帰宅禁止
弘樹の彼女が登場します。
弘樹が見せた紙には、こう書いてある。
『国際平和信仰者党大綱』
「科学技術の発達により、地球環境問題と生命倫理問題は、日々益々深刻さの度合いを増している。こうした現状に対応していくためには、人類一人一人が自身が神の子であるとの自覚を持って行動し、時代に即した高い倫理観を持って国際平和と地球共生のために団結しなければならない。
しかし、実際には衣食足りてなお礼節を知らぬ者、さらには、衣食奪いて偽善を為す者が、この日本においても存在する。このような姿は神の創り給うた人類の実相ではないと我々は信ずるのであり、この日本に、そして世界の全体において、大調和と万物斉同の実相を顕現するため、我々は、納税者として、消費者として、労働者としての国民の生活を守りつつ、自立再生社会の建設を目指す真正保守政党として、国際平和信仰者党を結党した。
ここに、労働右派と環境右派の諸勢力を統合する国体立憲主義政党として、神武天皇の「八紘一宇」の理念と仁徳天皇の「国民の生活が第一」の政治を継承するため、崇神天皇の御世からの神霊天下る地である伊勢神宮において、国際平和信仰者党の活動を再開する。誠を尽くして党務に励むことを神前において言挙げする。
平成二十六年十一月二十日 国際平和信仰者党 代表 春風祐樹」
弘樹は言った。
「前、会った時には父さんの話なんか、しなかったんだけどなあ、福本さんは。」
民野が顔色を変えて言う。
「貴様!いつの間に捜査現場へ!!というか、死体が転がっている部屋なんか、子供のはいる所じゃあない!!!」
「まだ、捜査一課も来ていないんでしょ?一応、入室にはホテルの「もう、兄ちゃん、やめて!!!」」
ふと、樹依莉の泣きそうな声がする。
樹依莉は、警察に楯突く兄の姿を見て、言い様の無い恐怖に襲われていた。樹依莉にとっては、警察は制服を着たヤクザにすぎない。五年前の事件が、樹依莉に治癒不能なトラウマを植え付け得たのだ。
「わかった、樹依莉、もう部屋に帰ろう。」
「そうだ、死体なんか妹に見せたら、親父さんも怒るぞ?さっさと帰るんだ。」
帰ろうとする弘樹の背中を、そう言って民野を後押して二人を出して後、扉を閉めると、赤松が言った。
「おい!課長!事件の重要参考人かもしれない奴を返してどうする!!」
「え?」
「さっきの少年、明らかに被害者の関係者だろうが!!!」
そこへ・・・・・
「『週刊レムリア』記者の吉本です。被疑者が教育局の職員って、本当ですか?」
「お前はいつの間に入ってきたんだ!!」
民野が怒鳴ると、赤松が言った。
「それより、どうして教育局職員の指紋が見つかったことを知っているのだ?」
「一回のロビーで会った政治家の方の秘書が話していました。」
すると、赤松は民野の方を向いていった。
「課長!!!貴方が口を滑らせたせいで、捜査情報が洩れまくり、それも、誤解だらけじゃないですか!!!このままだと首が飛びますよ?速く捜査一課を呼んできてください!!!」
「と、いうわけで、樹依莉、お前は家に帰れない。」
弘樹に事情を説明された樹依莉は頷いた。
「心配するな。元々、彼女と二人で止まる予定だったから二人部屋にしていたんだ。もっとも、彼女にドタキャンされたがな。」
「どういうこと?浮気されたの?」
「おい、樹依莉、お前、いつの間にそんな言葉覚えた?」
そこへ、弘樹の携帯の着信音が鳴った。
「噂をすれば・・・・。彼女からだぞ。」
そういって弘樹は電話を受け取る。
「お前、浮気しているのか?」
開口一番、トンデモナイことを言い出した。
受話器の向こうから叫び声が聞こえる。
『それはこっちのセリフだろ!?』
いきなり荒れた音声であった。
「俺はヤンキー女と付き合っているつもりはないぞ。」
『貴方、二股交際してるでしょ?』
「何のことかな?」
『増田さんから聞いたよ!』
「何をだ「吉本って人が呼んでいるよ!」」
突然の妹の声に、携帯越しの彼女が反応する。
『ほら、さっきの、どう考えても女の子の声よね?やっぱり!!!』
しかし、そのころすでに弘樹は携帯を放り投げて、ドアの方へ走っていた。