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童貞で三十歳を迎えたら魔法使いになってたよ! 作者:下北沢
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王城

コンコン

「どうぞ」
「失礼します」

ノックへの返事の後、見慣れた配下の一人が入って来た。

「クロウ様、城からの呼び出しの使者が来ました。宿の一階に待たせてます」
「判りました。直ぐに行くと使者には伝えて下さい」
「はっ、失礼します」

バタン
配下が扉を閉めて出て行ったのを確認してから、奥の部屋にいる二人に声をかける。

「ムサシ、ディエゴ。使者に会いますので二人共来てください」

一人はムサシという男、両手剣スキルのアタッカーPC。
自分が強くなる事にしか興味が無く、すぐにPCと戦いたがる。
私や配下の者ではムサシの事を殺せなかったので、仕方なく味方に引き入れたのだ。
この男は「兎に角強いヤツと戦わせろ、それが守れるなら何でも斬ってやる」と言っていたので、PCと戦わせた後に盗賊達と一緒に村を襲わせてみた。
すると文句を言いながらも村に動く物は全て斬っていた。
先日戦闘でPCに負けて切り殺されたからだろうか、今は文句も言わずに大人しく従っている。

もう一人はディエゴという男、多分盗賊スキルを持ったPCだ。
PCの持ち物やお金を盗んだり殺して奪い取るのが楽しいという、完全にローグプレイの中毒者だ。
どんなゲームもこのプレイスタイルを貫いているベテランローグプレイヤーらしい。
いつでも運営の裏をかき、ルールの穴を突く方法を探している。
ある時、村を襲う一団を指揮する私を見て勝手に付いて来た。
PCを狩るスタイルが気に入ったらしい。
恐らく二人共、神が100%憑依したままの状態でプレイを楽しんでいる。
彼らが神の意志を確認している所を見た事が無い。神と頭の中で話す場合はやりとりの間は不自然に体を停止させるタイムラグがあるハズだが、それを見た事が無い。
そもそも、あんな極端なプレイスタイルを神と人で了承済みとは到底思えない。
プレイヤーである事を隠している以上こちらも普通に接する事にはしているが・・・

「判った」
「おう」

トレーニングでもしていたのだろう、ムサシは汗を布で拭きながらこちらへやって来た。
私も上着を身に着けているとディエゴも奥からやって来たようだ。

「行きましょうか」

私が部屋から出ると、後からムサシとディエゴが付いて来る。
階段を降り宿屋の入口に行くと先程の配下の者と装飾の派手な人物が待っていた。

「あれ?使者って、この前の将軍じゃないのか?」

ディエゴが私にボソッと耳元で指摘した。
確かにあれは、軍人にもスキルが通用するのかを試した時のリットン少将だ。
盗賊やらのアウトローな連中にしか通用しないのかと思っていたが、シンパシーはガッチリと少将にかかっている。
この世界の軍人は、賄賂を要求し・恐喝し・平気で一般人も殺す。
盗賊とやってる事に変わりは無いからシンパシーがちゃんとかかるのでしょうか。
将軍は私の顔を見るなり私の右手を取り、両手で握手をしてきた。

「おおっ!クロウ殿わざわざお呼び立てする事になって申し訳ありません」
「こんにちは、少将。今回はどういったご用件なのでしょう?」
「先日のズールへの派兵が失敗してしまいましてな。この結果を唯一予想していた者がいるとの話を陛下にした所、”その者に是非に会ってみたい”とおっしゃられましたので、これからお会いして頂きたいのです」
「それは光栄なお話ですが、随分と急なお話なんですね」
「申し訳ありません。急ぎズールの件を話し合って決めるのに、参考意見が必要だとの話になった物ですから。是非クロウ殿の話を聞いて貰おうと思いましてな」

少将と共に宿の外に出ると目の前には高級そうな馬車が停められ、20人程の兵士が整列していた。

「ささ、お乗り下さいクロウ殿もお付きのお二人も」

私に続きムサシ・ディエゴが馬車に乗り込むと、最後に少将が乗り込んで扉を閉めた。

「では、城へ向かってくれ」

少将の指示に御者が二頭の馬の鐙を引いて出発となった。
これから向かうのは、この王都で最大の施設である王城だ。
だが王城と言っても砦を改造した建物、見た目は実用一辺倒の武骨な施設である。
元々ここは隣国との係争地にある守りの要の大きな砦だった。
そこへ王が住み兵を常駐させる事で人の営みが生まれ、街へと変貌を遂げたのだ。
砦を囲う様に人々が住み、急に街へと今も発展し続けている為に街には城郭が無い。
もしもこの街で戦闘にでもなれば、むき出しの街はどんな被害が出るだろうか・・・
そんな街並みを馬車で走り抜け、王城と呼ばれる砦の前で馬車は止まった。

「どうぞこちらへ」

私達が馬車を降りると少将が先導して中へと入って行った。
砦の中は華美な装飾は無く実用的だった。
王が住むのなら派手な装飾品が並べられていてもおかしくは無い。
ところが、この砦には石積みの壁には有事の際の為か武器が並べられているだけだ。
贅沢をしない王族とは珍しい。
これはスキルが効かない可能性もありそうですね・・・
そんな事を考えていると少将がドアの前で立ち止まりノックを始めた。

「リットンです、客人を連れて参りました」
「入れ」
「はっ。では皆さま私に続いて下さい」

ドアを開けて中に入る少将に続き私達も中に入る。
部屋はそれなりの広さはあるが、部屋の真ん中に大きな長テーブルおおよそ4X10m程と椅子が置かれ存在を主張していた。
ここは会議や会食をする場所なのだろう。
上座の両サイドには二人の男が座っていた。ハゲ頭とヒゲの男、ノックの返事はこの二人のどちらかか。

「こちらに掛けてお待ち下さい」

少将は私をお誕生日席とも呼ばれる長テーブルの端席に座らせ、ムサシとディエゴを私の両隣にコの字に座らせる。
どうやら私達の入って来たドアは下座で奥の扉が上座らしい、私の向かいのお誕生日席は一回り大きくクッションも多めだ。
少将は何やらハゲとヒゲに話かけてから部屋の奥のドアをノックした。
コンコン

「ご用意が出来ました」

少将はその一言だけ言うと、ドアを離れこちらへ戻って来てムサシの隣に座った。
ガチャ・・・バタン
それから5分程経った頃に奥のドアが開き、一人の男が入ってきた。
すると少将やヒゲとハゲも立ち上がるので私達も立ち上がろうとすると、男は手を上げてから下げて見せる。

「よい、座れ」

と言って少将たちを座らせ、私の向かいの誕生日席に座った。

「私がステファンのマテウスだ、お前達の名は?」

この世界では出身地がファーストネームに来るはずだが、ステファンはこの国の名だ。
出身地を国名で名乗るなんて者は、自国内で一生を終えるのが殆どのこの世界では異質と言える。
○○村のマテウスとか○○町のマテウスと言わないと認知して貰えないからだ。
だとするとこの人は国をファーストネームにしてもおかしくない立場。
そして周囲の慇懃な態度、この砦で一番偉い人。つまり国王なのでしょう。
てっきり謁見の間とかでの面会と思って油断していました。
まさか一国の王がこんな会議室みたいな場所で、最初から会おうとするとは思いませんでした。
今思えば、砦の中の質素な造りがこの砦の主が極度な合理主義の表れだと理解できますね。
そもそも謁見の間なんて無駄な物はそもそも無いのかもしれないですしね。
やれやれ、少し驚かされました。
スゥー・・ハァーー・・・
一旦深呼吸をし、乱れた心をクリアにする。
ん・・スキルには影響は無さそうですね。

「私の名はクロウと申します。こちらがムサシ、こちらがディエゴです」

私が共の二人を紹介すると早速本題に入って来た。

「話はリットンから聞いた。ズールへの派遣が失敗すると助言していたそうだな?」
「はい、そもそもの発端は町の領主による専横とと横暴です。町で好き放題に私腹を肥やしていた領主に我慢が出来なくなった住民が、領主の手先である自警団を殺してしまいした。そこで困った領主は中将を通して派遣を要請し、500名の精鋭が派遣される事となります」
「それが何故敗れると判った?」
「ズールの住人が傭兵を雇っている事を事前に私の配下が掴みました。傭兵達はかなり強く、強力な魔法を使うそうで、自警団が簡単に殺される姿を見たそうです」
「その傭兵は領主からも聞いていた者達の様だな、話は合致する。だが兵士500人を退けるとは一体何人の傭兵が雇われているのだ?」
「6人程だそうです」
「なにっ!?たった6人に敗れたのか」
「いえ、ズールの住人も兵の撃退に協力していたらしく。街全体が敵だとお考え下さい」
「そうか・・・それなら500人が敗れるのも致し方無いか」
「敗れた兵は住人達に身包みを剥がれて集められ、火葬されたとの事です」
「なんだとっ!骨になってしまっては蘇生など出来ないのだぞ!」

おや、激昂してしまいましたか。
どうやら王様も私の言葉にシンパシーを感じて貰えた様です。

「傭兵とそれに協力する住民が相手では仕方ありませんね。誰が敵か判らないのですから」
「クロウ、お前の考えではズールにどんな手を打つ」

私に対処を聞いて来るとは、完全にかかった様ですね。
私は笑いを堪えるのに必死になり、下を向きながら王様に質問した。

「この王都にはどれだけの兵がいますか?」
「二万だ、ザリアを抑える為に常駐している」
「でしたらその二万の兵がズールの制圧に必要だと思います」
「なっ!二万もか!?ズールの傭兵を倒すのに二万も必要無いのではないのか?」
「住民も武装して抵抗してきます。全兵力を投入して武装する者を一掃しなくてはズールをきっかけに各地で反乱が起きるでしょう」
「だが・・・しかし」
「それと兵士が住民と戦う事を躊躇する事を防ぐ為に、マテウス王が陣頭に立って指揮をするべきかと思います」
「ああ、それは構わんが・・・二万となると。どうだ?軍務大臣、財務大臣」

マテウス王は左右に座るハゲとヒゲに話しかける。
この二人って軍務大臣と財務大臣でしたか。
けれど私の言葉を終始聞いていたのなら二人にも効いているハズ。

「はっ。私はクロウ殿の言う事に賛同します。二万の兵力でズールに攻撃を仕掛けましょう!」
「ええっと、私もクロウ殿の意見に賛同致します」
「なっ、なにっ!?むむぅ、そうか・・・二人が賛同するなら致し方あるまい。これより作戦会議を開く!主だった者を集めよ」
「はっ」
「はい」

ハゲとヒゲは慌てて部屋を出て行ってしまった。

「マテウス王、会議の邪魔をする訳にも行きません、私達はこれで引き上げます」
「そうか、分かった。少将、彼らをお送りしろ」
「はっ」
「また何かありましたら何時でもお声をかけて下さい」
「おお、すまぬな。その時は頼むぞ」
「はい、では失礼します」

こうして砦を後にして私達は馬車で宿屋の部屋に戻ってきた。
ディエゴが廊下に人が居ないのを確かめてからドアを閉め、先程の砦での事を話し出した。

「やっぱり・・・恐ろしいスキルだなシンパシーは、王や大臣達が盗賊達みたいに誘導されちまうとは」
「今まで試す機会がありませんでしたからね」
「しかし、全軍でズールに向かって平気なのか?この街」
「ザリアにバレたらヤバいだろ?」
「じゃあバラしに行きましょうか」
「ん?ザリアに行くのか」
「ええ、面白い事を思いついたので」
「何だよ、王様のズール攻略戦には同行しないのかよ?」

それまで黙っていたムサシが残念そうに聞き返して来た。

「乱戦に紛れてヤツらと戦いたかったんだがなぁ」
「あなたの顔は覚えられていますから、王様の傍にいたらヘッドショット食らいますよ?先日の戦い見たでしょう」
「あれはこの世界にあっちゃマズいだろ。あの小さなPCを殺して銃に括り付けて海にでも沈めちまわないと、剣と魔法の世界が楽しめねぇよ」
「明日は国境を越えてザリアに入ります。ディエゴ、通行証の手配をお願いします。それと荷馬車でいつもの商人に偽装しますが、今回は保存の効く食料を大量に積んでいきますので、その手配もお願いします」
「わかった」
「ムサシと私はハンター隊に指示を出しに行きましょう。この国の全ての町に向かって貰いPCを狩ってもらいます。エリックに指揮をさせて30人ずつの三班で回れば良いでしょう」
「俺もハンティング行きてえ」
「ムサシは張り込みなんてやらないじゃないですか。虫に刺されながら待ち伏せなんて出来るんですか?」
「ああ・・・無理だわそれ。俺、虫苦手なんだ」
「ならザリア行ですね」
「ズールの尾行はどうする?」
「先日、功を焦って勝手にタロウ達に街で襲い掛かって死んだ者は、ノルンに生き返らせて貰いました。彼らに厳命して遠くからの尾行だけにして貰いましょう」
「何だ野放しかよ・・・」
「ムサシ、君はスズと言うタロウの護衛に決闘を挑んで負けているんですよ?エリックの作る設置式爆裂魔法の罠にはもう引っかかってくれないでしょうし、確実に倒せる機会を待ちましょう」
「ちぇっ、わあったよ」

翌日、私達は王都から商隊となって街道をザリアとの国境に向けて出発した。






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