ立つショッピングモールを見上げる。
 たしか創業何十周年とかいうこの老舗デパートは、地上七階ほど。
 田舎でもなく都会でもないこの辺りにしては、わりと大きめなところだと思う。
 無論、中には健全なゲーセンもあり、ブティックなども入っている。
 人が多いのが俺としては気になる点だが・・・そんなものを気にしてはいられない。
「で、到着したわけだが、まずは何を?」
「身軽なうちにゲーセンですよ! 久郎様!」
 聴き終わるか終らないかぐらいにメイナは即答。
「ノフィーネは?」
「僕もそれでいいよ。できればUFOキャッチャーとかプリクラとか・・・あとコインゲームもやりたいかな」
 へえ、ノフィーネはゲーセンに行くことに案外乗り気なようだ。
 まぁ、誰にでも楽しめるのがデパートなんかに在るゲーセンだし、俺達ぐらいの少年少女ならなおさらそうだろう。・・・ま、実際のところノフィーネの歳は老人というレベルをはるかにすっ飛ばしてるらしいけどな。
 そんなノフィーネの意見もあって、メイナはますますヒートアップ。
「そうと決まればゲーセンですゲーセン!! オンラインゲームもやるんです!」
 ああ、はいはい。分かったから少し落ち着け。子供かお前は。
「生後約三日です!」
 ・・・まぁ、それもそうだが。思えばこの二人、外見じゃ一緒くらいなのに、実際の年齢がものすんごくかけ離れてるな。だからと言ってどうというわけでもないが。ノフィーネは年齢が止まってるらしいし、メイナはアンドロイドだから初めっからこの年齢で生み出されたと言える。つまりこの二人に実質的な歳の差はないというわけだ。
 まぁ、だからと言ってどうというわけではないが。
「久郎君、早く行かないと、メイナちゃんが暴走しちゃうよ」
 言われなくてもわかってる。
 とりあえず中に入ることにする。開く自動ドア、確か中に入って右に曲がってまっすぐ行けばエレベーターっと。たしか、ゲーセンがあるのは五階だったはず。俺は上行きのボタンを押す。
「ゲーセン♪ ゲーセン♪」
 一体、ゲーセンのどこに、メイナの琴線にふれるものがあったのか。
 チン。
 お、エレベーターがついたようだ。
 中に人はいない。まぁ、こんなに早く来てすぐ帰るやつなんていないか。
 俺は五階のボタンを押す。エレベーターは途中の階で止まることなく、すんなりと五階についた。
 あとはエレベーターから降りてまっすぐ進んで左に曲がれば・・・さまざまなゲームが出す音の不協和音に満たされたゲームセンターに到着っと。
「おおー! これが夢にまで見たゲーセンですか!」
 と、隣でメイナが目をきらきらと輝かせている。・・・いつもこんな感じで無邪気なら可愛げがあっていいんだがな。黒いからなこいつ・・・。
 とか思ってたら早速ふらふらっと、メイナが入っていく。って、あいつ金持ってないだろうに。・・・あ、戻ってきた。
「ん」
 ・・・俺に向かって手のひらを出してきた。・・・可愛げねぇ。
 なんとなく目をそらし、ノフィーネの方を見る。
「あ、久郎君、私にも」
 また手のひら。
 ・・・ま、まあ二人とも金を持ってないってのは知ってる。俺が出すしかないってのも分かってる。
 だけど、なんか出し渋ってしまうのは・・・俺の心が狭いからではないはずだ。
「「はやく」」
 ・・・しくしく。金をたかられている気分だ・・・。
 しょうがなく財布を開く・・・あっ。
「・・・・・・」
「どうしたの久郎君」
 俺の様子に気づいたノフィーネが俺の顔を覗いてくる。
 そして財布に視線が移る。
「あ、・・・」
 ・・・なんで気がつかなかったのだろう。多分あれだ、今朝はバタバタしてたから気が回らなかったんだな。だから、これは仕方がないことだ。
「・・・く、ろ、う、さ、ま・・・!」
 うわっ、メイナいつのまに! グ、グェ・・・。
 メイナの手によって、一気に俺の首が締めあげられる・・・。
「これはどういうことです! 財布の中にカードしかないじゃないですか! 紙幣は!? 硬貨は!?」
 ぐ、首がどんどん締めあげられていって・・・・・・、し、しぬ・・・。
「わぁ! メイナちゃんストップストップ! 久郎君が死んじゃうよ!?」
 その後、ノフィーネの必死の説得によって、俺は三途の川の船頭に料金を渡すか渡さないかぐらいで何とかこの世に戻ってきた・・・。しっかし船頭の奴、「カードでもOK」なんて言ってたが。渡さなくて本当に良かった。
「で、どうしてくれるんです久郎様。ゲーセンを楽しみにしていた私の心を踏みにじりましたね!」
「お、落ち着いて、メイナちゃん。久郎君がお金を引き出してくれれば大丈夫」
 いやそれはそうなんだが、運の悪いことに下のATMで引き出せそうなカードはない。
 俺の財布は、店ならともかく、実際の紙幣や硬貨でないと意味がないゲーセンには相性が悪いようだ。
「うー・・・うがー!」
「ちょっ、まっ、メイナ! なんとかする、なんとかするから! ノフィーネちょっと助けてくれ!」
 暴れるメイナをノフィーネに抑えてもらいつつ、何か策を考える。
 何か、何かないのか! 俺の命がかかってるんだよ!
 俺はポケットの中を探る。えー、別荘の鍵・・・って、これは壁が壊れてるからほとんど意味無いんだよな。一応中に入ってきた相手を自動で捕まえる、的な魔術の魔法陣を創造神が損壊部に描いていたから、防犯の面では大丈夫らしいが・・・、ってそうじゃない!
 次に、これは・・・ペンダント? ・・・あぁ、ノフィーネにもらったやつか。今まで全然ふれなかったが、昨日までは肌身離さず付けていたんだ。が、・・・今日は何度も言うがバタバタしてたから、こうやってポケットにしまっといたけど。・・・って、大切な品だけどこれも違う!
 他には・・・携帯。・・・携帯?
 俺はコイン貸出機の方を見る。さらにUFOキャッチャーも見て俺は胸をなでおろす。
「メイナ! 大丈夫だ! 携帯でコインも買えるしゲームもできる!」
「うが・・・。うが?」
 おっと、言語中枢が破綻寸前だったようだ・・・危ない危ない。
 そう、解決策はあれだ。ケータイがお財布になるってやつ。ここのゲームや貸出機にはそれ用の四角いやつが付いている。ふー、対応してて助かった。
 まぁ、問題点は対応していないのがやれないってことだが・・・いたしかたないだろう。
 若干、メイナはしぶるかなとも思っていたが、わりとすんなり了承してくれた。
「で、なにからやるんだ?」
「うーん・・・まずはあれ」
 とメイナが指さしたのは、なにやらカプセルみたいなもの。どうやらあの中に入ってやるものらしく、メイナによるとあれは全国大戦ができる多人数参加型オンラインゲームなんだそうだ。多分バトルするやつだろう。
 早速、四角い部分に携帯をかざすメイナ。そして中に入る。
 ・・・しかしこれは、人のやってる映像が見れなくて暇だな。携帯もメイナが中に持って行っちまったし。
「あ、久郎君。こっちのモニターで見れるみたいだよ」
 ノフィーネが指さす。へぇ、知らなかった。・・・えと、これがメイナか? ・・・なんか獅子奮迅の働きしてるんだが、あいつこれ初めてじゃなかったっけ。
 数分して、中からメイナが出てきた。
「ふぅ、私もまだまだだなぁ・・・」
 とか言いながら額の汗を拭っているが、俺が見た中ではお前が一番敵を多く倒していたと思うんだが? おかげでお前のチームは圧勝だったぞ。それとも夢中で気付いてなかったのか?
「んじゃ、次は・・・」
「あ、今度は僕のやりたいものやってもいい?」
 と、ノフィーネは一つのゲーム台を指さす。あれは・・・リズムゲームの金字塔と呼ばれしもの『タイタツ』だな。
 早速携帯をかざして、俺とノフィーネが二人つく。
「あ、久郎君。言っておくけどこれは勝負だからね」
 と隣から宣戦布告。
「あぁ、わかった」
 と俺。ところで難易度はどうしようか。
「やっぱ最高難易度ですよここは!」
 と、横からのメイナの言葉で、俺達は最高難易度でプレイすることになった。
 そして曲を選ぶ。どうやら三回までやれるらしいので、じゃんけんで勝ったノフィーネが二曲、俺が一曲選ぶこととなった。
 まずは、ノフィーネの選曲。
「ここは王道で」
 とノフィーネが選んだのはシリーズ初期からある最もポピュラーな曲。 張り詰める空気、なにゲームなんかにマジになってるんだろう、なんて少し思わないでもないが、これは勝負。負けられない戦いだ。
 ゲームからの始まりの合図。そして流れ出す曲。
 最高難易度の中でも割と簡単なこの曲を俺は必死になってたたいた。横を見ている余裕はないが隣のノフィーネもきっと必死なはず。なぜならこれは、勝負だから。

 ダン、ダダダン! ・・・。

 ところどころミスはしたが、最後の方に連続して叩けた俺の得点はわずかにノフィーネの得点を上回った。
「よし、まずは俺がリードだな」
「ふっ、まだ一曲目だよ。勝ち誇るのにはまだ早いよ」
 二曲目、俺は有名なアニソンを選択。・・・したつもりだったのだが、隣のノフィーネは何の曲か知らないようだ。・・・メジャーだと思うんだけどな、これ。
 始まりの合図に再び張り詰める空気。流れ出す曲・・・って、ちょっ、まっ!
「え、ちょっ、叩けな・・・」
 ちょっ、叩くやつが多すぎ速すぎ!
 隣のノフィーネも同じ様子で、二人そろってテンパっていた。

 ダン、ダダダダダダ・・・。

 ・・・最後はもう適当だった。
 得点もひどいもので、それでもわずかにノフィーネの方が上だった。
「くそっ、やるな!」
「ふふふ、なめたら痛い目見るよ、久郎君」
 そして三曲目・・・、
『また、遊んでね』
 ・・・? 突如、ゲームから聞こえた音声に唖然とする俺たち。
 あれ、また遊んでねって・・・、俺たちは今遊びたいんだが・・・。
「ああ、このゲームは『最大』三回やれるんです。成績が悪いと途中で終わりますよ」
 という横からのメイナの言葉。
 ・・・そういやそうだった。最近は家庭ゲーム版しかやってなかったからな・・・。
「久しくやってなかったから忘れてたよ・・・」
 と、ノフィーネも勝負が途中で終わったやるせなさからテンションがツーランクダウンしている。
 俺もそうだ、これじゃあ一勝一敗。引き分けなんかで終わるあっけない幕切れなんてつまらないもほどがある。
 だから・・・、
「「もう一戦だ!!」」
 ともに叫び、俺とノフィーネは次なる舞台、モグラたたきの前へと向かっていった。
「・・・あのー、むしろお二人の方が、はしゃいでませんか?」

     C

 モグラたたき。
 近頃は不人気であり、あまり見かけないが、知名度だけは群を抜くゲームである。
「と言うわけで、今度はこの得点で勝負だ!」
「のぞむところ!」
 ・・・ん? いつのまにこんな変なテンションになったんだろうか。これが勝負という二文字に宿る魔力の力か。
 って、今はそんなことどうでもいい。ただ勝負に勝つ、それだけだ。
 再びじゃんけんの結果、先攻がノフィーネ、後攻が俺ということになった。
「僕の華麗なるハンマーさばき・・・とくとみるがいい!」
「なんで、モグラたたきにこんなマジになってるんでしょうか・・・?」
 メイナが何か言っているが、俺たちの耳には届かない。

ピーッ!

 始まりの合図、ノフィーネは叩く、叩く、叩く!
 序盤の簡単なころを無駄にしないよう、ノフィーネは的確な狙いと反射神経で余すことなく叩いていく。
 しかし、中盤、どうみても叩ききれない数のモグラが穴から顔を出す。
(さぁ・・・どうする?)
「ふっ、いくよ! 秘技『双鎚舞踏』!」
 こ、これは! 普段禁止されている二刀流だと! 店員のいない隙を突いたのか!
 通常、二刀流ともなれば、左右二つのハンマーを全く違う動きで使うため、テンパってミスしやすい・・・。
 だがノフィーネはそれを見事に使いこなし、モグラを全て叩ききる。
 ・・・我が敵にして、恐ろしい奴だ・・・。
「だから、なんでモグラたたきがそんなハードな遊びになってるんですか・・・」
 またメイナが何か言った気がするが、暑くなってる俺たちには聞こえない。
 そして終盤、素早く出たり引っ込んだりするモグラを、ノフィーネは二本の鎚で猛烈に叩き、

 ピーッ!

 フィニッシュ!
「はぁ・・・はぁ・・・、どう久郎君。僕の見事なハンマーさばきは」
 肩で息をしながらも、得意そうな顔のノフィーネ。
 確かに素晴らしいハンマーさばきだった。得点も高くランクは『も〜こうさん』という最高ランク。・・・だが、
「まだまだだな」
 俺は言い放つ。
「・・・負け惜しみ?」
 ノフィーネはいぶかしげにきいてくる。だが、決して負け惜しみなんかじゃない。
「そう、最終局面に行くにつれて増えていく『フェイントもぐら』。ノフィーネ、お前は度々それにつられて動きを乱し、出てきたモグラの生還を何度も許した!」
「!!」
「さらに言えばラストあたり、数の多さと速さにあきらめ、狙いを絞っていたためにさらに多くのモグラを見逃した!」
「くっ・・・、でもそこまで言うんだったら、久郎君。君は僕の記録を超えられるんだよね? 越えられなきゃ、ただの負け惜しみだよ」
 ああ、分かってるさ。
 俺は無言でモグラたたきの前に立つ。
 俺はハンマーを一本のみ手に取る。というのもこの店では本来禁止されているはずの二刀流を、今ちょうど後ろに来た店員に見られるわけにはいかないからである。・・・本当にタイミングが悪い。
 だがそんなハンデなど、俺には関係ない!
 
 ピーッ!

 開始の合図、序盤はイージーミスをしないよう叩く。
「まずは、順調な滑り出しみたいだね・・・メイナちゃんどう思う?」
「私に振られても困るんですが・・・」
 俺は、叩く、叩く、叩く。今のところミスはない。
 だが、そろそろ中盤。二刀流を使いたいが・・・くそっ、店員はまだ後ろにいる。
 くっ、店員を確認する暇も俺には惜しいというのに・・・きたっ!
 一本じゃ叩ききるのは難しいモグラ配置・・・こうなったら・・・
「秘儀『一本双刀』!」
「さっきから無駄に技名が中二ですね・・・」
 とかなんとかメイナが言ってるが軽く無視。
 さてこの技は・・まず右手で奥のモグラをたたく。
「だけどそれじゃぁ、手前のモグラは叩けないね」
 ノフィーネの勝ち誇った声。
 だがな、
「あらよっ!」
 俺は叩いた反動を利用し、瞬時にハンマーを左手に向けて飛ばす。
「なんとっ!」
「うわ〜、無駄にスーパープレイですね〜・・・」
 ハンマーを受け取った左手は、ギリギリのタイミングで手前のモグラを叩く。
 これぞ、秘儀『一本双刀』。俺は秘儀を駆使しながら叩きまくる。
「そしていよいよ、終盤戦だね・・・」
 そう、ノフィーネもミスが目立った終盤戦だ。
 現在、背後に店員はいない。俺は心おきなく二刀流を使う。
 そして、最も『フェイントもぐら』が多い時間に差し掛かる。
 ここは例えプロでも危うい時間帯・・・。
「さぁ・・・どうする、久郎君!」
 フッ、決まっているだろう。
「『刹那の延長』!」
「「えっ、ひきょっ!?」」
 あー、あー、何も聞こえない、何も聞こえない。
 そして、叩く、叩く、叩く叩く!
 こうして俺は、終盤戦もミスることなく、無事モグラたたきを終えた。
「フッフッフ・・・どうだこの高得点! なんか機械がおかしくなってランクが枠外光ってるぞ」
 たぶん『ここにいると絶滅させられるので、この仕事辞めさせてもらいますbyモグラ一同』ってな感じだろう。
「うー・・・『刹那の延長』はずるくないですか?」
 ノフィーネが頬をふくらませてぶーぶー言ってるが、あえて言わせてもらう・・・。
「勝った方が正義だ! ようは勝てばそれでいい! 要約すると勝負に卑怯も何もない!」
 勝てば官軍負ければ賊軍。何をしようとも勝ってしまえば、それまでの行動を正当化できる・・・って意味だと思う。たぶん。
「くっ・・・、わかったよ。今回は僕の負けだ」
 しおしおとうなだれるノフィーネ。だが、すぐに調子を戻し。
「だけどこれは始まりにすぎない! 僕は強くなる・・・強くなって、僕は君を倒す!」
「あの〜・・・どこの少年漫画ですか、これ」
「ってことで、今度はUFOキャッチャーで勝負だ、久郎君!」
「しかも言ったそばから再戦挑んでますよ!?」
「望むところだ! ノフィーネ! 何度でもお前の挑戦、受けてやる!」
「いつのまにかお二人とも、私のテンション超えてますよね!? 私が完全にツッコミ側に回ってますよ!? もう、ついていけないので、コインゲームしてます私」
 そう言って俺から携帯を受け取り、コインを借りてくるメイナ。
 しばらくして、手に百枚ほどのコインを持って帰ってきた。
「とりあえず私、適当に回ってますから、勝負が終わったら言ってください」
 と言ってまたどこかへと行くメイナ。
 さて、それじゃあ・・・、
「勝負だノフィーネ!」
「望むところです、久郎君!」
 そうして俺達はUFOキャッチャと向かう。
 最初はチョットふざけてただけだが、なんか面白くなってきたので今はホント乗りでこういうことを言ってる状態だ。ホントは白黒つけるよりも、こうやって面白おかしく騒ぎたいだけかもしれない。
 本当に楽いと、俺は感じていた。多分、今までの俺の人生で最高に楽しい瞬間だ。
 そして、その楽しい感情につられるまま、俺はノフィーネと戦う事にした。
 


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