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三十路になったら魔法使いになってた 作者:下北沢
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手続き

宿屋のベッドの上で僕は目を覚ました。
スッキリとした目覚めなので、睡眠から目覚めたのではないと理解できた。
ベッドから起き上がると、今日も股間の付け根がズキズキする。

「神様、またですか!これ出し尽くした感ありますよ!」

僕の抗議に対して神様は良く解らない事を言っている。

”情報収集をしたついでに、人助けをしただけですよ”
「お酒でも飲んで羽を伸ばしてくるのかと思えば、歓楽街の風俗店にでも行ったんですか?」
”病気の温床ですよ、あんな所は。医療技術の未熟なこの世界では、病気を貰えば死に至ります。悪の温床です、口に出してはいけません”
「風俗が危険なのは判りましたけれど、情報収集や人助けで出し尽くしてくるのは何でですか・・・」
”スパイにはロマンスが付き物なのです”
「全く意味が解りません・・・」
”腰や体にリターンを掛けても良かったのですが、色々と無かったことになっしてしまいますからね。いつかタロウが見る事もあるかもしれない記憶も消えるかもしれませんよ?”
「えっ!?見せてくれる気があるんですか?それなら絶対リターンしないで下さいね!お願いしますよ!絶対ですからね!!」
”タロウはHですね”
「あなたがしでかして来た事ですよ!」

コンコン、ガチャ
ノックと同時にスズが入って来た。

「何騒いでるのよ、そろそろ斡旋所に行くんでしょ?」
「ノックをしたら返事を待つぐらいはしましょうよ・・・。まぁいいです、神様とミーティングをしていたんですよ。準備は出来てるんで行きましょう」

僕は荷物を持ってスズと宿屋の入口を出る。
既に皆は待っていたらしい、どうやら僕が最後だ。

「おはようございます」
皆と挨拶を交わし、斡旋所に向かう。
僕はみんなの後ろに回り、誰か妙な歩き方をしてたり徹夜をしてフラフラの者がいないか観察をして見た。
だが、それらしい者はいなかった。
どうやら、神様は外で励んで来た様です。
はて?どこにそんな相手が・・・
僕達の目的地である斡旋所の前には人だかりが出来ていた。
皆で何事かと首をひねり近づいてみると、入口の前に死体が並んでいた。
死体の周りでは統一した武装の者達が、死体を囲んで何やら検分らしき事をしていると判る。
どうやら統一の武装は自警団で、死体を彼らが検分して荷車に積んでどこかへ運んでいく所らしい。
好奇心の強いケイトが、見物人に話しかけていた。

「何かあったんすか?この死体」
「強盗が返り討ちにあったらしいよ、そこの店に押し入って」
「ほー、これ全部強盗っすか」
「そこの出来たばっかりの建物よ、昨夜の夜中だって。物騒だねぇ」

そうか、斡旋所はゲーム開始と同時にオープンしたのだから、出来てまだ二カ月も経っていない新店なんだった。
僕達は死体が荷車への積み込みが終わるのを待ってから、斡旋所の中に入った。
奥のカウンターには事情聴取を受けるジョーイさんとさっきの自警団が話をしている。
聞き取りをしている自警団が誰もメモとか取っていないのは、この世界ではまだ紙は高いからなのだろう。
待合の席には日課の生産スキルの斡旋を受けるのを待っているのだろうか、四人の男女が座っていた。
斡旋所には関係者以外の一般人は入って来ない場所だけに、ほぼ間違いなく彼らはPCなのだろう。
男が一人女が三人、サンガで同じ男女比が行方不明になってたっけ。
ネッゲームのキャラクターの七割は中の人が男で、女性キャラの半分はネカマだと言われている。
このゲームだと中の人は神様だし、比率がどうなっているのかサッパリ判らない。
けれども、僕の今まで出会ったPCの男女比は女性が多い気はする。
僕達がゾロゾロと斡旋所の待合の場所に入って行くと、四人の中の一人の女性が僕達の所へやってくる。

「あのっ、生産の受付とかでしたら自警団の聴取の後になるみたいですよ」

話しかけて来たのは薙刀を持った女の子だった。見た目は中学生ぐらいに見えるのだけれど、斡旋所にいるのなら神様に選ばれたキャラクターだ。見た目など関係無く実力はあるのだと思われる。
外見は金髪碧眼のストレート、髪をポニーテールに結っていてとても似合っている。
だが、朱色の和袴と白の和装束はどう見ても巫女服だ。
足元には草履に足袋とかではなく黒いブーツを履いている、まるで女子大生の卒業式みたい・・・
神様の趣味なのだろうか、設定が色々間違えてる気はするがとりあえずは気にしない事にする。
どっかのマンガのヒロインを参考にでもしたのだろうか・・・

「僕達はそちらの後で構いません、生産系の受付ではありませんので」
「皆さんPTを組んでらっしゃるのですか?」
「はい、暫くは滞在するつもりです」
「あ、私。サクラと言います。何かの時はよろしくお願いします」
「ええ、僕はタロウと言います。その時は是非よろしくお願いします」

サクラと名乗った娘はペコリと皆に向かってお辞儀をすると席に戻って行った。
日本語ではなくフランス語だろうか、聞き慣れない言葉のハズが僕には普通に聞き取れていた。
金髪のフランス人がサクラって、ジュリアみたいになりきってるタイプなのだろうか。
当人が好きでやっているのか、神様にやらされているのか・・・
事情聴取が終わって自警団が出て行くと、四人のPCはそれぞれ動き出しジョーイさんの前に四人共並んだ。
生産の書類を引き出しから出した所で斡旋所の中を見回した。
僕達がいる事を確認したかったのだろうか、書類をPCには渡さず。

「現在、各斡旋所に運営からの通達が来ていますのでお伝えします。各所で生産系の斡旋を受けたPCが襲われて死亡する事故が多発しています、くれぐれもソロ活動は注意して下さい。本日未明にもこの斡旋所が襲撃を受けました。幸いにも撃退は成功しましたが、次はあなた方の番だと思って下さい。生産の斡旋を受ける方で腕に自信の無い方は、お止めになるかPTでの活動をお勧めします。以上です」

所内はシンと静まりかえった。

「では受付を開始します。では順番に、生産の項目に〇をしてサインをお願いします」

ジョーイさんの受付開始の声に先程の話を気にしているのか、ノロノロと書類にサインをして三人のPCが出て行った。
先程サクラと名乗った金髪巫女もどきの娘だけはカウンターの所に残っていた。

「サクラさんあなたはどうしますか?」
「私は・・・ジョーイさんの話を受けて、今日は止めておく事にします」
「そうですか、賢明な選択だと思います。日が落ちる頃にまたお越し下されば、何か情報が入っているかもしれません」
「判りました。夕刻にまた来ます」

サクラと名乗ったPCは僕達にお辞儀をして斡旋所を出て行った。
受付待ちをしていたPCはもう居ない。

「タロウさんのPTの皆さん、どうぞこちらへ」

ジョーイさんに呼ばれたので僕らはゾロゾロとカウンターへと集まる。

「先日の報酬の手続きと、昨日頼まれていた寺院襲撃者の調査依頼の依頼書の手続き。この二つの書類への手続きを順番にお願いします」

最近はこの報酬の手続きにも慣れて来たので、そのまま斡旋所で引き出せる手形に変えて貰う。
調査依頼は手をかざしてサインをするだけなのでもっと早い。
全員が手続きを済ませるとエルザがカウンターに座りジョーイさんに要望を伝える。

「あのね、工房に使える家があったら紹介して欲しいの・・・」
「物件ですか?」

エルザには相変わらず元気が無い、僕はエルザの隣に座って説明を補足する。

「エルザが武器の錬成をしたいと言うので、屋根付きで火を扱っても平気な物件を長くとも二~三日借りれたら有難いのですが・・・」
「お水」
「ああ、そうです。かなりの熱を伴うので水も必要になってきます、水場が近いと更に良いのですが」
ジョーイさんはチラリと僕の顔を見てから席を立つ。
「少々お待ち下さい、資料を見てきます」
「お願いします」

何分か経った頃にジョーイさんは資料を手に戻って来た。

「この町には斡旋所の所有する物件で訓練所・避難所・射的場・ボートハウスがあります。こちらのボートハウスはいかがですか?」
「ボートハウスって船の係留所ですか?」
「そうです。川からの引き込みになっていますので、淡水です。屋根もあって壁も石造りですので丁度良いかもしれません」
「条件も揃っていますし、良さそうですね。ここにしますか、エルザ」
「うん」
「場所は今皆さんがお泊りになっている宿から200メートル程の川沿いの物件です」
「あっ、この町の地図も欲しいんですけれども、いいですか?」
「人数分必要であれば手形から全員引いておきますけれど?」

まぁ、かなり大きな町だし。各自で一枚ずつ持ってた方が良さそうだ。

「お願いします」
「判りました、少々お待ち下さい」

ジョーイさんはまたチラリと僕の顔を見てから裏の部屋へ入って行った。
何だろう?僕の顔に何か付いてるのか髪が乱れたまんまとかかな?
僕は慌てて手櫛で髪を整えた。
今度は10分程してジョーイさんは戻ってきた。

「すみません。トナーの交換に時間が・・・ゲホンゲホン、急いで書き写してきました」

今トナーの交換に時間がかかったって言いかけてましたよね!
あの部屋にコピー機があるのではないですか!?
時代考証的な事が台無しですよ?
ジョーイさんは素知らぬ顔で僕達に地図を渡しながら注意喚起をする。

「町中とは言え決して一人では歩かないで下さいね、特にタロウさん。昨夜の賊もタロウさんを探してここを襲撃してきました。宿屋とて安心出来るかどうかは分かりません、出歩く時は必ず護衛を付けて下さいね」

そう言って僕の手を握って離した。
はて?ジョーイさんがやたらと親切な気が・・・

「判りました」
「ボートハウスと宿屋と斡旋所には印を付けておきました、ボートハウスの料金は後日清算を致します。直接見て気に入らなければ言って下さい、別の物を探しますので」
「有り難うございます。早速行ってみます」

僕達はジョーイさんにお辞儀をして斡旋所を出ると、中からジョーイさんに呼び止められた。

「タロウさんちょっと」
「はい。皆さん、ちょっと待ってて下さい」

ジョーイさんから呼び止められたので、皆を外に待たせて中に戻る。

「昨夜は有り難うございました、暫く町にいらっしゃるならまたお願いします」

サッと耳打ちをしてジョーイさんは奥へと戻って行ってしまった。
ん?んんん!?
昨夜?僕じゃない・・・神様かっ!
何したんですか、神様!
色々と神様には聞きたい事があるけれども、皆もいるしここでは聞く事も出来ない。
今は諦めて皆でボートハウスに向かう事にした・・・
賊が僕を狙っていた事とか、誰が賊を返り討ちにしてくれたのか気になって仕方が無い。
そういえば神様は「スパイにはロマンスが」とか言ってたっけ、スパイ映画の主人公になりきって何をしでかして来たのだろう・・・
「ロマンス」とやらの打ち止めの相手もサッパリ判らないし、今夜ちゃんと神様に聞かなくては。

「何フラフラしてるの、運河に落ちるわよ?」

スズの声に我に返った僕はボートハウスに向かった。
+注意+
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