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童貞で三十歳を迎えたら魔法使いになってたよ! 作者:下北沢
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ブリーフィング

署名を終えた僕らは自警団の返事を待つ。
こちらはこちらで動いても良い気はするが、契約をしてしまった以上雇い主である町の代表達の意向には沿わなくてはいけない。
連絡を待つ間にこちらの役割を決めてしまおう。

「皆さん、戦闘に赴く前にブリーフィングをしたいと思います。まずはこの町のPCの三人に・・・あれ?アンナがいませんね。どこに行ったか知りませんか?」
「さっき署名しないで出て行っちゃったっすよ」

僕の問いにケイトから驚きの答え。

「アンナさん署名しなかったんですか!?」
「はい、ペンを握ってから暫く考えていたみたいでしたが。最終的に無記名のままペンを置いて出て行かれました」

僕は慌てて受付の女性にと尋ねると、彼女は正直に答えてくれた。
凄い決断をする人だ。斡旋所を利用しない状態で彼女に何が出来るのか正直思いつかないけれど、その精神には頭が下がる。
あくまで自分の主張を貫くという事だ、これは真似が出来ない。
ミッションで強制するって事は、運営は強引にでも戦闘をやらせたいって事なのだろう。

「仕方ありません・・・。ケイトとジュリアには弓矢が沢山飛んでくる事を想定しておいて欲しいんです。僕らは以前、彼らに遠距離からの弓矢で襲われました。今回も同様に弓矢の危険が想定されます、その為には小さめでもいいので盾が必要だと思っています」
「私は、これで大丈夫か?」

ジュリアが自分の持つ盾を持ち上げて僕に示す。
ジュリアの持つ四角くて大きな盾はスクトゥムとか言うんだっけ、騎馬戦闘の無いこの世界での使い勝手は良さそうだ。

「はい、大丈夫です。問題はケイトの方で」

皆の視線がケイトに集まる。
マインとスズは前回の教訓からこの町に来て新たに盾を購入していた。
エルザも大きな盾を持っているから問題は無い。

「あー、わたしは身軽な方がいいんで平気っす」
「大丈夫ですか?・・・判りました。以前に戦った時は、魔法の射程外の遠距離から多数の矢を放ってきました。正面から追いかけると四方に散って行き、追手が強ければ逃げます。そうでもないと判断すれば距離を取って囲み、矢で射ってきます。彼らはアタッカーを引き付ける囮ではありますが、放っておけば遠距離からずっと弓矢で攻撃をしてきます。左右等から弓矢で襲われれば防ぎきる事は出来ません」
「以前はどうなったんっすか?」
「僕達は商隊の護衛をしていて、街道を荷馬車と共に進んでいると。左右から5人ずつぐらい、合計10人程の放つ弓矢で襲われました。そちらのスズが左を追いかけると距離を保って逃げて行きました、囮行動ですね。そちらのエルザが魔法で仕留めようと届く範囲に出た所で、囲まれて矢で射られて死にました。そして、二人が出払った所に複数のアタッカーに襲われてマインが死にました。僕はその場から逃げ出した後、何とかスズと合流し彼女達を蘇生して今この町にいます」
「一度負けてるんっすね」

ケイトの言葉にスズが俯く、当然気にしているのだろう。

「そうです、僕を取り逃がした事で彼らの勝ちが無くなってはいますが。それでも僕らは一度彼らに大敗をしています、今回はそのリベンジをしたいと思っています」
「何か作戦はあるんすか?」
「はい、前回すずが片側の弓隊を追いかけた際。一目散に逃げだしたので、今回はスズを守りに残します」

チラリとスズを見てケイトは言葉を続ける。

「何でスズさんが追ったら逃げたんっすか?」
「前に、今回も敵対するPCに操られた盗賊団を、神様の憑依したスズが一人で壊滅させた事があるんですよ。その時の様子を彼らが見ていたらしく、直接戦闘は避けて弓矢を射かけて来る様になったんです」
「今回も追いかけたら逃げるんすかね?」
「恐らく逃げると思います。ですのでケイトとマインに右翼の弓隊への攻撃をお願いしたい、間道を外れて森の中を移動しての襲撃ですが。かまいませんか?」
「私は構わないよ」
「私も構わないっすけど、何で私とマインさんっすか?」

マインの返事に被せてケイトが疑問を口にする。

「弓隊との追いかけっこになるかもしれないんで、動きの早そうなお二人にしました」
「なるほど」
「そして左翼側は・・・相手にせず、矢から身を守る。前衛が痺れを切らして突っ込んで来れば迎撃をしますが。右翼の弓隊への襲撃が成功して弓隊を倒せたら、左翼への攻撃を開始します。待っている間、スズは左翼の弓隊を弓矢で狙ってみて下さい。一人でも削れればありがたいです」

「ん、わかった」

スズは真面目な顔で頷いている。
見た感じでは落ち着いているので大丈夫そうだ。

「ジュリアは僕とエルザの護衛をお願いします、前衛が襲ってきた時の相手をして下さい」
「心得た」
「エルザは弓隊や正面に魔法の射程に入りそうな敵がいたら魔法を撃っても構いません」
「ん~、今回は出来る事があんまり無さそうだね。それから、私のは魔法じゃなく術法だよ?」
「魔法の術式の略称か何かじゃ無いんですか?」
「魔法は魔道炉に魔法術式を読み込ませて発動する自然科学の方法で。術法は錬金窯に錬成術式を読み込ませて発動する物理化学の方法だよ」
「あれ?エルザって魔導士とかじゃないんですか?」
「誤解してるみたいだから教えておくと、私はアルケミスト(錬金術師)なんだよ。ぶっ放してるのは魔道炉じゃなくって錬金窯で錬成した化学反応なんだからね」

エルザは「どうだ」と言わんばかりに胸を張ってみせる。
そもそもリードさんの話と神様からの情報だけで、実際に魔道炉がどんな物か知らない。
魔導士に会った事すら無いのだから、錬金窯と魔道炉の区別なんて付くハズもない。
ずっとエルザが術式と言っていた「術法」という言葉は、言い間違いかエルザの造語だと思って聞き流してしまっていた。
今更ながら、勘違いを修正して貰って良かった。誤解したままだといざと言う時にトラブルの原因になりそうだっただけに。

「ああ、だとすると無茶苦茶な術法も組めそうですね。原爆的な」
「ウランがそこら辺には無いから無理だよ。水爆ならいけるかも、科学理論上出来る事は何でも出来ちゃうみたいだから」
「錬金術すごっ!」
「術式作るのににきっと何年もかかるよ?」
「ゲームの予選終わっちゃいますね」

そう言えば錬金術は、ブタとかがいれば怪我を治したりも出来るんだっけ。
エルザと不毛な会話になっていた所に誰かに後ろからつつかれた。振り向くとスズが僕をつついていた様だ。

「弓なんだけど、矢があんまり無いの。買って来た方がいいかな?」

すると、会話を聞いていたのか受付の女性が僕達にアドバイスをしてくれる。

「ここに在庫があります、短弓用と長弓用のどちらでも。今回は経費で落ちるかもしれませんよ」
「では長弓用を50本お願いします!」

タダかもしれないと聞いて、ついお願いしてしまった。

「ええー、そんなに持ったら動けなくなっちゃうよ」
「まぁ、僕が半分ぐらい持ちますよ」

スズはブツブツと言いながら書類にサインをし、受付の女性から矢を受け取った。
壁に立て掛けてあるスズの長弓と矢筒はドガの町で作った物で、ずっと荷馬車に入れっぱなしで使っていなかったのだ。
スズの矢筒に矢は10本入っていて詰めれば30本は入ったが、詰めすぎると片手では抜けなくなってしまうので25本にした。
残りの35本は戦闘では役に立たない僕が背負う事になった。
ガチャ、バタン
そこへタイミング良くリードさんが戻って来た。

「自警団から了承されました。半時程したら町の南側の街道の敵に仕掛けるそうです」
「判りました、僕らも時刻を合わせて本隊に仕掛けます」

僕がリードさんに返事をした事に反応してジュリアが僕に聞いて来る。

「すぐに出発しますか?」
「そうしましょう、死体のある現場まで25分ぐらいかかりますから」

僕は受付の女性に出発する旨を伝えると「お気をつけて」と声をかけて貰った。

「それでは皆さん、出発しましょう!」

僕らは斡旋所を出発し、町の外へと歩き出した。





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