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龍は眠らず  作者: 讃嘆若人
第二章 朱雀ホテル事件
17/23

私の彼氏は貴方の息子

今回はいつもよりも少し長くなりました。

そのころのチベット国・ラサの国営高級ホテル。


「ほら、さっきの、どう考えても女の子の声よね?やっぱり!!!」


電話の向こうに向かって、浅川は声を張り上げた。


返事は、無い。


やはり、浮気されているのか――――そう思っている所へ・・・・。


「ただまぁ~、ああ、酷い目にあったよ、ハハハ。」


春風祐樹が、スーツ姿に傷だらけ、血だらけで、部屋に入ってきた。


(私の彼氏は、こんな人よりかはもっといい顔をしている・・・・。)


浅川の彼氏とは、全然、似ていない。・・・・等と考えながら、春風の服に付きまくった血に、目が釘付けになる。


「柄が旭日のスーツって、そりゃ、襲われますよ・・・・。」


浅川が、大量の血液で汚れた服に、言葉を失いつつも、かろうじて突っ込む。




中国崩壊に乗じてチベット亡命政府がインドやブータン、ネパールからの義勇兵とともにチベットを奪還、独立を回復したはいいものの、人口の六割を占める漢族からは現在の政治体制への不満が根強い。


そこへ、スーツ姿…のはずが、旭日姿の男がやってきたのだ。


「日本鬼子!!!!小日本軍国主義者!!!!!!」


「倭族は出て行けえええええええ!!!!!!!」


「Japanese Kill!!!!」


「不逞倭族を大陸から叩き出せええええええ!!!!!!!!」


漢族たちが道々でこういいながら、春風祐樹に石を投げつけたのである。




「まあ、彼らも中国政府の気まぐれでこんな酸素もろくに無い地に連れてこられたんだから、仕方ない面はあるわな。」


中国政府の政策で半強制的にチベットに移住された漢族は、チベット光復後、一気に不幸のどん底に落とされた、と言っても過言ではない。


チベット政府は、中国共産党の残党がいないか、ダライ・ラマの神聖性を少しでも疑う奴がいないか、かなり神経質になっており、相当数の秘密警察がいる。表でも、堂々と「思想警察」と書かれた紋章を付けた警察官が歩いているのが現実だ。「仏の転生」という、科学的に証明不可能なものを国家元首にしている以上、思想統制は中国に占領されていた頃よりも厳しくなっている。


内戦と独立回復戦争で国土は荒廃し、チベット人同士でも亡命政府からの帰還者と、中国共産党体制下で成功していたものとの間での亀裂は深い。人口の大部分を占める漢族は、内戦の時に共産党を支持するか否かでお互いに殺し合い、土地柄、中国政府が崩壊すると食糧すらもまともに手に入らない中を何とか生き延びると、今度はチベット人による激しい差別にさらされた。チベット政府の閣僚の中には「中国人の断種」を公然と主張する人間もいるぐらいだ。


さらに、チベット政府は「神聖なるチベットの大地を汚すな!!」と言う理由で、資源開発等も全面的に禁止した。これにより、中国共産党に破壊された自然環境が保護されるといういい面はあるものの、経済への悪影響は大きかった。やっと整備された社会保障制度も、チベット人優先だ。


「社長、そこまで傷ついて、よく、そんな呑気なことが言えますね。今度は、殺されるかもしれないんですよ!?」


浅川がそういうと、春風は笑いながら答えた。


「それは大丈夫だよ。チベットの警察官は本当にいい人でね、私に石を投げつけた人は片っ端から逮捕してくれたんだよ。もっとも、警察の手に負えないほど襲い掛かる人が多かったから、私はここまで怪我したんだけどね。」


「それって、全然、大丈夫じゃないじゃないですか!!」


「いや、するとね、チベットのお巡りさんは何をしたと思う?」


春風の顔が、いきなり神妙になった。


「――――彼らは、自動小銃で、漢族たちを殺しまくったんだよ。私の服についた血は、ほとんどが倒れていった漢族たちの血だ。」


浅川は絶句した。


日本のマスコミは、チベットの独立を「良いニュース」として扱っていた。しかし、その裏では、今でも大量の血が流されているのだ。


かつて、今は崩壊した北朝鮮を「地上の楽園」と言っていた人がいたというが、浅川は「天国に一番近い地」とされるチベットで、「地上の地獄」を見ることになったのだ。


すると、春風祐樹は話題を変えた。


「ところで浅川、お前、元気がないが、彼氏に振られでもしたのか?」


「はい、彼に浮気されてしまったんです。」


思わずそういって、浅川は「しまった!!」と思った。


「そうか、君の彼氏って、誰だったの?」


そういう祐樹を見て、浅川は腹が立ってきて叫びかけた。


「私の彼氏は!・・・・・あ、いや、秘密です・・・・。」


本当は「貴方の息子です!弘樹君が浮気したから悩んでいるんです!!」と言いたかったが、事前に先輩秘書の増田に「社長と一緒にいることは、弘樹君に言うな。弘樹君と付き合っていることは、社長に言うな。」と言われていた。


「そうか、まあ、いやなことは秘密にしたらいい。」


そういって、春風は鞄から書類を取り出し、それを眺めていた。


浅川は増田の言葉を思い出していた。


「今、ここで、弘樹君の浮気を騒ぐと、君の両親だけじゃない、春風財閥全体が可笑しくなるんだよ?君も無駄な派閥闘争に巻き込まれたくはないでしょ?」

天下国家の事を語ったかと思うと、自分の恋人の事が気になる――――樹依莉の声を弘樹の浮気相手と勘違いした浅川ですが、別におかしい人ではないです。

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