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童貞で三十歳を迎えたら魔法使いになってたよ! 作者:下北沢
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空振り

よーし、やるぞ!
なんて思っていた気持ちは、既に何処かに飛んで行った。
待合の椅子の上にはグッタリと疲れ切った仲間の面々が項垂れている。
ズールの町の斡旋所の窓からは朝日が差し込んで、今日も良い天気である事が判った。

「えっと皆さん、お疲れ様でした」

ジョーイさんの労いの言葉に反応する者もいない。
出発したメンバーはそのまま一人も欠ける事無く、無事に帰って来た。
メンバーが一人も増える事無く・・・だ。
どうしてこうなった!

僕達は行方不明のPCの捜索に一晩中歩き回った。
皆が装備を整え、万全な体制で出発をした。
ジョーイさんから行方不明のPCが使っている生産のルートもキッチリと把握し、各人のルートをくまなく探して歩いたのだ。
だが、死体はおろか。襲撃の痕すら発見する事が出来なかった。
この町の斡旋所の営業は日の出からなので、それまで行方不明の3人の生産ルートを二回も回った。
お陰でみんな疲労困憊で斡旋所に戻って来たのだ。

「皆さん、疲労回復にリターンをかけて回りますので全身にかけるか一部分にかけるか言って下さい。全身にかけた場合は歩き回った一晩の記憶も消えますので注意して選択して下さい」
「全身でお願いするっす、ムダな記憶は別にいらないっすー」

ケイトがヒョイと立ち上がって寄って来た。
全然元気そうに見えるけど・・・

「ならここにうつ伏せに寝そべって下さい」

僕はベンチを空けてそこを指し示すとケイトがそこにうつ伏せになったので、両手でリターンを起動した。
30時間戻すと5分ぐらいだから・・・2分ぐらいかな。
頭の中で120を数えてリターンを終えると

「ふぉっ、何で斡旋所に!私、死んだっすか?」

ケイトは起き上がって僕の顔に気が付き、そんな事を言った。
それはそうか、記憶が飛んでるんだから。

「ケイトはここで目が覚めるまで何をしていましたか?」
「えと・・・町を出てどのルートに行こうかって話してた所っす」
「そうですか、なら巻き戻し時間は丁度良いぐらいですね」
「何があったんすかー?」
「細かい事はそこでグッタリしてる人達に聞いて下さい。それじゃ次の人どうぞー」

ケイトへの説明は他の人に丸投げして次の人を呼ぶ。

「ふぁぁ、よろしくー」

次は眠そうにしてるエルザか。

「全身ですか?一部にしますか?」
「全身でいいー」
「判りました、12時間分の記憶は残りませんよ?」
「いらなーい」

まぁ、そうだよね。

「じゃあそこにうつ伏せになって寝て下さい」
「はーい」

うつ伏せになったエルザにも両手を当ててリターンを120数えてかけてあげた。
同じ様にしてメンバー全員にリターンをかけて回ったが、全員が全身のリターンを希望した。
飛び入りのサクラですら説明をすると「皆さんが全身なので私も」と言うので、全身のリターンをかけてあげた。
これで僕を除く全員が一晩中歩き回った記憶が無くなった。
とは言え、プレイヤーの神様に巻き戻しは掛からないから各自の神様が覚えているのだけれど。
流石にマナとお腹が減った上に眠い。

「一度宿に戻って寝てもいいですか?起きてからまた考えましょう」

皆も徹夜をしなかっただけで普通に寝る前の時間に戻ったのだ、宿に戻っても寝られるだろう。
僕の提案を皆が賛成してくれたので、宿屋に戻る事にした。

「タロウさん、パン屋ならこの時間から空いてますよ。空腹でしたらそちらに寄ると良いです」
「判りました、行ってみます」

僕らが宿屋に戻る事を決めると、ジョーイさんが気を利かせて教えてくれた。

「サクラ、すみませんが一度休んでからまた斡旋所に来ます。その頃にまたこちらで」
「判りました、お疲れ様です」

斡旋所を出るとお日様がまぶしい、そう言えばこの恒星って太陽じゃないんだっけ。
徹夜と疲労で少しハイになっているのかな、しょーもない事考えてしまう。
僕達はパン屋に寄って食べながら宿屋に戻り、僕は部屋に入って服にリターンをかけてから倒れる様にして寝た。

ドンドン!
「・・・い」

むむ?
ドアを誰かが叩いている?

「タロウ!起きなさいって!」
この声はスズか、まだ寝足りないけれど夜寝れなくなるのも困る。仕方が無い、起きますか。
目を擦りながら鍵を開けるとスズが飛び込んで来た。

「どうしたんですか?そんなに慌てて」
「軍隊よ、軍隊が来たの。斡旋所と私達を捕まえに来たらしいのよ!」

僕の頭が一気に目覚めた。

「どういう事です」
「判らないわよ、兎に角装備を身に着けて下に!」

僕は慌てて装備を身に着け荷物を背負って部屋を出た。
宿の一階の食堂にみんなが揃っていて、その中にサクラの姿もあった。

「おはようございます、一体何が起こったんですか?」
「私達も今サクラから聞いたばっかりで状況が良く解ってないんだ。サクラ、あんたからタロウに説明してやってくれ」

真っ先に僕と目が合ったから説明をしてくれるのかと思ったら、マインはサクラに説明を丸投げする様だ。

「先程まで私は斡旋所に居たんですけれど、斡旋所のジョーイさんからの緊急ミッションなのでみなさんを呼んで来る様にと言われて来ました」
「どんな内容なのか聞いてますか?」
「えっと、王国軍が斡旋所のジョーイさんの引き渡しと斡旋所へ出入りしていた者全員の引き渡しを要求してきたそうです。そこで、タロウさん達一行に至急斡旋所へ来て下さいと」
「はぁーー!?そんなに大事になっているんですか!」
「ええ、ジョーイさんは楽しそうにしてましたが・・・」
「大丈夫っすかね?斡旋所に行ったら軍隊相手にする事になるんっすよね?」

ケイトが心配そうに僕に聞いて来る。
サクラの報告で一気に目が覚めた。
王国軍の狙いはジョーイさんと斡旋所が目的で、僕達はオマケ程度の目的に違いない。
だが、大人しく捕まってしまえばロクでもない罪を押し付けられて処刑されるか奴隷にされるだけだろう。
仮に僕達が逃げてもジョーイさんが大人しく捕まって、斡旋所を奪われるなんて事はありえないだろう。
あの実力であれば、一人で軍隊ぐらい蹴散らせる力は十分にある。
だが、運営が目立つ訳にもいかないハズだ。
そうなると、僕達に表立って活躍してさせるつもりで、緊急ミッションを発動したのではなかろうか。
運営のバックアップ付きでのミッションなら悪く無い話しだ。

「選択肢はさっさと逃げるか、斡旋所に行ってミッションを受けるかですか・・・。ほっといても軍隊なんてジョーイさん一人で倒してしまうでしょう。それをわざわざ緊急ミッションにするのは、運営は目立ちたくないから僕達に倒させたいのでしょう。運営のバックアップ付きのミッションです、受けない手はありません」
「そうなんですか!?」

僕の推測が予想外だったらしくサクラが大げさに驚いている。

「王国軍は僕達の捕獲も目的にしているのですから、どのみち戦闘は避けられません。ミッションを受ければポイントの稼ぎも格段に跳ね上がりますし、運営に貸しを作る良い機会です」
「それは良いな、いざとなったら斡旋所に逃げ込めばいいんだろ?」

ポイントが稼げると聞いてマインのやる気が上がったらしい。
緊急ミッション中はポイント二倍とか言って、抜け駆けしたぐらいだしね。

「わーい、やっと銃が撃てるよ」

エルザは単に銃の威力を試したいのか、本気で喜んでいる。

「行きましょう。斡旋所に」

僕達がゾロゾロと宿屋から外に出ると、昨日見た装備の連中に囲まれた。
これって確か自警団の装備じゃなかったっけ。

「お前達が斡旋所を利用していた事は判っている、大人しくしろ!」
「断る」

さっきの会話でやる気の溢れるマインは、相手が槍を構える前に僕の後ろから飛び出し兵士との間合いを詰める。
兵士の武器は槍なので、構える前に接近されては打つ手がない。
ザザザッ!
マインはフェンシング特有の低く伸びる姿勢をとると、一瞬で三人の頸動脈の辺りを一気に切り裂いた。

「ギャァァァ」
「これは良い切れ味だな、エルザの作った武器。かなりいいぞ」

剣を一振りして血を払うと武器をかざして見せる。
どうやら新しい武器を試したくてウズウズしてたのはエルザだけではなかった様だ。

「ほほう、では私も」

ハンドアックスを両手に構え、別の二人にに向かって行くジュリア。
相手は既に槍を構えているが、斧をヌンチャクみたいに振り回しながら走り寄る。

「よくも三人もやってくれたな!」

兵士二人は怒りながらもジュリアに対し一斉に槍を突き出すが
バキッ!バキッ!
勢いのついた斧は突き出した槍を二本共へし折ってしまった。

「なっ!?」

槍が折れたのを確認した瞬間ジュリアは大きく踏み込み一人の頭を側頭部からの一撃で吹き飛ばす。
そこから次の踏み込みで二人目の兵士の鎖骨辺りから斧を斜めに食い込ませた。
兵士にめり込んだ斧を引き抜くと、斧の刃を確かめながら武器の性能に感心していた。

「ふむ、刃こぼれしないのは有難いな」

あっと言う間に5人も殺されて怯んだのか、指揮官らしき者が退却を命じる。
囲みが解け後退し始めている兵士に向かって
ドンッ!
エルザの放った銃弾が、指揮官らしき者の頭を吹き飛ばした。

「うぁぁ、魔法だーーー隊長もやられたぞ、早く逃げろ!」

隊長と呼ばれた男の頭が吹き飛んだ事で、兵士達は一目散に逃げて行った。

「あー、逃げちゃった」
「おいおい、エルザ。指揮官は動けなくしとけばいいんだ、昨日見たろ?」
「そっか、忘れてた」

マインは昨日のジョーイさんの指揮官人質作戦を参考にしろと、エルザに言っているらしい。
なんだかみんな化け物じみてきたな、軍隊相手でも平気そうな気がする・・・

「邪魔をする人達もいなくなりましたし、斡旋所に行きましょう」

僕達が歩き出すとサクラが僕に聞いて来る。

「いつもこんな感じなんですか?」
「みんな武器を新調したから使いたかったみたいですね」
「いえ、殺しちゃったりとか」
「あー」

そうか、ずっとこの町で生産とかやってたから他の地域の治安とか知らないんだ。
納得させる時間も無いし、誤魔化しておこう。

「死んでも寺院の僧侶に頼めば蘇生してますからね、気にしても仕方ないですよ。彼らだって、昨日ジョーイさんに殺された兵士ですし」

スズもこの手の倫理観があったけれど、場数を踏んで今に至っている。
この娘にも働いて貰うにはそこまでの時間はかけられないので、殺してもみんな死なないって少年誌の設定を信じて貰うのが一番かな。
まぁ、昨日の兵士の顔なんていちいち覚えていないから、絶対にそうだとは言えないが。

「えっ!そん感じなんですか」
「少なくとも兵士は死んでも生き返ってきますよ、僧侶にどれだけお金を支払うのかは知りませんけど」

下っ端辺りは判らないけれど、昨日の団長とやらはもうピンピンしてるだろうな。
斡旋所の前に到着すると、昨日と全く同じ光景がそこにあった。
金の鎧に身を包んだジョーイさんとそれを囲む自警団という構図。
あれっ?先頭にいるのは昨日ボコボコにされた団長?

「あっ、団長さん生き返ってますね」

いや、あの人ジョーイさんがワザと半殺しにして放置してたけど、死んではいないんだよね。
サクラの言葉に心の中でツッこんでおいた。
まぁ、死んでも生き返るって話の証明になってくれるのだから黙っておこう。

「あたし達でやっちゃおうか?」
「撃つ?撃つ?」

マインとエルザは参加したくて仕方ないらしい。

「いえ、ジョーイさんの邪魔になる訳にもいきません。見学しましょう」

渋々とではあるが、みんな見学に回ってくれた。
ボゴッ!バキャッ!

「うぁぁぁ、団長!」

バゴッ!ドゴッ!ガギン!!
その後は昨日とまるで同じ光景が繰り返されていた。
自警団の死体とボロボロにされて呻く団長が転がる中、ジョーイさんが僕達にお辞儀をした。
またもや団長は見逃してやるらしい。

「お呼び立てして申し訳ありません、お話は中で致しましょう」

ジョーイさんに招かれて斡旋所に入ると、着替えも終えて返り血も拭いたジョーイさんがカウンターの向こうに座っていた。
僕達がそれぞれ適当に椅子に座るとジョーイさんが説明を始めた。

「今回お呼び立てしたのは緊急ミッションが発令されたからです。参加は自由ですが、高ポイントが稼げるのでかなりお得だと思います」

サンガの町でも強制ミッションだったっけ。

「えっと、ミッションの内容はどんな感じですか?」
「今回は外にいる国軍一個大隊の約500名を潰走させる事です」
「500人ですか・・・」
「そう難しい事でもありませんよ?司令官を一人殺すだけでも潰走するでしょうし、やり方はいくらでもあると思いますよ」

ああ、なるほど。エルザの銃でカタをつける事もできるのか。
ジョーイさんの言葉に、チラリとエルザの方を見る。
僕の視線に気が付いたエルザが、「私の出番だ」とばかりに銃を掲げてドヤ顔だ。

「ちなみに、敵を倒した時の配分ってこの場合どうなるんだ?」

マインはこのミッションのポイント配分を知りたいらしい。

「ミッションを受けた者全員が同じだけのポイントを得ます。何もしなくてもポイントは貰えますが、活躍に応じたポイントもありますのでオススメはしません。今回はボーナスミッションだとでも思って下さい、敵を逃がさずに殲滅すればそれだけ多くのポイントになるのですから」

あれっ?そんな事話しちゃっていいのかな・・・
まぁ、敵の指揮官を半死にして囮にすれば、倒し放題かもしれないし狙ってみてもいいか。
斡旋所のトラブルが原因って事で、破格のサービスをしてくれるらしい。

「判りました、ミッションを受けます」
「タロウさんの一行は全員参加でよろしいですか?」

一同を見回すと、みんな頷いている。
まぁ反対する人もいないし、いいか。

「はい、お願いします」
「サクラさんはどうしますか?」
「えっと、それじゃあ参加してみてもいいですか?」
「判りました、タロウさんの一行と話し合って協力しながらやってみて下さい」
「はい」

サクラは戦力に数えない方がいいのかな?実力もよく分からないし。

「ジョーイさんこの町の高台ってどこになりますかね?」
「今回に限って言えば、町の大門の上が砦の代わりとして使えます。軍の布陣は門の外なので、上から狙い放題です」
「それは中々良いですね。ちなみに、ここには矢の在庫はありますか?」
「はい、倉庫に1000本程。今回は経費に計上させて頂きますのでお好きにお持ち下さい」
「あっ、ならば私でもお役に立てそうです」
「サクラは弓が使えるんですか?」
「はい。私は弓の方が本業です、この薙刀は天使様がお使いになる武器です」

サクラは薙刀を僕にかかげてみせる。

「天使様?」
「はい、私に啓示を下さいますプレイヤーたる天使様です」

ああ・・・そうか、唯一神信仰だからだ。父と子と聖霊以外は神様とは認めないんだっけ。
プレイヤーの神様も、神の使いの天使って事にでもして納得させたのかな?
なんだか僧侶の司祭クラスのスキルが取れそうな程に、信仰心のステータスが高そうに見える。
この娘、もしかして・・・。
いや、今は余計な詮索をしている場合では無い。

「弓はどちらに?」
「ここに預けてあります、ジョーイさんよろしいですか?」
「判りました、少々お待ちください」

ジョーイさんは奥から現代弓のアーチェリーと同じ形状の弓を持ってきた。

「サクラさんこちらへサインを」
「はい」

サインをしてサクラが弓を受け取ると、弓の説明をしてくれた。

「この弓はこちらに来てからコツコツと設計をして鍛冶屋さんに頼んで作ってもらっていたんです。でも、

この格好には似合わないから薙刀を持ち歩いてたんですよ」

「ちなみにその恰好は何かのコスプレですか?」
「日本のアニメで有名なサクラだそうです、私の名前もそこから付けて頂きました」

いや・・・それで判る訳がないでしょうに。
どうやらサクラの神様が犯人の様だ。
せめてカードをキャプチャーする娘とかロボに乗る帝劇トップスターであるとか、少しは情報が無いと元ネタは判らないぞ。
まぁ、巫女服っぽいコスチュームだから色々混じってるんだろうけど。
外国だと2~30年前の日本のアニメが放映されて今頃ブームだったりするし、サクラの神様もそんなのを見ていたに違いない。
まぁ、セーラー戦士の恰好でウロウロしていないだけマシなのかも。

「タロウさん、矢をお持ちしました。500本です、お確かめください」

僕がサクラにヒントを貰おうとしている所に、ジョーイさんが矢を倉庫から持って来てくれたので話はそこまでになった。

「ありがとうございます。みんなで100本ずつ持って下さいね」

僕達は準備を済ませ、町の大門へと向かった。









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