もふもふが通じない!
第四世界で、獣人が人気だと噂では聞いてた。
だけどあくまで噂は噂。純血よりも人族とのハーフの方が人気だなんていうから、きっと誰かの作り話だろなんてみんな笑って、殆ど信じちゃいなかった。
だってハーフだぞハーフ。
職業的な差別は少なくなってきたし、普通に暮らすだけならそこまで嫌な思いをすることはないけれど、それでもやっぱり結婚相手としては獣人からも人族からも圧倒的に人気がない。
だから純血よりもハーフの方が人気ってのは、ハーフのやつらの願望がつまった夢物語だろうって思われてて、俺だってどうせそうに違いないって思ってた。第四世界に留学してたっていうやつがあっちではめっちゃモテたって自慢してんのも、見栄張ってるに違いないって決め付けて誰も本気になんてしやしない。
そいつが第四世界に移住するって時に、俺もついてってあっちに留学することになったのは、そんな与太話を信じたからじゃなくって単純に、そいつが俺の兄貴だったからってのと、親が再婚して家に居辛くなったからってだけ。
俺たちの行く第四世界の、二ホンって国は平和で治安がよくて異世界人でも暮らしやすい場所らしい。
しかし実際住んだことのある兄貴に聞いても「めっちゃモテる」「コンビニちょー便利」とか全く参考にならないことばっかりで、どんなとこか具体的にさっぱり分からなかったから、行くまではものすごく不安だった。一日中開いてる店なんてあるわけねーだろ、便所が快適って意味がわかんねえし!って兄貴と喧嘩してふて腐れたのも一度や二度ではない。引越し直前の三日間なんて、兄貴と一言も口をきかなかった。
ところがいざ、引っ越してみれば。
いやもう、びっくりした。だって兄貴の言ってたの、全部本当だった。
ぴかぴか光る看板やら無人の販売機やら、兄貴の法螺話が形になって次々に俺の目の前に現れる。「どうだ嘘じゃなかっただろ!」っていちいち得意げにしてみせる兄貴の顔はむかついたけれど、そこは素直に謝っておいた。ごめん兄貴、嘘じゃなかったんだな。呪術師に診て貰えとか言って悪かった。
そして、兄貴の言ったことが嘘じゃなかったってことは。当然、あれも嘘じゃなくて本当のことだった。
そう、この第四世界の二ホンって国において。
獣人と人族のハーフは、とんでもなくモテるのだ。
いや、本当の本当だってば。
「おっはよーシロくん! ああ、今日も素敵な尻尾……」
「もふもふ、ふわふわ、ほっこり……」
「うううう、たまらん! お願いシロくん、そのふわふわ尻尾触らせてええええええ!」
朝、家を出た瞬間から俺はモッテモテの引っ張りだこである。
同じ制服を着た女子は勿論、通勤中のお姉さんや幼稚園に通う小さな女の子、家の前を掃除するばあさんまで俺を見つければシロシロと気軽に名前を呼んで、うっとりとした視線を向けてくる。ちなみに俺の名前はこっちの発音だとシガロって聞えるらしいので、略してシロ。ペットの名前にされやすい名前みたいだけど、割と気に入っている。
ふりふりとわざと尻尾を揺らせば、きゃあっと歓声が上がり、可愛いだなんてひそひそ囁く声もばっちり聞えてる。純血の獣人には劣るけど、人族よりは耳いいんだよな、俺。
彼女たちの視線が向いてるのは、俺の耳と尻尾。こっちで言えばきつねのそれに似ている耳と尻尾は、兄貴の言うとおり、こちらの人族に異常なくらい愛された。異世界ということで最初は気を張っていたものの、会う人会う人みんななぜか俺にひどく好意的で、特に耳と尻尾が素敵だと大好評な模様。あっちじゃ、中途半端って陰口叩かれることが多いのに、こっちだと人族ベースに耳と尻尾ってとこがイイらしい。勿論全身もさもさの獣人が好きだと言う人も居るには居るけれど、そんな人たちだって俺たちの耳と尻尾が嫌いな訳ではないようだ。むしろもふもふと嬉しげに呟いて、触らせてくれないかと積極的に近づいてくる。
そんな感じで引越したその日から、俺と兄貴はご近所で大人気の異世界人となった。
「おっはよーシロ、今日もいい毛並みだね!」
「うわ、もふもふ度あがってる……シャンプー変えた?」
通う高校に到着して、教室に入ってからもかけられる声の量は変わらない。挨拶代わりにぎゅむぎゅむ尻尾を握ってくやつも少なくない。俺は特に嫌がることなく、にこにこ笑って受け入れる。
たまにこっちを気遣って、触られるの嫌じゃない? 失礼じゃない? なんて心配してくる子もいるけど、俺としては問題ない。むしろどんどん触ってほしい。
いや、だってなあ。
あちらからすれば、ペットを愛でてる感覚だってのはさすがに分かってるけど。モテまくってはいるものの、恋人にしたいって感じじゃなく可愛がられてるだけっては分かってるけど。
それでも女の子に人気となれば、嫌な気はしない。あっちでは俺、モテなかったから余計に。
まあ男共からも大人気だったのは予想外だったけどな。
おかげで友達出来たからいいけど、やっぱ触られるなら女の子がいい。だって俺、健全な男の子ですし。
こっちの女の子たちはみんな、すべすべしてやわっこくて小さな手をしている。
あっちでは女の子になんて殆ど触られたことないから、もしかしたらどこでも女の子はみんなそんなものなのかもしんないけど、男共の手もあっちに比べたらこっちのやつらの方がすべすべしてるので、きっとこっちの子たちが特別なんだと思う。ハンドクリームとかあっちこっちで売ってるしな。すごいよな、あれ、種類いっぱいで。正直俺には何が違うのかわからないけど、女の子たちには分かるらしい。
そんなやわすべお手手が、もぎゅもぎゅ俺の尻尾やら耳を触るのだ。
正直言って、すげえ気持ちいい。
だって考えてもみてほしい。
耳や尻尾っていっても一応、体の一部な訳ですよ。尻尾の先まで骨も神経通ってるんですよ。毛はふさふさ生えてるけども、触られれば分かるわけですよ。言ってみればあれだあれ、いろんな女の子に積極的ににぎにぎ手を握られてるようなもん。めちゃくちゃ無邪気にボディータッチされまくってんの。
女の子とのそんな触れ合いに全く免疫のなかった俺は、最初のうちはそりゃあ戸惑った。ボディータッチに興奮はしてたものの、やっべこれ気づかれたら変態って罵られるパターンじゃねと内心焦りまくってた。
だけどこっちの人は、みんな気のいいやつらだった。
まさか俺が触られて興奮してるなんて思いもせず、黙った俺に慌ててごめんごめんと謝りまくって、異世界の人に対して失礼だったと反省するばかりで俺を非難するなんて思いつきもしない様子。ちょろ、違った、優しいよな、ニホンジン。
びっくりしただけだと言い繕って、触られても平気だと伝えると、またもふもふにぎにぎタイムの再開ですよ。目をきらきら輝かせて、わしわし触って撫でる訳ですよ。大胆な子なんて、俺の耳に頬擦りしたり尻尾に顔埋めたり首に巻きつけたりするんですよ。ぎゅっと胸に抱きしめたりする訳ですよ。
もう一度説明しておきたい。俺の尻尾は、俺の体の一部。人族で言えば、腕や足みたいなもん。
想像してみてほしい。腕や足を女の子たちがさわさわにぎにぎぎゅっぎゅ、挙句の果てに顔やら胸に押し付けてえへへと幸せそうに笑う姿を。
うん、唇、柔らかかったです。おっぱい、すっげえ気持ちよかった……。
まあ野郎共の唇やら胸板の感触も知る羽目になったけどな!
男でも唇って柔らかいんだよな……下手したら女の子より柔らかいやつもいるんだな……それは知りたくなかったわ……。
そんな感じで、俺の異世界での学校生活は順風満帆だった。
みんなにちやほやちやほやされて、調子に乗りまくった。表面上は普通に振舞ってたけど、内心では俺の耳と尻尾に堕ちないやつはいないって思ってた。
「べ、別に興味ないし!」って強がってても、一度触らせてみれば俺のもふもふ尻尾の虜になるのだ。「やだなにこれ気持ちいい……」と強がってたことも忘れて、うっとりと俺の毛触りに目を細めるのだ。
なにせ毎日、せっせとお手入れしてるから触り心地はそこらの犬猫になんて負けやしない。尻尾用のシャンプーとトリートメントをあれこれ試して、一番ふわっふわのもこもこになるやつで毎日毎日洗ってるし、乾かす時は毛が痛まないように丁寧にドライヤーをかけて、朝は一時間以上かけてブラッシングしてる。勿論そんな努力をしてることは秘密で、毛艶を褒められたら「こっちのシャンプー、あっちより質がいいから」とか「ご飯が美味しいからかな」とか、あくまで何も手入れしてないのにごくごく自然に、もふもふのふわふわさらさらが出来ているのだと思わせるところがポイント。あまりがっついて見せるのはよくない。
そうして、頼めば耳と尻尾を触らせてくれる気さくな異世界からの留学生ポジションを確立して、教師含め全校生徒の三分の二を俺の耳と尻尾の虜にした頃。
俺はこちらに来て初めて、挫折というものを味わう事となった。
(ああ、くそっ! せっかく寝癖装ってふわっふわに逆立ててきたのに、あいつら滅茶苦茶に触りまくりやがって。いやでもまだ、ふわふわ感は残ってるな……よし。匂いは、うん、残ってる。ラベンダーの精油、うっかり零したせいで匂いが尻尾に染み付いた作戦、いける。少し尻尾振れば……よし、いい匂いだ。臭くはない、よな? 落ち着け、気を抜いたら尻尾、振りすぎちまうからな。一振り二振りでいいんだ。犬みたいにぶんぶん振ってたらかっこ悪いし。そうだ、足に合わせれば丁度いいか。一歩踏み出すごとに、右、左……よしよし、いいぞ、このままいける! 今日こそは……!)
昼休みが終わる十分前。
特別教室の集まる、東校舎の三階の廊下の角。ぺたりと背中を壁にくっつけて、大きく深呼吸をしたのと同時に、がらりと扉の開く音がして俺は、今しがたやってきたふりをして角を曲がり、ゆっくりと歩き始めた。
廊下の向こうから歩いてくるのは、一人の女の子。彼女は俺と同じ高校二年で、隣のクラスの岡田加奈。彼女は殆ど毎日、昼休みになると被服室で何かしらを作っている。今はまっているのは編みぐるみ。出来上がったものは彼女の鞄に吊るされて、今は羊と猫と猿の三匹が彼女のお供を務めている。
ここまで言えばもう分かるだろう。そう、彼女は俺の、好きな人である。そして俺の耳にも尻尾にも、全く興味を持ってくれない女の子でもある。
最初は、恋ではなかった。あまりにこちらに興味のない姿にプライドを傷つけられて、あちらから触らせて欲しいと言わせてやると密かに対抗心を燃やしただけ。
だって積極的に触りには来なくったって、みんな俺を見ればちらりと耳や尻尾に目をやるものなのに、廊下ですれ違った彼女は、俺を一瞥もしなかった。まるですれ違った事にすら気づいてないように、完全に俺を意識の外においていた。すっかりと調子に乗ってた俺はその姿にムカついて、絶対に興味を持たせてやろうと決意した。
決意してから早速動き出した俺は、彼女の行動パターンを把握して、小まめにその前に姿を現して、ほうれほうれ触りたいだろうともったいぶって尻尾を揺らして、耳をぴくりぴくり動かしてみせた。
そういう行動に出るのは初めてのことではない。彼女の前にも何人か、俺に全く興味を向けないやつを相手に、同じようなことをやっている。結果、彼らの興味を惹くことに成功し、俺はいたく満足して傷ついたプライドを回復させた。
だから彼女も、同じだろうと思っていた。どれだけ興味が無いふりをしたって、触り心地の良さそうな毛玉が視界をちらちらしてたらそのうち、目で追ってしまうようになるだろう。ついには、触らせてほしいと言ってくるだろう。そして俺の耳と尻尾の虜になって、目が離せなくなってしまう筈だ。今までがそうだったのだから、今回だってそうだと疑いもなく確信していた。丁度その頃彼女がはまっていたのは、ふわふわ毛糸の小物だったから、むしろ今までより簡単だろうとすら思ってたのだ。
なのに、彼女はいつまで経っても俺に興味を持たない。耳にも尻尾にも視線を向けることはない。
見ないようにとわざと視線を向けないんじゃない。本当に一切の興味を、俺に抱いてはくれない。抱えた作品を満足そうに撫でて、俺に気づかないまま隣をすり抜けてゆく。
触らせて欲しいと言わせてやる、から、触って欲しい、に変わるまで、さほど時間はかからなかった。
たとえば満足のいく作品が出来た時は、本当に嬉しそうに笑ってにこにこと腕の中を見つめていることとか。
逆に満足いかない出来だった時は、むっと顔をしかめつつも柔らかな手つきで手の中の作品を撫でていることとか。
ぎりぎりまで被服室に籠もってしまった時は、慌てて教室へ向かうものの、けっして走ろうとはせず早歩きでちまちまと足を動かすこととか。
糸くずや毛糸を制服のあちこちにつけっぱなしのことが多くって、それが汚らしく見えなくって妙にしっくりと馴染んで見えることとか。
あまり喋る方ではなくって大人しい方だけれど、友達相手なら声をあげて笑うこともあることとか。
たまたま委員会の用事で喋る機会があった時は、別段こちらを避けることもなく普通に用件を話して、その間もしっかりと目を見てはくれたけれど一度も、耳や尻尾に視線が向くことは無かったこととか。
彼女のことを一方的に知ってゆくたび、もやもやと胸の辺りが疼いて、意地とは別の何かが広がっていった。
そうして意地とプライド以外の何かを通して彼女を見れば、彼女の何もかもがものすごく可愛く見えることに気づいたら、もう駄目だった。彼女のつま先から頭のてっぺんまで、全部が可愛いものにしか見えなくなってしまったのだ。
人族の平均より小さい体も可愛いし、全体的に造りの小さい顔も可愛いし、ちょっぴり細めの目も可愛い。こっちの人族の間では目のぱっちりした方が人気があるみたいだけれど、俺はどっちかと言えば切れ長の目の方が元々の好みだ。小さいけど肉付きは悪くなくって、むちっとしたほっぺたも可愛いし、そこそこ大きな胸も可愛い。膝小僧を隠すスカートの丈も、きっちりと上までしめたブラウスのボタンも、ふくらはぎの途中で留められた靴下も、全部全部可愛くてたまらない。
しかし恋心を自覚してからも俺は、彼女に声をかけることが出来なかった。
元々、あっちでは恋愛なんてものと縁のある方ではなかったし、こっちだって人気者になれたとはいえ、やったのは耳と尻尾の手入れくらい。自分から積極的に声をかけて回った訳じゃないし、差し出される好意を受け取って当たり障りなく立ち回っただけ。
耳を触らせてほしいと言われたら、いいよと笑って頭を下げてみせればいい。
尻尾を触らせてと頼まれたら、ふりふりと尻尾を振ってみせたら喜ばれることを知っている。
だけどこちらに何の興味を持っていない相手に、どうやって声をかければいいのかはさっぱり分からない。
触ってみる? って声をかけてみる? いやいや、さすがに突然すぎるし、押し付けがましい気がする。
全然こっちに興味なさそうだよね、とか? うわあ、ただの自意識過剰じゃん。すっげえかっこ悪い。
異世界人ってどう思う? これもない。興味ない相手からそんな事言われたって困るよな……。
あれやこれや考えてみたけど、脳内でいくらシミュレーションしてみたって、どれもうまくいってくれない。あんまり話が上手い方でもないし、耳と尻尾を除けば見た目にもそこまで自信がある訳じゃない。女子には可愛い系って言われるけどそれってつまり、かっこ良くはないってことだろうし。あっちでも、獣人にはひょろってしてて男らしくないって言われてたし、人族にも子供っぽいって見向きもされなかったし。ああ駄目だ、これといって良いところが見つからない。
そうして結局、俺には耳と尻尾しかアピール出来るものがないと、気づいてしまったから。
(ほら、ほら! その編みぐるみよりもふわっふわの尻尾ですよー! 触り心地も抜群、保温性もあるから冬に手をつっこむとすっげえあったかいの、この尻尾。耳は毛の少ないとこは意外とひんやりしてるから、夏場はオススメ。今日はイイ匂いもするし! 触りたくならない? ほら、ほら!)
今日も俺は、彼女とすれ違う。
ぴんと胸を張って、視線は彼女からずらして直接は見ない。だけど視覚以外の感覚は全て、彼女に向ける。
朝はいつもより更に一時間早く起きて、痛めないようにそっと尻尾の毛を逆立てて、空気を大量に含んだふわふわ仕様に仕上げてみた。逆に耳の毛は丁寧に撫で付けて、ビロードの質感を意識した。以前ポプリ作りにもはまってたって聞いたから、ラベンダーの精油なんて俺には縁の無いものも買ってみた。
ふさり、ふさり、慎重に尻尾を振って、さりげなく匂いを振りまいてみる。不自然にならない範囲で最大限に尻尾と耳を動かして、どうにかその視線をこっちに向けるべく努力する。
今日も彼女の視線は腕の中に集中していて、少し上がった口角が、なかなか満足のゆく出来なのだと教えてくれる。可愛らしい笑顔にぶんぶんと尻尾が振れそうになるのを必死で押し留めて、すれ違うその瞬間まで、彼女がこちらを見てくれることを期待する。願わくば編みぐるみを抱える腕を、片方でいいからこっちに伸ばしてくれないかと願う。二ホンではメジャーらしい八百万とやらの神様たちに、どうか今日こそはと頼み込む。
しかし今日も、彼女は俺を見ないまま。
どこかしら楽しげな雰囲気を纏って、さっさと隣を過ぎていってしまった。
それでも期待を捨てきれない俺は未練がましく振り返ってみたけれど、彼女がこちらを振り返ることはない。
小さくなってゆく背中はつれないのに、やっぱり可愛いから目が離せない。
彼女が廊下の角を曲がり、その姿が見えなくなってからようやく俺は、長い長いため息を吐き出して、がっくりと項垂れる。
「あーあ、シロちゃん、尻尾垂れちゃってかわいそーに」
「あんなに頑張っておしゃれしてきたのにねー」
「っていうかもふもふに頼らずに直球でいけばいいのに。ほんっとばかわいいわあ、シロちゃん」
「しょーがないよー。シロちゃんは耳と尻尾がご自慢だもん。みんな俺のもふもふに夢中だぜ! とか思ってるもん絶対。そこ以外のアピールポイント分かんないんだよー」
「わっかりやすいよね、シロちゃん。かあわいい」
そんな俺の姿を、東校舎の向かいの教室から双眼鏡越しに眺める視線が複数。
みんなに内緒でこっそり彼女にアピールしてるつもりの俺の行動が実は、向かいの校舎からクラスメートたちに全て見られていたり。
うまく隠せてたと思ってたのに、俺が調子にのってもふもふアピールしてたことにみんな割と気づいていていたり。
そんな天狗なとこも含め、ちやほやしてたみんなが可愛い可愛いと言ってたのには、お馬鹿なんて言葉が隠れていたり。
自分で思っている以上に、内情がばればれな事にちっとも気づかない俺は、どんよりと落ち込みつつも明日の作戦を考える。
(みつ編み……尻尾にみつ編みが紛れてればさすがに気になるよな……問題はどうやってごくごく自然に、みつ編みを尻尾に紛れさせるかだ。さすがに寝癖じゃ通用しないよな……)
そしてどうやれば自発的でなく偶発的なものを装ってみつ編みを尻尾に発生させられるかについてうんうんと悩み、さりげなく友人たちに聞いて回った結果。
翌日、「近所の小学生がさー」って言い訳と共に、頑張って自分で編んだみつ編みをふっさふっさと振ってみせ、「シロちゃんまじばかわいい……」なんてによによ生暖かい目で見守られてることになんてちっとも気づかない俺は、昼休みを知らせるチャイムが鳴ると同時に、昼飯のパンをくわえて東校舎へと駆け出すのだった。
「シロちゃんまじわんこ」