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童貞で三十歳を迎えたら魔法使いになってたよ! 作者:下北沢
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盗賊団

村長曰く、人質を連れての移動だけに移動速度はあまり速くは無いだろうとの事。
人質を連れて直接奴隷市場まで行くには遠すぎるらしい。
一度アジトに戻ってから奴隷商人の荷馬車を呼び寄せてから売却するのではないかと言う。

「彼らのアジトの場所は判るんですか?」
「街道を北に向かったしばらく後に川沿いの脇道がございます。その道を5キロ程歩いた所にあった廃牧場が恐らく盗賊たちのアジトになっているのではないかと私は思います」
「何か確証があるんですか?」
「いえ、他にアテが無いので別の盗賊かもしれませんが。この近辺に最近人影をチラホラと見かけた村民がおりますので」
「解かりましたそちらに今から向かってみます」
「でしたら道案内に若い者を付けますので連れて行ってやって下さい」
「ありがとうございます」
「村の入口でお待ち下さい、すぐに行かせますので」

村長の元を辞してからスズと入口で待つ。
村で借りたランタンは僕が持っている、僕は戦闘では役に立たないので囮役。
スズはランタンの陰から一人ずつ敵を削って行く作戦だ。
僕は気になっていた事を聞いてみる。

「スズさんは生身の人を斬ったことがありますか?」
「いえ、無いです」
「僕もありません・・・まぁ、僕は戦闘はからっきしなんで、スズさんに出来そうも無ければ直ぐに逃げ出しましょう」

俯いた顔からはその表情は読み取れない。

「たぶん・・・実力的にはやれると思い・・ます。話した事も無ければ顔も知らない相手ですし、ちゃんとやらないと攫われた子供達も助けられませんし・・」

実力には自信はあるみたいだけれど。
問題は自分を武器で殺しに来る相手を無傷で捕まえようとか軽傷や気絶で済ますとか、神様も言っていたがマンガみたいにやろうとしないか心配だ。
あれは確かにおとぎ話みたいな物だとは僕も思う、実際にやろうとすればきっと痛い目を見る。
少し考えてみれば判る事だが、人間が人間をちゃんと気絶させようとすれば、頸動脈を後ろからチョークスリーパーで絞め落とす以外に殆ど方法は無い。
マンガや映画みたいに、首筋をチョップで叩くとか顔面をパンチ一発やフライパンの一撃などではそう簡単に気絶はしない。
頭部の頭蓋骨が陥没する程の打撃で脳内出血を起こし、後遺症確実な怪我を負わせられれば気絶もある。けれどそんなスプラッタな正論は見せないのは、ご都合主義とR15指定を嫌がる大人の都合でしかない。
正義の味方は敵の見張りの全てを後遺症確実な気絶や瀕死の重傷にして、アジトの奥に乗り込んで行くのがリアリティだろう。
声を上げられれば不利になる、拘束しても解き放たれれば再び敵となる。ならば、見張りを全て殺し敵のボスの前に立つ”ダーティーハリー”的なハリウッド映画は見かけなくなったな。
アニメも映画もファンタジーになってしまっているのだと、今更ながらに気づかされる。
彼女も昼間に人質を助けに行ってあっけなく殺されたのは、軽傷で済まそうとか気絶させる打撃を軽く考えていたのかもしれないな。
これはちょっと危ないかもしれないぞ・・・
程なくして案内人の村人が2人やって来たので、挨拶もそこそこに街道を北に向かって出発する。
街道は馬車も通れる幅があるのだろう、それなりの幅がある。
夜で見通しが悪いが、踏み固められた街道を移動するのは楽だった。
出発から2キロ程した所だろうか、街道の向こう側から明かりが見える。
案内人がランタンを大きく動かして何かサインを送っている。

「どうやら隣の村に出した伝令みたいです」

村人達は挨拶を交わすと

「隣の村までの間にヤツらの姿は無かった。やっぱり牧場の方かも」
「そっか、解った。俺達はこれからこのお二人を牧場に案内してくる」
「今からで大丈夫か?隣村にいた旅の人が朝には村に来てくれるみたいだからそれからにした方がいいんじゃねぇか?」

旅の人か・・・恐らく一斉にログインしたPCの内の一人ではなかろうか。

「すみませんが、朝まで待って僕らが戻って来なかったらその旅の人と相談してみて下さい」

僕らが逃げてきたり捕らわれたりした場合も考えておかないと。

「はいっ」
「では行ってきます」
「お気を付けて」

伝令の村人と別れその場を後にした。
そういえば、後ろのスズが出発してから一言も喋っていないな。
一応声をかけてみるか。

「待ってますからあの岩の裏でしてきて結構ですよ?」
「ちっ違います!トイレではないです!元々こんな感じで人見知りって言うか・・・」

チラチラと今度は何か言いたそうにこちらを見てくる。

「そうですか」

僕も伊達に歳をとって来ていない、こんなに分かり易い「聞いて」オーラを出す人は放置するに限るのだ。ここで聞き始めたら面倒な身の上話とかが湧いてくるに違いない、長年で培ったカンがサイレンを鳴らす。敢えてここで言葉を切ってほっておく事にしよう。
僕が耳を塞いで足早にこの場を離れようとすると・・・

「ちょっと!「そうですか」で終わりは無いでしょ!?もっとこう何かあるでしょ?興味持ってよ!」

グイッ。
音も立てずに開いた距離を一瞬で縮め、僕の服の裾を掴んで来た。

うおっ、はやっ。能力的には凄いのだろうけれど・・・何だろう、グイグイ来る娘だな。

「いや・・・なんか聞いて欲しそうにしてたんで、面倒臭いなぁって」
「面倒臭いって何よ!そこはイベントフラグ立てるとこでしょ!ねぇ!」
「戦闘前だとまた死亡フラグ立っちゃいますよ?」
「ムキーーッ!」

異世界で女子高生をからかったら首を絞められた。
僕の軽口にちゃんと乗っかってくれるとは、意外とノリの良い娘みたいだ。
もしかしたら気を使って和ませてくれたのかもしれない。

「あのー、ここから脇道に入りますんで明かりは旦那のランタンだけにしますね。それから、ここからは待ち伏せもありますから静かにお願いします」

遠慮がちに案内役の村人が声をかけてくる。

「わかったわ」

両手で首を絞められて、声の出せない僕に代わってスズが返事を返す。
首を開放されてから先頭に立って歩く、僕・村人2人・スズの順番だ。
ランタンの明かりを足元に絞って慎重に進んで行く。
1時間程した頃だろうか

「まもなく牧場です」

声を忍ばせた村人に頷いてそちらを見る。
牧場の入口の見える位置で止まると。

「後ろも警戒をしていたけど待ち伏せは無かったわね」
「村民は皆殺しにしていったから時間的にも、今晩は追手なんて来ないハズですしね」

スズを先程からかったからなのか言葉の中から僕に対して敬語が無くなっていた。
家畜用の雑な柵の間に簡単なゲートがある。
そこに見張りらしき人影が松明の明かりに照らされて影を作っていた。

「見張りがいるって事は盗賊のアジトはここみたいですね」

村人の一人には村への伝令を頼む、もう一人には見張りを何とかしたら入口まで来て貰う事にする。

「スズ、矢で射れる距離はどのぐらいですか?」

一応スズには村で借りた弓と矢を持ってきて貰っていたので聞いてみる。

「こっちからも向こうからも射程は100Mぐらいまでよ」

そもそも矢の一撃では殺せないし近寄るしかなさそうだ。
見張りは二人だけ、僕の腕では何の役にも立たないから作戦を考える。
ちょと演技が必要かな・・・
スズの獲物の槍と僕のナイフを交換して、ナイフは村人に借りた外套を被ったスズに忍ばせて貰う。
僕は面が割れていないがスズは怪しい、念のために外套を頭まで被っていれば夜だし判らないだろう。
準備も出来たし即興の「デリヘル作戦」と行きますか。
僕はそのまま堂々と門番に近寄っていく。

「何だお前らは」

気が付いた門番の一人が近寄って来た。

「娼婦のお届けでーす、ここ通りますねー」

門と言っても開閉する扉などは無いが、ゲートを通過しないと敷地に入れない仕組みだ。
門番さえ付けておけば侵入者は防げる、単純だが効果がある。

「待て待て、聞いてないぞそんなのは」
「えっ!そうですか?じゃあ仕方ないんで帰りまーす」
「おいおい、諦めんの早いだろ!待て、誰が呼んだか確認取ってやるから待てって」

娼婦の宅配は割とどんな時代でもあったらしいから通用するだろうと思ってはいたが、キッチリ突っ込みまで入れてくれるとはなかなか。
門番の一人が帰るフリをしている僕を追いかけて来てスズを追い越し僕の肩に手をかけてきた。
スズに対して門番が背を向けたので、この隙にすずが門番を殺したと思ったのだが・・・。

「あんたら何処の町の娼館から来たんだ?誰に呼ばれた?」

門番は健在で、僕に質問をぶつけて来る。
まずいな、門番の男はピンピンしている。
僕は振り向いて話に付き合っているのだが、すずは門番の背中にとっくに回り込んでいるハズだ。
門番の肩越しにすずを見ると顔面は蒼白、下を向いてしまって動かない。

「えーっと誰だったかな?」

この場で一人倒してもう一人と一対一でやり合って貰う予定だっただけに、隙を作るだけの即興演技にはどんどんボロが出はじめる。
門番がイラついたのが顔つきで判る。
ああ、スズは駄目ぽいや・・・一度逃げるか?
ザクッという音と共に腹の辺りが熱くなる、クソッ短剣か何かで刺された!

「まぁいいや、女は貰っといてやるよ」

腹部を抑えて蹲った所に背中から「ガスッ」ともう一撃背中から深く刺された。
ゴフッ・・・肺まで届いたか。口にまで血が溢れ出て来た。

「ひっ」

スズの小さな悲鳴が聞こえた。
ここで僕が動けなくなるのはマズイ!
腹部を押さえなからうつ伏せに倒れる。
門番から見えない位置で傷口にリターンの魔法をかける。
魔法の発動が発動するのをを待っていたのか頭の中に声が響く

”私が出ます”

神様の言葉が頭の中に聞こえたと同時に体の主導権が移った。

「約束です交代しなさい、戦神。これ以上はこちらが持ちません。」

そうスズに向かって言い放つ。

「あ、わ、わたし・・・・やれやれ、辻斬りでも無理やりやらせた方がよかったか」

スズの言葉は半ばでやや投げやりな言葉へと変わった。
顔を隠していた外套をバサッと脱ぎ捨て、僕を刺した門番につかつかと向かって行き声をかける。

「こっちの相手もしてくれよ」

盗賊のカンだろうか?僕から離れてスズ+神様の方へ向き直り短剣を構える。

「お前見た覚えがあるな・・・昼間村にいた女か?生きてたのか」

短剣を振り回し、牽制して距離を取ろうとする門番。

「おーい、どうした?」

もう一人の盗賊も何か異変だと感じたのか、こちらに来そうだ。
スズの体は恐らくプレイヤーの神様が憑依し動かしている、スズ+神様になっているハズだ。
スズ+神様は短剣の牽制を足捌きだけで避けると、ピタリと門番への距離がほぼ0まで近づく。
まるで役人にワイロでも渡したかの様な自然な仕草で、門番の革鎧の隙間にスッとナイフを差し込んだ。
グッ、と言ううめき声と共に門番が膝をつく。
すると門番達の死角の位置でリターンによる自己治療をしている僕に

「そいつはあんたたちにやる」

スズに憑依した神様達はもう一人の門番へ向かった。

”この門番の止めは貴方にくれるそうです、ありがたく頂きましょう”

神様の言葉にギクっとする。
スズ+神様の残した門番の意味を正しく理解できたから・・・。
僕に止めを刺しやすい瀕死の門番を、お詫びとして練習用に残して行ったって事だ。

”少しだけ気が楽になる話をしましょう。この世界で法律はまだ存在しません、各自治体の長が決めますが盗賊と言えども縛り首です。ましてや村人を殺して誘拐、流石にどこの世界に行っても捕え次第死刑となります。ならば貴方が止めを刺しなさい、それが貴方の糧になりこの世界を生きるの自信ともなるでしょう”

僕も聖人ぶるつもりも無いし、門番を助けたいとも思わない。
真面目に生きて来た僕には人を殺した経験なんて当然無いが、このゲームに参加をした時点でこれは通過儀礼なのだろう。
これはゲームだと割り切ればいい。
この世界の文明レベルでは牢屋に入れて何年も生かす制度は無いだろう、門番を捕まえて連れ帰る意味は全くと言っていい程に無い。
神様の言葉という免罪符を有難く受け取ろう。
僕は「フゥーー」と息を吐いてから、槍を構えると勢いをつける為に声を上げた。
「うぉぉぉっ」
ガスッ!
這って逃げる盗賊の背中に槍を突いた。
ガスッ!ガスッ!ガスッ!・・・
一度刺した程度では門番の体はまだ動く、二度・三度・四度・五度・・・ようやく動きが止まった。
ガハッ、血を吐き出しながら絶命して行く門番の横顔をしっかりと目に焼き付ける。
先程まで話していた人を殺した事にはなるが、特に罪悪感は湧いて来ない。
先にこっちがほぼ殺されてるしなぁ。
槍を門番の死体から引抜きながら、槍が革鎧ぐらいなら突き通す程の強力な武器なのだと変な感想を持った。
死体を道の端に移動してから、スズがどうなったかなと今更ながら思い出しスズ+神様を探してみる事にした。
門をくぐった所には、もう一人の門番が既に死体となって転がっていた。
見た目に傷口は見えないが、服装から血が染み出している。
スズ+神様の姿は既にこの辺りには無い。
たぶん、ウチの神様が言っていた「戦神」とはどう言う意味か考えてみた。
神様にも分類があるって事なのだろうか?
役割や仕事の内容によって呼び名や身分も違うとか。
それとも戦神ってのは、ただ単に戦好きの神様って事だったりして。
・・・・まぁいいや、奥へ進もう。
暫く進むと建物が見えて来た。
建物の前に10人程の死体と建物の入口で女にナイフを突きつけた盗賊。
それに悠然と対峙するスズの姿を見つけた。
僕がここに到着するまでの間に、こんなに盗賊の相手をしていたのか。
これぐらいの実力があるって神様同士の会話で判ったから、僕達が二人で乗り込む事になったのだろう。
建物の中に盗賊と人質がいるのが見える。賊は建物に立て籠もっているらしい。
戦力は僕とスズ+神様のみ、僕は回復しか出来ないので戦力とは呼べない。

「人質が死んでもいいのか、武器を捨てろ!」

口々に喚く盗賊に対しながらスズは声をあげていた。

「神様、人質が!」

器用にも一人で会話をしながら戦っているらしい。
憑依の仕方にも色々あるんだなぁと、少し感心する。
僕は手元の槍の方が使いやすいのではと、すず+神様に声をかける。

「スズの神様、槍使いますか?」
「今、こいつに肉を刺したり裂いたりする感触を教えている所だからいらんぞ。ナイフで十分だ」
「解かりました、何かあっても人質は僕が治療しますので存分にどうぞ。それでは僕はそこらで見てますね」

「そうか」と言って僕の言葉を聞き終えたスズ+神様は建物の入口に走りこむ。

「来るんじゃねぇ!止まれ!」

脅しに人質の肩を何度も刺して見せるが、僕が治療出来ると判った今、スズ+神様はもう止まらない。
僕が到着する前に何人もの盗賊を相手にして全て切り伏せたからのだろう、盗賊のビビリ方が尋常ではない。
ついには迫るスズ+神様の姿にパニックを起こし、人質の喉を掻き切って殺してしまった。
慌てて別の人質に掴みかかろうとする盗賊の前に飛び込むと、体を沈め肘の下辺りをスズ+神様のナイフで切った。
腕の筋を正確に切ったのだろうか、盗賊の腕がダランと下を向き武器の片手剣も取り落とす。
スズ+神様はさらに一歩踏み込むと、脇腹をナイフで刺して捻ると右足で蹴とばして転がした。
ナイフを軽く振って血を払うと、別の人質を取っている盗賊に向かって走り込む。
盗賊の直前で立ち止まると下から大振りにナイフを振るフェイント。
このフェイントにかかり片手剣で受ける形に固まった盗賊に、ナイフを一閃武器を持っていた指を全て切り落としてしまった。

「あああぁぁぁーーーーっ、指がぁぁぁっ」

バラバラっと武器の片手剣と指が落下した所でまた一歩踏み込んで近寄る。盗賊の脇腹をまたもやナイフで刺すと、捻りを入れてから蹴り飛ばして転がす。
次の敵を探すスズ+神様の後ろに、いつの間にか別の盗賊が忍び寄る。
盗賊は音も立てずに剣でスズ+神様に突きかかって行った。
スッとまるで見えているかの様に剣の突きを躱すと、ナイフを目にもとまらぬ速さで振り上げ、盗賊の利き腕を今度は骨が見える程に深く斬り裂いた。

「ぐぁぁっ」

盗賊の持っていた武器の片手剣を拾い上げてから、また脇腹を刺し捻ってから転がす。
刺された盗賊は例外なく痛みで動けなくなっている、わざと臓器に傷が付くように捻って刺している様に見える。
あれならば即死はしないが時間が経てば確実に死ぬだろう、でも出血は少な目だから中々死なない。
恐ろしい事してるな。
”あれで50%程度の憑依でしょう。キャラクターにも感触が全て伝わるので、あの娘にはそれぐらいしなければいけないとの判断なのでしょう”
いくら武道の心得があっても平和な場所で生きて来たのだ。いきなり人を刺し殺せと言われても、中々すぐには出来ないだろう。
見た所、辺りに立っている盗賊はもう見当たらない、後は奥の部屋だけなのかな?
僕も建物の中に入り現状を確認してみると、どうやら奥の広間に三人待ち構えている様だ。

「大丈夫ですかね?あの中にPCが中に1人混じってるとしたら」
”ええ、我々では太刀打ち出来ませんね。しかも今人質の怪我人や死人を治療してしまうと、彼女達が負けた時に貴方に治療のスキルがある事がバレてしまいます。恐らく人質を取られ盗賊達の治療を強要されるでしょう”
「治療もせずに、ここで見るだけなのは心苦しいですね」

僕は死亡した人質や怪我をしている人質をチラリと横目で確認する。
スズ+神様が広間に入って行く。右手に僕のナイフ左手には盗賊から奪ったのだろう、片手剣を握っている。
盗賊の武器は槍持つのが1人、盾と片手剣を持ったのが2人だ。
僕では確実に勝てない。スズ+神様が負けると僕も死ぬな。
先に動いたのは盾持ちの盗賊二人、盾で体をガードして隠し死角から片手剣で突いて来た。
槍を構えた盗賊は盾で突っ込む盗賊二人の斜め後ろの位置取り、隙を見せれば槍が襲ってくるのだろう。

「いい作戦だ、だが欲張りすぎだ」

盾持ち盗賊の一人の死角から来る剣を避けながら、盾を持った別の盗賊を盾ごと蹴り倒すスズ+神様。
後ろで槍を構える盗賊も大きく仰け反った。
蹴った反動を利用してもう一人の盾持ちの振りかぶって来た剣を躱すと、盾に密着してから壁まで押し付ける。
身動きの出来なくなった盗賊に盾の斜め下から片手剣を差し込む。

「ぐぁっ」

捻りを加えて片手剣を抜いたのはまたもや臓器を痛めつける為なのだろう、この一刺しで一人動けなくなった。
もう一人の盾持ちと槍持ちが慌てて襲い掛かってくる。
槍持ちがその場で足を止め、槍をしごきながらの連続攻撃を仕掛けて来た。
スズ+神様はスルスルっと盾持ちをスクリーンに使い、槍の動きの邪魔になる位置へ回り込む。
盾持ちは自分をかすめる槍の動きに気を取られ、槍持ちを振り返ってしまった。
盗賊同士に信頼が無かったのだろう、振り返った瞬間を回り込んだスズ+神様に片手剣で喉を突かれる。

「さすが戦神様ですね、多対1にもやり慣れてる感じです」
”この槍盗賊もPCではありませんね”
「判るんですか?」
”PCはスキルに頼った戦闘になるハズですが、スキルにしては動きが悪すぎます”

そうか、神様が選んで連れて来るからにはその道のエキスパートなのだろう。
それがこの程度の槍術だったら泣けてくる。

「後はスズ、お前がやれ」

スズの姿で戦神様が指示をする。

”どうやら憑依を解いてあの娘にやらせる様ですよ”

あ・・あっさりと行動権渡しちゃうんだ。

「スズの神様もあれただの盗賊だと気が付いたんですね」

スズは半身のフェンシングの様な構えを取る、ナイフを前に出し片手剣が出所が見えない様に体の後ろに隠した。
槍は剣の天敵だ、剣の間合いの外から一方的に攻撃をされる。
江戸時代になって鎧を着た戦が無くなったが故の護身術が剣術だ、実戦武器である槍には到底敵わない。
スズがどの程度なのかは判らないけれど、手加減をして捕まえられる程甘くは無いだろう。
スズが片手剣を構えたまま動かない事に焦れたのか、盗賊が槍で突いてきた。スズは何とかナイフの根元の部分で叩いて何とか捌く。
両手で突きかかって来た槍を弾くにはかなりの力が必要だ。本来ナイフなんかで捌ける物では無いハズなのだが、スズは槍の突きをナイフで弾いてみせる。
2合3合と弾く。5合6合・・・先程までよりも少しだけ大きく弾くとスズが動いた。
左手で背中に回していた片手剣を、盗賊の胸部を狙って横に回転させながら投げつける。
回転が加わっている為、盗賊も槍の腹でしか捌けず穂先をぼほ真上に上げてしまった。
投げたと同時に走り込んで行ったスズは、その隙を逃さずナイフで盗賊の利き腕である右腕を切り裂いた。

「くっ」

たまらず盗賊は槍を取り落としてしまったが、スズの追い打ちは無い。
盗賊の利き腕を刺した時点でほぼ勝負は決したが、これはスポーツではない。
スズが躊躇をしている間に盗賊は槍を拾って再び構えをとる。

「どうした、キチっと殺さないと終わらないぞ」

スズの神様がスズの声を使って激を飛ばす。
彼女はこれを乗り越えなくてはならない。
この甘さを持ち続ければ、また何処かで取り返しのつかない失敗をして命を落とすだろう。
今は彼女に同情は出来ない。
もしも僕が治療が出来ない攻撃型の魔法使いだったとしたら、牧場の入口ですずに頼った僕はゲームからとっくにリタイアしてしまっている。
スズの神様もそこを矯正しないとゲームには参加出来ない事は判っているのだろう。
盗賊は左腕だけで槍を構えたまま動かない。
行動を起こさないスズにスズの神様は僕を指さして

「お前が躊躇した所為でそいつは二度も刺された。今後も誰かに死んでもらうのか?こいつらを生かして返しても村には誰も復讐しに来ないのか?」

ここで生かして逃がしたとしても、僕らが去った後に復讐に村を襲いかねない。
スズの神様の言っている事は、この世界のルールをちゃんと理解した上で、彼らを殺せと言っている。
ここには法も警察も無いのだ、力のある者が正してやらなければいけないのだと。

「うぁぁぁぁぁ」

スズが雄たけびの様な声を上げるのが聞こえる。
迷いを吹っ切る為なのか気合を入れる為なのかは判らない・・・
けれど、もう心配はは無さそうだ。
後はスズと神様の問題だろうと判断して、僕は人質の治療に向かう事にした。
人質の女性に尋ねると、建物の奥には子供も閉じ込められているらしい。
子供に現状は見せられないので、先に殺されたり乱暴された人質に順番にリターンの魔法を長めにかけていく。
人質として連れて来られた一人一人を、傷も記憶も連れてこられる前の状態へと戻して行く。
少々時間はかかるが、リターンという魔法はそういう事が出来る魔法だ。
人質となっていた女性達の治療を終えてから、奥の部屋の子供達を開放する。
子供達が女性たちと合流すると大騒ぎになった。
一旦、牧場の入口に向かわせて村の案内役と合流しておいて貰う。
そういえば、盗賊に指示をしていたというPCはどこに消えたんだろう。
いつの間にか外は明るくなっていて、牧場は既に朝日に包まれていた。
牧場の中を人質や盗賊がもう居ないかどうか、一回りしてみたが見つからなかった。
村人の案内人と相談した結果。人質として連れて来られた人達には先に村へ戻って貰う事になり、牧場の入口の外まで見送って村へと送り出す。
彼らを送り出した後、スズを探しに建物に戻る。
スズは神様の試練をこなせただろうか・・・、と考えながら建物の前に戻ると倒れていた盗賊がいない。
まさか、と思い建物内を探してみる。
だが、中で倒れていた盗賊も消えていた。
半死の盗賊に回復魔法をかけたヤツがいて、治療して逃げた?
まさか例のPCが?
まずいな・・・と焦っていると、建物の裏手からスズがやって来たので聞いてみる。

「と、盗賊がどこに行ったか知りませんか?」
「えっと、外で火葬しようと思って遺体は建物の裏に全部運んであるよ」

ああ、そっか。死体はせめて焼いてやらないと。

「生きてた盗賊はどうしました?」
「ちゃんと止めを刺しておいた。痛みが長引くだけだからね」
「そうですか、出来ましたか」

スズの神様がそういう刺し方してたな、多少の治療では治らない傷をつけて。
強い痛みと苦しみしか無い状態にして放置すれば、彼らを楽にする為にはスズは止めを刺すしかない。
彼らの治療を僕がするハズもないし、他に方法は無いのだ。
一人一人自分の意志で止めを刺す事で、スズがちゃんと成長する様に仕掛けを。
スズの神様もちゃんと考えているんだな。
建物を裏へ回ると遺体が並べられていた。僕が止めを刺した門番の死体もちゃんと回収されていた。
僕が門番の顔をマジマジと確認していると。

「あの、ごめんなさい!」

振り向くとそこにはまたもや土下座をしたすずがいた。

「私、上手くやれると思ってた。私の腕なら相手を傷つけずに捕まえて村の皆を助ける事が出来る。誰も傷つかなくて事件も解決って、村人の被害も知ってたのに・・・。あなたが刺されてようやくそんなの無理なんだって気が付いて、そしたら動けなくなっちゃった。神様が動かしてくれたからあの場は何とかなったけれど・・・」

仮に無傷で盗賊を全員捕まえて村に引き渡しても、怒っている村人が盗賊を全員きつい拷問の上で処刑するだろう。
蘇生したとは言え、女子供を連れ去られ。村の仲間を全員殺されるなんて目に遭ったのだ、それぐらいは当たり前にするハズだ。
村人のそれほどの恨みを彼女は理解していないのだろうから、無傷で捕まえた盗賊を村人に引き渡せば大団円ぐらいに思っていたのかもしれない。
土下座から顔を上げるとスズは僕にキッパリと言った。

「もう、あれこれ考えたりしないよ。迷う事で他の人が犠牲になるって解ったから」
「そうですか、なら僕から言う事は何もありません」

遺体を山に積み薪や藁をくべてから僕らは遺体に火をかける。
嫌な匂いと黒い煙に顔をしかめていると。
遺体の燃える様から目を逸らさぬままスズは僕に宣言してみせた。

「もう迷惑はかけない。今度は、私があなたを絶対に守って見せる」

まだまだヒロイックな願望の抜けていないのだろう、キラキラとした目で僕を見る。
戦闘スキルを持たない僕を弱キャラとでも思っているに違いない。
まぁ、いいか・・・
パチ・・パチン
遺体の焼ける音だけが辺りに響く。
煙の来ない風上に回り込み煙の行方を見守る。
この世界の魂は何処に行くんだろう、複製の僕達には魂はあるのかな。


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