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童貞で三十歳を迎えたら魔法使いになってたよ! 作者:下北沢
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待ち伏せ

間道の左右を木々の間を縫って走って追って来る連中には、何とか追いつかれずに済みそうだ。
これなら何とか無事に町に戻れそうだと安堵する。
すると前方の藪の中から町への間道を塞ぐ様に、槍を構えた男が2人立ちはだかった。
二人の男は覆面もせずに堂々と僕達の前に立ちふさがった。
あの顔は何となく見覚えがあるぞ・・・
そうだ前の襲撃でマインを殺した連中だ。

「ケイト!一人の注意を逸らして下さい、その間にジュリアはもう一人の相手を。アンナは魔法で戦闘の補助か攻撃をお願いします」
「わかったっす」
「判りました」
「はい」

三人の返事が聞こえたが、実はアンナの精霊魔法については何が出来るのかよく判らない。
僕らのいた世界の知識を生かせる魔法でもなく、スピリチュアルな部分が求められる分野であるらしく。
僕の現代知識でも理解ができない。
この世界にも元からある魔法で神や悪魔に魔法を行使してもらったり、精霊にお願いをして自然界の力を行使してもらうなど、神や悪魔や精霊とコンタクトを取れる者がその道に進むと言われている。
正直どんなスキルを持った地球の人間がそんな職になれるのかサッパリだ。
なので、そんなに期待はしていない。彼女にお任せの状態である。
大き目の盾を構えて真正面から走り込んでいく先頭のジュリアに対し、槍で迎え撃つ体制の二人の男達。
身の軽いケイトが槍の二人のサイドに回り込み、手前の一人に向かってナイフを投げる。
手前の槍の男を正確に狙ったナイフは、不規則に回転しながらも正確に手前の男に向かって飛んでいく。
回転しない投げナイフなんて物はマンガの世界でしかない。現実には一回転ないし二回転をさせて遠心力を付けなければ人間に深く刺さらないからだ。
線の軌道で一直線に、格好良く刃物を投げると思っていて良いのは厨二までだ。
回転するナイフの重心を見極めて正確に弾く事がそもそも不可能に近い。
そんな事を手前の男も考えたに違いない。
男はスッと一歩引いてナイフを避ける。
弾いたり叩き落したりする事が無理なのだから避けてしまえばいいのだ。
ザンッ

「ぐあっ」

ケイトの投げたナイフは手前の男をすり抜けて、奥でジュリアに向かって槍を構えていた男の肩に刺さった。
手前の男は奥を振り返って、仲間にナイフが刺さっている事に驚く。

「くそっ、何やってんだ!ちゃんと叩き落せ!」

奥の男が手前の男に文句を言う。

「回転が速くて無理だと思ったんだ!」

なるほど、ケイトは奥の敵から手前の敵が重なってブラインドになる位置からナイフを投げたんだ。
避ければ後ろの敵に当たる。さすがPC、神様に選ばれるだけの実力はあるな。
ケイトがまたブラインドに回り込んで、今度は続け様に二本のナイフを投げる。
ナイフは手前の男の頭部と腹部に向かって行く。
手前の男は下がりつつも大きく槍を振りかぶって、頭部を狙ったナイフを弾いて方向を逸らす事に成功する。だが、腹部を狙ったナイフはまたしても奥の男の脇腹に刺突き刺さった。
ザンッ

「がふっ」

奥の男は槍を抱えたまま蹲る。
さすがにマインとやりあった達人だ、ナイフを一本打ち落としてみせた。
だが柄の長い槍で叩き落すには、ナイフ二本は荷が重すぎた様だ。
そこへ盾を前面に出したまま斧を振りかぶったジュリアが到着、勢いのまま頭部に斧を振り下ろす。
ズゴンッ
布を頭に巻いただけの男は、斧を簡単に頭にめり込ませて絶命した。
ジュリアが斧を頭から引き抜ていいる隙を、果敢にも残りの一人は見逃さずに突いて来た。
だが、それを見越していたのか。ジュリアは槍を盾で受け流す。
ガツッ
もう一撃と踏み込んだ男の脚に今度は男の斜め後ろの死角に回り込んだケイトのナイフが突き刺さる。
ザシュッ

「いでっっっ」

死角からの攻撃に足をやられバランスを崩した男は、思わずナイフの出所を確認する為に首を捻りジュリアから目線をはずしてしまった。
死体から抜いた斧を振りかぶったジュリアは、後ろを振り向いた男の頭部を横薙ぎに払った。
バキャッ・・・ドサッ
男の顔の上半分が吹き飛び、男の体が横倒しに倒れる。
FPSのゲームでヘッドショットを決めるとこんな倒れ方をしていたな、実際に見るのは初めてだけど良くできた動きだったんだな。
僕が場違いな感心をしていると、ケイトが死体に走り寄って急いでナイフを回収しているのが見えた。
そりゃそうか、投擲用のナイフだからって使い捨てに出来る程安くはない。
そんな一瞬の攻防の後に死体の所に辿り着いた僕は、まだ回り込もうと走って来る敵がいる事を注意する。

「まだ回り込もうとしている敵がいます。気を付けて」

ジュリアは親指で指さしながら構えを解いていた。

「あれなら平気でしょう」

僕がジュリアの親指が指す方を見てみると、追手の男達は勢いよく伸びた草に阻まれてこちらに来れなくなっているらしい。

「これは・・・?」

他に心当たりも無いので、アンナの顔を見ると当たりらしい事が判る。

「森の精霊にお願いして、草の成長を促進させて貰いました」

そう言いながら、僕にニコッと笑い返す。
これが精霊とコンタクトして自然を操る魔法か・・・
この状況を理解したマインが、以前自分を殺した男達の死体を見下ろしながら。

「この状況なら囲まれる事も無いし、迎え撃つか?」

僕が思わず考え込んでしまうと、アンナがフルフルと首を振って

「あのっ、足止めが効くのは数分です。魔法が切れればすぐに囲まれるかもしれません」

僕はアンナの答えに少し考えてから

「ここは一度町へ戻りましょう、キチンと準備をしてからにします」

一通り見回して、皆が頷くのを確認すると町への指示を出す。

「ケイトとジュリアが先頭でアンナと僕が真ん中、マインは最後尾。この順番で町へ走りましょう」

僕達は二人の槍の男の死体を置いて、その場を足早に離れた。
戦闘から五分程走ってみたが、待ち伏せも追手も無い様だ。
途中で移動の速度を緩めて僕らは町へと帰還した。
町の入口に着くと僕は皆に伝える。

「今から荷物になる物は自分の宿か斡旋所に預けて、戦闘に必要な武器防具を装備して来て下さい。集合は斡旋所にお願いします」
「あのっ、戦わないで済ます事は出来ないんですか?」

アンナは疑問に思っていたのだろう、僕もキチンと答える事にする。

「彼らはこの世界の住人やPCを殺すのが目的です。僕らは戦わなければ町から一歩も出られません、森に出れば各個にPCは狩られるだけでしょう。彼らを倒さない限り、町を出れば襲われるという状況は続きます」
「そんな・・・彼らがそこまでするとは思えません。何か理由があるんじゃないですか?」
「彼らがこの世界の住人やPCを狙う理由に何となくの察しはついています。推察で良ければお教えしますが?」
「お願いします、聞かせて下さい。私達がいきなり殺された理由を」
「彼らは一人のPCがスキルを使い、山賊・盗賊を集めて統率力を鍛えた集団です。そのPCのスキルによる指示に操られて、僕らPCを襲っています。名前すら判明していませんが、彼らはこのゲーム内の住人やPCを殺してポイントを稼ぐ事を目的としているのだと思います」
「そんな!一般人やPCを殺してポイントが稼げるはずがありません!」
「このゲームにはモンスターはいません。でもPCのジョブやスキルの選択には戦闘を生業とした物ばかりです、僕達PCは一体何と戦うんでしょう?」
「身を守る為のジョブでありスキルです、ポイントは生産で十分に稼げるハズです」
「そもそもこのゲームではPK、つまりPCがPCをKillする行為を禁止していません。ペナルティすら無いんです。彼にしてみれば、PCを殺害100点・PCをゲームから退場させる200点・この世界の住人を殺害50点・生産20点ぐらいに得点配分を予想しているのだと思います」
「そんなの、彼らの勝手な思い込みじゃないですか」
「そうかもしれませんが、名前も判らないPCです。止めさせる手段はありません」
「私達は自然の中で生産をしていたいだけなのに!」
「彼らにとって生産で毎日20点を稼ぐあなたは十分脅威なのでしょう、殺さない理由がありません」
「そんな、でたらめ過ぎます。もし得点配分が違っていたら・・・」
「違っていてもペナルティは無いんです。大げさな話この世界に降り立ったPC全てを殺害すれば勝つんですから」

「そんな・・・」と呟き言葉に詰まってしまい、それきり返す言葉の無くなった彼女に追い打ちをかける。

「そもそも自分が助かってしまえば他のPCは見殺しにしても構わないのですか?先程見た通り、まだ一人人質となったままのPCがいるんですよ」

ちょっとズルい言葉を使ってしまった。
死んだまま囮になっているPCを助ける為にも、出来ればアンナにも一緒に戦って欲しい。
僕と神様の方針としても死んだPCの蘇生を諦めたくはない。
僕の宣言にアンナは迷っているらしい、きっと人を殺める事に抵抗があるのだろう。

「ではみなさん、準備が出来たら斡旋所へお願いします」

一旦解散にした事でアンナもすごすごと宿に向かって行った。
僕とマインは商館に向かう。
使わなくなったランタンや荷物になる水筒を置いて、少しでも身軽に戦闘が出来る状態にしなくてはいけない。
そう言えば、弓矢対策に買ってあった盾もちゃんと持って行かないと・・・
商館の前にはスズとエルザが座っていた。
僕らの姿を見つけると二人とも駆け寄って来る。

「もう!何で置いていくのよ!」
「えっ?」

いきなりスズが理不尽な事を言い始める。
行かないと騒いでいたのはスズの方では・・・

「何で勝手に行くの!わたしのいない所で襲われたら死んじゃうんだからね!わかった?」
「ええ・・判りました」

良く解らない理屈でスズのメンタルが持ち直しているのは、エルザが強引に丸め込んだのだろうか。
僕はエルザに小声で昨夜の事を聞いてみた。

「エルザ、昨夜はあれからどうしたんですか?」
「クスリ飲ませて眠らせちゃった」

まぁ、お陰で吹っ切れた感じだし結果オーライか。

「それでどうなったの?」
「行方不明者は四人、その内三人は助けた。残りの一人を人質に取って待ち構えてる」

エルザの疑問に対し簡単な説明をマインが返す。

「人質って生きてるの?」
「いや、死んでる。蘇生のタイムリミットまでの囮だ、蘇生のリミットを探られてるのかもしれない」
「どうするの?」
「この町のPCと組んで潰す」
「ほっといちゃ駄目なの?」
「この町のPCと共闘して叩くか、各個撃破されるかだ。知らん顔して出てってもあたしらが襲われるのは変わりがない。なら戦う人数は多いに越した事はないだろ」
「そっかぁ」

エルザはマインの説明に納得したのかウンウンと頷く。

「これから町のPCと一緒にやり合いに行くから戦闘装備してここに集合な」

スズとエルザに言ってマインは自室に向かって行った。
僕も荷物を置いて防具を取って来る為に自室へ向かった。
持ち物は盾とククリナイフだけにして残りは置いていく。
部屋を出た所ですずの部屋へ向かい、コンコンとドアをノックする。
中からバタバタと足音が聞こえてドアが開く。

「あれっ、どうしたの?」
「スズ、弓と矢のセットを持ってきて貰えませんか?また弓矢と戦わないといけないので」
「ん、わかった」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「大丈夫ですか?きついなら参加せずにここで待っていてもいいんですよ?」

僕はスズの昨日の姿を思い出して、そう言葉をかける。
恐らくスズはこちらの最大戦力だ、出来る事なら来て欲しい。
しかし、これ以上の精神負担をかけても良いのだろうか?
僕の逡巡が伝わってしまったのだろうか。
スズは首を横に振りながら

「大丈夫だよ、わたしは。昨日は弱音吐いてごめんね。あのね・・心配してくれるのは嬉しいよ、でもそれに甘えてたらダメだと思うの。だから、わたしも行くよ」
「いいんですか?」
「だって、私がタロウを守るって約束したじゃない」
「そうですね・・・・判りました、入口で待っています」
「うん、すぐ行く」

ぎこちない笑顔を見せるスズからちゃんとした返事が返って来たので、僕は商館の入口で先に待つ事にする。
まもなく、スズ・マイン・エルザが武装してやってきた。スズは弓をマインとエルザと僕は盾を装備している、これは弓矢対策をしないといけない相手だと学習したからだ。
皆の準備が整ったのを確認して商館を後にする。

「では斡旋所に向かいましょう」

武装した僕達四人は斡旋所の方へ歩き出した。






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