挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
童貞で三十歳を迎えたら魔法使いになってたよ! 作者:下北沢
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

44/71

奪還

マインを助け出してムサシと名乗ったPCの死体を焼却していると日が落ちて来た。
副団長と部下の二人は戦闘後。敵の馬車の痕跡を探っていたみたいだったが、成果は上がらなかったらしい。
暗くなってしまったので、彼らも捜索を断念したみたいだ。
僕達はマインの救助という目的は果たしたので、町へ戻る事になった。
帰り道はもう真っ暗で、ランタンを灯しての帰路となった。
その道すがら僕の所にマインがやってきて
「すまなかったな。勝手な行動した挙句に返り討ちにあったのを助けてくれて、ありがとう」
と僕に感謝をしてみせる。僕はマインのお礼に対して疑問を聞いてみる事にした。
「そもそも、どうして敵を追いかけて行ったんですか?ケイトからは馬で走り去る者を追いかけたとかは聞きましたけれど。しかも夜襲までかけるなんて・・・」
「ああ、私のプレイヤーの神様って基本インドア派だから、戦闘は自力で何とかしないといけないんだ。まぁ、頭脳派だから助言は多くしてくれるし的確なんだ。その神様がもうすぐランキングの発表だから残党を倒して稼げって言うんだよ。爆発の時はあんたが立ち上がるのをケイトが確認したから、まぁ大丈夫かなって思ってさ。ウチの神様曰く、斡旋所の依頼の中でも殲滅や護衛はポイントが高いらしいんだ。私達は護衛の依頼と殲滅の依頼を受けてて、その契約中だと対象になる敵を仕留めた時のポイントは二倍近くになるって話なんだ。しかも対象にPCが含まれてた場合のポイントは凄いらしいんだよ」
ああ、なるほど。マインの神様はランカーになる気マンマンだったのか、それなら一見無謀とも思える行動に出たのも頷ける。
スズが一緒にいた場合はポイントが奪われて稼ぎが悪いだろうし、不意に湧いて来た絶好の機会だったのか。
唆したのが神様なら文句を言っても仕方ない、返り討ちにされて死体となって転がっている間に少しは後悔をしたのだろうし。
「ランキングの発表っていつなんです?」
「月に一度らしいから二日後?ウチの神様は私の倒した敵の数や生産系の納品の数から、ランキングの累計ポイントの細かい内訳を割り出すって言ってる」
「何か判明したら教えて下さい」
「ああ、判った。でかい借りを作ってしまったしな」
僕達が会話をしながら歩いていると、町が暗闇の中に見えて来た。
ランタンの灯りを頼りに町に近づくと
カーーン、カーーン、カーーン
と鐘の音が聞こえて来る。
この音には聞き覚えがある、確か緊急を告げる警鐘ではなかっただろうか?
音を耳にして、真っ先に動き出したのは副団長。後ろを歩く部下に
「お前たちは先行して町の警鐘の理由を調べてこい、何か判ったら一人戻って来る様に。いいな?」
「はっ」
「了解です」
部下の二人は返事と共に、ランタンを持って町へ走り出して行った。
僕達が森に近い出入り口から町に入ると、住民達が口々に騒いでいるのが聞こえてきた。
「火が町のあちこちに延焼してるぞ、どうなってるんだ!」
「水路から桶で汲んで消せ、外から燃えてるからすぐに消える!」
どうやら火事らしいけれども、消火はあまり進んでいない様だ。
あちこちで延焼?、風が強い訳でも無いのに?
「はぁぁぁ、家に火が。水!誰か水を!」
燃え方は大した勢いがある訳ではない、しかし消火する為の水が足りて無いらしい。
僕らの傍からいつの間にか抜け出し、燃えている家にエルザが近づいて行く。
杖を腰から引き抜き構えだした所を見ると、どうやら何かの術法を使うらしい火を消すつもりなのだろうか。
即興で魔法式や錬金術式は組めないので予め用意していた術式を使うしかない、エルザの術式のストックの中に火を消す術式があるのだろうか・・・
エルザの前に錬金窯が現れると、エルザの前から火元へと向かって行って
ボフッ
という音と共に錬金窯が消え、それと同時に火が消えた。
驚いた住人はエルザに向かって
「ありがとうございます、魔法使いのお嬢さん!助かりました」
と言ってペコペコと頭を下げる。
「ちゃんとお水を掛けて下さいね~、火元に熱が籠ってたらまた燃えちゃうから~」
「わかりやした!」
住人が桶から水をまだ煙の出ている部分に掛けるのを見届けると僕達の所へ戻って来て
「火を消してあげたいんで~、皆さん付いてきて貰ってもいいかなぁ~?」
「構いませんよ、全員?」
「そうです~、犯人と出会っても戦える様に~」
「えっ!?。犯人って、この火事の犯人がいるって事っすか?」
ケイトが驚いてエルザに聞き返す
「目的は判りませんけど~、放火して回ってる人がいます~。」
「この火事放火なんすかっ?」
「そうですぅ~。風も無いのにこんなに火は点きません~、複数犯かもしれません~」
「判りました。この火事は放火で、その犯人と出くわす可能性があるから皆で移動しながら消火して行くつもりなんですね?」
僕が話を纏めるとそれに頷いてから別の火事を指さし
「そうなんですぅ~。それじゃあ、次はあの火元にいきましょ~」
と言って歩き出した。
確かにエルザがいきなり犯人と出くわせば、犯人に襲われかねない。
そもそも住人と区別がつかないのだから、こちらからは攻撃もしにくい。
犯人が火を点ける現場を押さえるしか無いのだろう。
火元に着くとエルザはまた杖を掲げる。
今度の現場も外側の一部が燃えている、そこへ向かって錬金窯を同じ要領で繰り出すと
ボフッ
という音と共に、先程の現場の火元と同じ様に火は消えた。
爆発も起きていなければ、水浸しになってもいない。
となると、あれは酸素の濃度を極端に下げた結果なのだろう。
以前、エルザが盗賊を昏倒させるのに使った「中毒」の術法では周囲の人間は一酸化炭素中毒を起こす物だった。
だが人が火元の傍にいるかどうかをエルザは確かめていない、となると安全な気体であるのは間違いない。
以前のとは別の気体・・・窒素か二酸化炭素を錬金窯に集めて火元に飛ばし拡散させて酸素濃度を下げたのだろう。
確か窒素も二酸化炭素も安全な消化ガスとして使われていたハズだ。この世界の魔法の発動には魔道炉や錬金窯に発動の材料を魔力の範囲から引き寄せる、そこら中に漂っている二酸化炭素や窒素なら発動が早いのも頷ける。
どちらも化学反応の基礎的な物質であるだけに、使い慣れた術式なのだろう。
その後も次々と錬金術による術法で火を消していくエルザと、それにゾロゾロと付いて行く僕ら。
町の人達も、僕らが到着すると道を開けてくれる。
どうやらエルザが火を消しているのが口伝で伝わったのだろう。
エルザは炎に焼かれる家屋の前に立ち、少し長めに集めた消火ガスの術式の錬金窯を炎の中心に送り込む。
ドボッ
炎の中心で錬金窯が消え、それと同時に消える炎。
オオーーッ・・・パチパチパチ
集まっていた住人から感嘆の声と共に拍手が起こる。
エルザは恥ずかしいのか、杖で顔を隠しながら次の現場に向かう。
こんな調子で町の殆どの火が消し止められた頃、僕達の所に副団長が走って来た。
かなり走り回って来たのか、呼吸を整えてから僕達に向かって
「皆さん、まずは火消しをして頂いた事感謝します」
と言ってエルザに向かって頭を下げる。
エルザは僕の後ろに隠れてしまったので、僕が代わりに返答をする。
「今回大活躍したのはエルザです、ただ照れくさいのか余り大事にはしたくないみたいです」
「いやはや謙虚ですな、町の者に代わってエルザ殿にお礼を申し上げます」
副団長はワザと周囲に聞こえる程の大声でエルザを印象付ける。
ワーー!パチパチパチ
僕達の周りにいた住人からも大きな拍手が起きた。
この人、人を目立たせないと気が済まないらしい。
住人の一通り拍手が終わると、住人達を追い散らす。
「実はお耳に入れたい事が、同行して貰ってもよろしいですか?」
と言って返事も待たずに歩き始めてしまった。
僕達は顔を見合わせてからため息を付くと、副団長の後を追った。
ズンズン歩いて行く副団長は建物の前で立ち止まる。
「こちらは以前に来て頂いた自警団の南の詰め所です」
以前ここに来たのは明るい時間だったからなのか、暗い中ランタンの光の中で見る詰め所は印象が違う様だ。
建物の入口には何者かが立っているのが見える。
僕達の姿に気が付くと
「副団長、そいつらか?お前が呼んだのは」
「はい団長殿、彼らに頼もうかと」
団長?この男自警団の団長か、なんかちょっと横柄な感じだ。
団長は僕らの事を値踏みするかの様にジロジロと眺めて来る。
副団長は気にせずに僕らを中へ通す。
「では中へお願いします」
副団長の案内で入口の扉をくぐると、むせ返る様な血の匂いが鼻腔に飛び込んで来た。
奥へ進むと自警団の兵士の死体が二体並べられていた。
「すみません、タロウ殿。この二人昼間に同行した二人なのですが、この詰め所で死体となって発見されました。この二人の蘇生をお願い出来ますか?」
なるほど、良く顔を見ると昼間に付いて来た二人だ。
説明も無く蘇生を頼む所を見ると、殺された理由も相手も判っていないのだろう。
僕らの後から入って来た団長が
「何故、部外者なんかに頼らなければならんのだ!この件は我々だけでも解決できるだろう」
などと言い始めた。
「はっ。しかし殺された者の蘇生をお願い出来れば、襲撃者の話が何か聞けるかもしれません。それに現在この町には死者を蘇生出来る者がおりません、彼らに頼むしかないのです」
「チッ、ならとっとと蘇生を済ませろ」
「はっ」
クルリと僕の方に振り返ると小声で「申し訳ありません、お願いします」と囁く様に僕に言ってくる。
「判りました」
僕は引き受ける旨の返事を団長に返して死体の一人に両手を当てる。
リターンの魔法を発動。すると死体は殺されてからの時間はあまり経っていないのか、すぐに傷が消えた。
「うぁぁぁーーーっ」
バッ、シュバッ
叫びながら起き上がった若い兵士が起き上がりざまに僕に斬りつけた。
僕の上腕部がスパッと切り裂かれ、血が流れだす。
痛っ
どうやらこの兵士の手が背中に回っていたから気が付かなかったが、武器を握ったままだったらしい。
起き上がった若い兵士は武器を構えてさらに僕に襲い掛かってきた。
「やめろっ!」
若い兵士が僕に武器を向けるのを見て、ジュリアが声を上げる。
ジュリアの声と同時にナイフが生き返った兵士の顔のすぐ横に刺さる、これはケイトが投げたナイフだろうか。とっさの事に驚いたのか兵士は後ろに飛びのき剣を構える。
ジュリアが盾を構えて突進し僕と兵士の間に入る。彼女は盾を前面に押し出し腰から斧を抜いて、武器を下ろさない若い兵士ににじり寄って行く。
「うぉぉぉぉっ」
死んだ時の記憶でパニック状態なのだろうか団長の制止の声は耳に入っていないらしい、若い兵士はジュリアに向かって雄たけびを上げて斬りかかる。
「恩を仇で返そうとは良い根性だ、再び死体に戻って貰う」
副団長が僕の顔をチラチラと見て「止めてくれ」と目で言っているが判ったが無視しておく、兵士の武器を外さずに蘇生させたらどうなるか判っていなかったのが悪い。
ジュリアはフェイントを一度入れてから脳天目掛けて斧を振り下ろし、フェイントに引っ張られた兵士は反射的に剣で防御をしてしまう。
バギャッ
ジュリアの斧は剣を砕き、兵士の脳天をカチ割った。
若い兵士は再び死体へと戻った。
「貴様らぁぁぁ!」
団長が怒りの声を上げるが、そのな事は気にもせずジュリアは
「タロウ殿、この件一旦手を引くべきです」
と言ってくるので、僕もそれに頷いて
「そうですね、引き上げましょう。失礼しますよ、副団長」
ここは仕切り直した方が良さそうだ、あの団長の前だと副団長は何も発言出来ないみたいだし。
出入口に立つ団長にジュリアは
「出入りの邪魔だ、どけ」
と言って睨みつける。
団長が何かを言い出す前に副団長が割って入ってきて
「団長、ここは彼らに頼らずに我々でこの件を片付けるチャンスですよ。彼らには帰って頂いて、我々で捜査をやりましょう!」
「なに!?だがこ奴らは、・・・先日の賊を取り逃がした件の挽回をするには、我々だけでやらないと自警団の手柄にはならんしな」
などと言って団長を丸め込んでいる。
ああ、きっと街道を塞いでいた賊の片方を取り逃がしたのはこの団長だ。
団長は入口からどくと
「お前達になど頼らん、とっとと帰れ!」
などと言い始めるので僕達は引き上げる事にした。
ズキッズキッ
緊張が解けた事で詰め所が見えなくなった辺りで腕の痛みが激しくなって来た、みんなに断ってから座り込んでリターンを起動する。
血だらけだった服から血が消え、上腕の傷も消えた。
「大丈夫?」
スズが立ち上がるのに手を貸してくれたので、その手を握って立ち上がる。
僕らがその場を後にしようとすると、ランタンを掲げて追ってくる人影があった。
「いやいや、申し訳ない」
すっかり畏まった副団長だ。
スズが僕らを代表して副団長に
「もうっ!何なのあれ。あんなのが団長なの!?」
と詰め寄る。
「すみません、先日の賊の半分を取り逃がした自警団の作戦の失態を取り戻そうと焦っているのですよ」
これ以上この人を責めても仕方が無い、追いかけて来たのだ話があるのだろう。
「それで、僕達に話があるのではありませんか?」
僕が水を向けると
「おお、そうです。明日あの二人を霊安所に移しますので、その時にまた蘇生をお願いできればと・・・」
「まぁ、構いません。彼らの責任ではありませんし、ただし武器を外して縄で縛っておいて下さい。どうやら戦闘中に殺されたからなのでしょう、蘇生しても興奮状態で錯乱してまた同じ結果になりかねません」
「判りました、その様にいたします」
「用件は以上ですか?」
「いいえ、実は。先程までの火事の最中、賊の死体が全部無くなっていたんですよ」
「何ですって!」
「あの火事はその為の陽動だったのでは無いかと・・・あと、例の蘇生した捕虜が消えました」
「消えた?」
「先程の詰め所の奥に牢屋があるのですが、捕虜はそこに監禁してありました。けれど、詰め所に残っていた先程の二人は殺され牢の中は空でした。詰め所は襲撃を受けて捕虜は奪還されたのでしょう」
「蘇生された事も閉じ込められた牢の場所も全部筒抜けだった、という事ですか?」
「そんな・・・いえ、そうなのでしょう。それ以外に賊が捕虜の場所まで知っている理由がありませんし、私の方で調べてみます。私は詰め所に戻らないといけないのでここで失礼します、明日はよろしくお願いします」
「はい、お疲れ様でした」
副団長と別れた僕達は、皆で酒場で夕食を取る事になった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ