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三十路になったら魔法使いになってた 作者:下北沢
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山賊

荷馬車の歩みは緩く、現代人の僕でも付いて行けるスピードなのは助かる。
二頭引きなのにこの速度なのだから、荷台には商品が満載なのだろう。
日も高くなった頃には馬車を止め、リードさんが僕らにもお昼ご飯を渡してくれた。
歩きながら食べられる、ローストチキンと香草をパンで挟んだサンドイッチだ。
齧ってみると胡椒も効いていて中々においしい。
僕らは同行者だけれど、いざという時に見捨てられない為にはこれぐらいのサービスはしておかないと安心出来ないのかな。
僕らは馬車の最後尾を歩きながら武器を振り回し、スキル上げを移動のついでにやっている。
マインとエルザは真面目に仕事をしているので、まだ挨拶以外の会話が無い。
スズと彼女達PCの職は何だろうと言う話になって。
マインは前世が競技のアーチェリー選手で現在狩人との予想、エルザは小柄なので(胸も小柄)前世は新体操の選手で現在は忍者だとか。僕らは勝手にイメージを膨らませてながら、二人についてあれこれ想像を言い合い歩く。
僕達にとってはエディ以外で会話した初のPCなのだから、物珍しくて仕方が無い。
午後になって街道沿いの小川で馬に休憩をさせて水を与えたりする。
その間もマインとエルザは高台から周囲を警戒している、よっぽど治安が悪いのだろうか?
そういえば中世のヨーロッパもかなり治安が悪かったらしい、この世界も戦争が絶えないのならどこの国も疲弊しているのだろう。
馬を十分に休ませたので、再び出発する。
この地方は比較的に温暖だ。時折雨が降る事から海もそれなりに近いのだろう。
恒星の日差しは柔らかく、気温も20度前後なので厚着の必要もない。
荷馬車にのんびり付いて歩くと風が気持ちいい。箱庭なのか本物の惑星なのかは判らないが、何だか初めてここが別の世界なのだと実感した気がする。

「何だか日本にいた頃の事考えると不思議ね」
「そうですね、こんなに澄んだ空や空気を味わった事はありませんでしたよ」

スズは鼻歌を歌いながら楽しそうに歩いている、何か元の世界の事でも思い出しているのだろうか。
それから一時間程、のんびりと移動していた馬車が急に止まった。
何事かと前方を見ると、街道を塞いで人が何人も立っているのが見える。
馬車の前方まで行くとマインとエルザとリードさんが前方を見ながら腕組みをしていた。
何かあったのだろうか、僕達もリードさんの元に集まる。

「何かあったんですか?」
「ああ、タロウさん。この先に街道を塞いでいる者達がいるんです」
「あれは間違いなく盗賊だろうね、通行料よこせとか荷物置いてけって言って身包み剥いで行くんだよ」

なるほどマインの指摘通りに武器を片手にガラの悪そうな連中がたむろしているのが見て取れる。
ああいう連中の対処はどうするんだろう?
リードさんはこの世界の人間だから、この世界の正しい流儀の参考になるだろう。
落ち着いた様子のリードさんはマインとエルザに指示を出す。

「追い散らしただけでは他の商人や女性を襲ったりするでしょう。この地域の人達の為にも、きちんした対処をお願いします」

なるほど、この世界の人間でもあの手の者には容赦をしないという事か。
捕まえてもこの世界には法律なんて無いので無駄なのだろう、暗に殺しておいてくれと言っている。
見逃すのは論外だし、怪我を負わせる程度では魔法で治してしまうのかもしれない。
本気で更生させようとしたら、学校すら無いこの世界で何年かかるのか・・・
うん、ダメだ。殺すしかないね。
何度もこんなやりとりをしているのだろう、リードさんはマインとエルザの腕をを信頼して任せるみたいだ。

「わかりました、一応話だけ聞いてみるか」
「それじゃあ、私が行くよ」

ハイハイっと手を上げてエルザが名乗り出る、驚いた事に一人で交渉に行くと言う。
返事も待たずにエルザは、通せんぼしている集団の所へ歩いて行く。
ちょっと心配になった僕はマイン聞いてみるが、マインは別に気にしてもいない様子。

「一人で大丈夫なんですか?」
「むしろ一人の方がいいのよ、あの子は」

きっと何かあるんだろう、僕もスズも不思議に思いながらも行方を見守る事にした。
リードさんの元から集団に向かってエルザが一人で近づいて行く。
道を塞いでる者達はやって来たのが小柄な女の子である事が分かり、警戒を緩める。

「あのー、ここ通して欲しいんですけど」

エルザの言葉にヘラヘラと笑いながら、スキンヘッドの男が嫌らしい笑みを浮かべながら返答を返す。

「通行料を払ってくれりゃ通してやるぜぇ、へへへ」
「いくらなの?通行料は」

エルザも一応は聞いてみるが、男達はエルザの周りを囲み逃げ道を塞いでゆく。

「荷物の半分は頂こうか、あと女達には俺達の相手を一晩して貰うがな。うははは」

完全にエルザを囲んだのを確認してからスキンヘッドの男は、周囲の男達と一緒になって笑った。

「やれやれです、まともに働きもせずに汗水流して働いた人の物を奪うだけの害虫ですねぇ」

エルザが呟いた直後に彼女の雰囲気が変わる。
外套の懐からランタンの様な物を取り出しその場に掲げると、大きく息を吸い込んでから口を閉じる。
やがて、ランタンが鈍く赤い光を放ち始めた。
魔道炉の代わりにランタン?燃焼の光だろうか?
この光景に思わず神様も僕に語り掛けて来たのだろう。

”触媒を使った魔法でしょうか?・・・この世界の魔法とも少し違うみたいです”

神様曰く魔法ではあるらしい、けれども知識には無いとの事。
男達がエルザの行動を不思議に思い、その手にぶら下げられたランタンとエルザを見る。
するとまもなく、一人また一人とバダバタとその場に男達が倒れていく。
何が起こったのか解らずスキンヘッドは慌てるが、声を上げようとした時には地面に倒れ伏していた。
エルザがランタンの小窓を閉じるとこちらへ足早に戻って来る。

「はぁぁーーー、苦しかった」

と言って深呼吸をするエルザ。
色々疑問な僕はエルザに確認の為に聞いてみる。

「今のは魔法ですか?」
「うーん、毒の術法?まぁ中毒だけどね。即発動するから便利なの」

術法?魔法術式の一つって意味かな?
そう言ってランタンを掲げてウフフと笑うエルザ。
ランタンの中から黒い石ころみたいな物を僕に渡す。
受取ってみるとまだ軽くて固い。炭か石炭なのだろうこの黒い物は。
ランタンを見るとびっしりと魔法陣や起動式が刻み込まれている、これ自体が魔道炉の代わりなのかもしれない。

「この炭素の元をランタンの中で酸素と不完全に魔法で燃焼合成し、大量の一酸化炭素の空間を作り出したという所ですか?」

僕は思いついた事をエルザに聞いてみた。

「へぇぇー」

僕の問いには答えず、僕の顔を覗き込んで。今更ながら聞いて来る。

「名前何だっけ?」
「タロウです」
「タロウは魔法使いだよね?」
「はぁ、回復だけですが」

僕に興味を持ったのか、僕に質問を重ねるエルザ。

「何で?」
「いや、神様の方針で」
「ふーん」

何だか好奇心旺盛に聞いて来るなぁ、チラリとマインを見ると助け船を出してくれた。

「もう近づいても大丈夫か?エルザ」
「うん、もう平気なはずだよ」

僕の方からマインに向き直って返事を返すエルザ、どうやら気が逸れたみたいだ。
マインが倒れている男達に近寄って行くので、僕達もそれに付いて行ってみる。
すると外套の下から刺突武器のレイピアだかフルーレだかを抜いて、躊躇無く盗賊を刺して行く。
肩の窪みの部分からズブズブと斜めにかなり深くまで刺してから抜く。
一人二人と刺して、全ての倒れた男達を作業の様に刺して回った。
刺した時にビクンッと動く者もいれば、何の反応も示さず刺されるがままの者もいる。
マインが刺している場所は確か缺盆とか言うんだっけ、何かの時代小説で読んだ事がある。
鎖骨の凹みから刃を突き入れて肺を貫いて心臓を刺し、心臓からの出血は肺が受ける。
肺に心臓から溢れた血が貯まるから外への出血が少なくて綺麗な死体になるそうだ。
実際に見たのは初めてだが、確かに外側は血で汚れた様子もない。
一通り殺しきってから自分の行為にバツが悪くなったのか。

「これでも最初は人を殺す事に抵抗はあったんだ、でも一人でも見逃すと弱い奴がまた狙われて殺される。そんな現場を見てたらいつの間にか出来る様になっちまっただけさ」

マインは僕から目を逸らしながら言い訳の様に語った。

「僕らもそうでしたよ、最初に着いた村は盗賊の手で皆殺しになっていました」
「うん、子供達を攫って売り飛ばそうとしてたり、女の人に酷い事してた」
「解決するには盗賊を全員殺すぐらいしか思いつきませんでした」

僕もスズもマインにフォローの言葉を入れた。これはマインだけの言い訳では無く僕達の言い訳でもある。
この世界で人を殺す事の罪悪感が、僕達の口から言い訳を吐き出させているのだろう。
マインは男達の死体を見ながら、ため息をつくと。

「この世界、こんな奴らばっかりだ。捕まえたって意味がない、結局解決方法なんて一思いに殺すぐらいしか無いんだよな」

喋りながらも死体を一か所に纏め始める。
何となく僕達も死体の運搬を手伝った。

「この辺りなら延焼もしないでしょう」

死体を纏め終えた頃にリードさん達もやってきた。そこらで集めて来たのだろう、枯れ枝や枯草を死体に乗せてて火を点けた。
野晒しにするのはこの世界でもあまり良い事では無いのかもしれない。
街道を塞いでいたバリケードみたいな物をどけて、僕らは先を急いだ。
日が落ちる前に街道沿いにある今日の目的地である村に着きたいらしい。
余計な邪魔が入らなければ、時間的な余裕はかなりあったらしいのだけれど・・・。
日が暮れ掛かった頃、ようやく目的地の村が見えて来た。
今日はあの村の横で一泊するとの事だ。
リードさんも本当はもっと早くに着いて、商売をしたかったらしい。
街灯もも無いこの世界では暗くなったら殆ど出来る事は無い。
今日は何も商売が出来なかったから、この村に二泊していく事になるだろうとマインは言っていた。
馬小屋を借りてエサと水をやって休ませると、僕らは荷物の見張りも兼ねて荷馬車の傍でキャンプをする事になった。
食事と水はリードさんが村にお金を支払う事で提供して貰えるらしい。
宿泊は商隊用の大きなテントに入れて貰えるらしいので、僕もスズも設営を手伝った。
食事を終えると辺りは真っ暗になっていた。
御者三人とマインとエルザで火の番と見張りを、正式に雇われている5人が交代でやるらしい。
食事の後スズが着替えてきて、服のクリーニングを頼んできたので日課としてやっておく。
寝る前に自分の服にもリターンをかけていると、女子テントから話声が漏れて来た。
彼女達は女子トークで盛り上がっているらしい。
僕は毛布を被ってはみたものの、今日は10人近くの人間の死を見てしまったので直ぐに眠れる自信はない・・・
この際、リードさんにこの世界の事を色々と聞いてみる事にした。
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