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三十路になったら魔法使いになってた 作者:下北沢
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あれ?また

ズール入口の門での攻防の翌日、殆ど何も活躍をしなかった僕はさわやかな目覚めなハズだった。
気が付くと僕はベッドの上に腰かけていて、腰が痛い・・・
試しに立ち上がって見ると股間の付け根がズキズキとする。
これは・・・確認せねばなるまい。

「おはようございます、神様。昨夜はどこで何をしたんですか?」
”おはよう、タロウ。フフフ、秘密です”
「いやいやいや!秘密じゃ困りますって!これ、どう見てもカラになるまで使い切ってますよね?」
”あら、証拠を残す優しさが理解出来ませんか?”
「・・・えっとそれはどういう意味でしょう?」
”タロウも自分自身にリターンをかければ簡単に股間も腰痛も昨夜の状態に戻ると考えた事はありませんか?”
「あっ」

言われてみればその通りだ。カラの股間も腰痛もリターンをかけて治してから僕に交代すれば、証拠も疲れも残らないハズだ。
全身にリターンをかけると記憶まで消えてしまう。股間と腰のピンポイントでかければ、記憶も消さずに腰痛と精力が戻って来るだろう。
けれどそれをして僕にマイナスな事は・・・

「肉体の経験値?」

筋肉を成長させるには一度細胞が壊れるまで使い倒し、その後の超回復で一回り強い筋肉に成長する。
僕がこの世界に来てから、余程の事が無い限り疲れた肉体にリターンはかけなかった。
そうしなければ、僕は今でもメタボ体型で体力も無いままだっただろう。
肉体が稼いだ経験値をリターンで毎回0にしてしまっていたら肉体は成長はしないって事だ。

”そうですね、肉体の経験値も失われる物の一つです”
「一つ?複数あるのですか。・・・うーん」
”少々難しい話になりますので、解り易く例えてみましょう。タロウが敵に右腕を切り落とされ、敵に腕を持っていかれたとしましょう”
「嫌な例えをしますね」
”タロウは腕にリターンをかけて時間を戻すので、腕は元通りに戻りますね”
「ありそうな話ですね」
”では、持ち去られた腕はどうなりますか?”
「消えてしまうのか、それとも二本同時に存在する事になるのかですか・・・」

右腕が二本存在する矛盾が生じる事になってしまう訳か。
タイムパラドクスが起きて片方は消滅するってのが、タイムトラベルの基礎理論だったな。

”(腕が斬り落とされるという)原因が起こる前の腕に戻せば、(斬られた腕を持ち去られた)結果も無かった事になるでしょう”
「原因が無くなったのなら結果も消えると・・・」
”そうですね。一切のものは何らかの原因から生じた結果であり、原因がなくては何ものも生じない”
「因果律ですか?」
”せっかく頑張ってカラになるまで使い切ったのに、リターンで何も無かった事にしては身も蓋もありません”
「そこですか!童貞の僕に子供が出来ても嬉しくありませんよ、むしろ積極的に使った方が良いじゃありませんか」
”そうなるとタロウの記憶が正しく保持しきれなくなるかもしれませんよ?”
「僕の記憶?」
”私が100%の憑依をしている間、タロウの脳に私の行動はちゃんと記憶されています”
「あああっ!やっぱりあるんだっ!!見せて下さいぃぃぃぃぃぃ」

気が付くと僕は額を床に擦りつけて土下座をしていた。

”フフフ、それはダメです。タロウには賢者になって貰いますので、その資格を得た時に開放しますよ”
「そんなぁ・・・」
”その時の為に憑依後の記憶は隔離保持をしているのですが、リターンで肉体の一部を過去に戻すと記憶と肉体に齟齬が生じてバグを起こす可能性が高いのです”
「それは困りますよ!」
”視覚映像だけなら後で取り出せるかもしれませんが、残りの五感情報がフリーズしてしまう可能性が高いのです”
「五感情報・・・ですか?」
”視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の事です。タロウの手がその時どんな物を何を触ったのか、どんな声を聴いたのか。それらが全て消し飛ぶかもしれません、それでもかまいませんか?”

もしかして、あんな所やこんな所を触ったりした感触までも残ってるのか!
僕は何故か”気を付け”の姿勢で神様に答えていた。

「ダ、ダメであります!」
”では、今後もリターンで記憶が飛ばない様に、私の憑依使用後のリターンは避けて下さいね”
「了解したであります」

コンコン
僕が”気を付け”の姿勢で返事をしていたら部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「はーい」

鍵を開けてドアを開けるとそこに立っていたのはむくれた顔のエルザだった。

「おはようエルザ・・・どうかしました?」
「もうー!お兄ちゃんのウソつき」

えっ!?お兄ちゃん???
エルザの言葉がハッキリと日本語で「お兄ちゃん」と聞こえた。
あれれ?
エルザは英語じゃなく日本語使ってる?
この世界に来たPCは、地球世界各国の言語の全てを聞き取れる能力を与えられているらしい。
他のPCの言葉は聞き取れるけれど喋れる訳では無い、みんなが自国の言葉で好き勝手に話すのを勝手に聞き取るだけだ。
その所為でみんな勝手に自国語を喋っているので細かいニュアンスは伝わらない事が多い。
英語で「お兄ちゃん」と言いたくても、「ビッグ・ブラザー」とかに変換されてしまう。
「兄」を可愛らしく表現する言葉など日本語にしか無いからだ。
それをエルザが正しく表現した???

「えーっと、僕がウソついた?」
「もう!ベッドで朝まで手を握って寝てくれるって言ってたのに!」

ええーーーーっ!?
神様だよね!これ!
何してたんですか!
ん?
・・・・・まさか、エルザを相手にカラっぽに!?
ひぃぃぃいゃゃゃぁぁぁぁぁ
僕はエルザの体を上から下まで眺めながら、あんな事やこんな事を想像して悶えてしまった。

「???、お兄ちゃん聞いてる?」
「ああ、はい。ちょっと荷物を取りに、部屋に戻りました」

エルザの言葉で現実に引き戻された僕は何とか話を合わせてみる。

「本当?」
「そろそろ出発の準備をしないといけないですから」
「朝まで手を握ってたのか確認出来なかったじゃない!」
「すみません、ゆっくり寝かせておいてあげたかったから」

僕の取り繕って出てきた言葉に「むぅーー」とうなり声を出す。

「じゃあ、今回は許してあげる。次は、朝まで手を握って寝てよ」
「わかりました」
「じゃあ約束ね」
「あ、あの、日本語上手なんですね。驚きました」
「元々10カ国語ぐらいは喋れてたから、発音はスズと練習たんだよ。って昨夜教えたのに!」
「わわ、っと。そうでしたね。思い出しました」
「本当に~?」
「ええ、寝ぼけてただけです。そろそろ出かける準備をしないといけないので、先に宿のロビーに行ってて下さい」
「むぅー、わかった」

約束をした事で納得したのか、エルザはドアを閉めて出て行った。
それにしても、頭が良いとは聞いていたけれど日本語も出来たとは。
英語だとクセがあって遅いのに、日本語だと普通の早さで喋るのには驚いた。
もしかしたら英語を教えた人があんな喋り方で、そのクセまでも全部マネして覚えたから自国語ではあんなにのんびり喋るのかもしれない。日本語ではちゃんとしたスピードで喋れるのだし。
スズと練習して日本語の発音を直したのなら、スズの喋り方のスピードで発音も覚えたのだろう。
やはり頭の良い娘なんだな・・・
ってそうじゃない!

「神様!エルザに何をしたんですか!お兄ちゃんとか言ってましたよ!!説明をお願いします!」
”今後はタロウてはなくお兄ちゃんと呼ぶそうです”
「もっと細かく教えて下さい!そもそも何で日本語なんです」
”タロウの名前をフレンドリーに呼びたいと言ったので、日本語に「お兄ちゃん」と言う呼称があると教えたんですよ。そうしたら日本語ならスズと練習してるからと、これからは英語ではなく日本語に切り替えて「お兄ちゃん」と呼ばれる事になりました”
「神様の要望じゃないですか!」
”タロウの願望とか好みが憑依をすると前面に出て来るのです。これはタロウのそう呼ばれたいという願望があったからですよ?”
「くっ、それは・・・まぁいいです。それよりも!手を握って寝たとか、他に何したんですか!!」
”色々してたら汗をかいたので、一緒にお風呂に入って洗いっこをしました”
「待って下さい!”色々してた”ってのは何してたんですか!しかもお風呂で洗いっこって!」
”その後はちゃんと彼女の手を握って寝るまでは傍にいてあげました”
「気になるぅぅぅぅぅ!”色々してた”とか”洗いっこ”とか・・・・くぅぅぅぅぅ」
”そこはエルザのプレイヤーとは協定を結んだので言えません”
「なんですかそれは!ちょっとぐらい教えて下さい!」
”ほら、早く着替えないと遅れますよ”
「くっ」

あからさまにはぐらかされたけれど、出発に遅れる訳にもいかない。慌てて着替えてから一階に降りると、既にみんな揃っていた。

「おはようございます」

みんなと挨拶をかわしてから今日の予定を伝える。

「特に反対意見が無ければ。今日はまずこれから斡旋所に行って、それから買い物と鉛の補充をしようと思っています」
「お昼はどうするの?」
「買い物の時にでも食べましょう。僕らは狙われている可能性が高いので、武器の携帯と単独行動の禁止は徹底して下さい」
「わかった」

みんなの返事を聞いてから僕達は宿屋の入口から通りへ出た。
すると通行人は端に寄り、僕達が通り過ぎるまで目を逸らしてから逃げて行った。
彼らの態度を見ていると、昨日の事を内心喜んでいるなんて話はウソにしか聞こえない。
内心やれやれと思いながら斡旋所へと向かう。
そういえばと思いエルザの歩き方を観察してみるが、特に変わった所は無い。
ガニ股だったり歩きにくそうだったりはしていない様だ。
神様も流石にエルザには手を出していなかったという事か・・・
なら、僕の股間を打ち止めにしたのは誰だろう?
様々な謎を考えている内に斡旋所に着くと、ジョーイさんが金の鎧を着て戸を外から鍵で開けている所だった。
僕達に気が付いたジョーイさんは、僕達が近づくのを待ってから、みんなと挨拶を交わす。

「皆さん、おはようございます」
「「「おはようございます」」」
「どうしたんですか?朝から鎧姿で」
「ええ、朝から情報収集です。ここではなんですから、皆さん中へどうぞ」

僕達はジョーイさんの後に続いて斡旋所へと入って行った。





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