最後の最後に逢う運命(8/8)PDFで表示縦書き表示RDF


最後の最後に逢う運命
作:樒 麻容



(もう一つの、選択)


「僕は由宇が好きだよ」
「…ごめん」
 用意していた答えなのに、また躊躇った。結論は出したはずだ。そして、今は小百合も離れていかないことがわかっている。それなのに、智哉までを望んでしまうなんて。恋愛の『好き』は返せないのに。
 なんて欲深いんだ。
「わかってる。僕は友達なんだよね」
「…うん。夏目と小百合は弟や妹みたいな感じなんだけど、君は友達なんだ」
「それでいいよ」
 智哉の優しい声に、思わずじっと見てしまった。それで許してくれるのだろうか。二年も待たせて、その結果が友達でいてほしい。なんて自分勝手なんだろうと思うのが普通だろう。
 そんな疑問はお見通しのように、智哉は苦笑した。
「君は変わらなかったからね。僕が好きな由宇のままでいてくれたから。だから、このまま友達なのかな、って感じてた。だから、僕も友達としての感情に置き換えてきたんだよ」
「…ありがと」
 素直に感謝の言葉が出た。結論を出すのが遅かったけど、このタイミングで良かったのかもしれない。夏目の両親が亡くなって、夏目は弟のような位置にいることになり、小百合の我が儘に付き合うのも妹がいるみたいで楽しかった。
 ただ、智哉だけは僕に甘えなかった。何かをしてくれ、という頼みはなかった。だからこそ、智哉は僕が弱っているときに支えてくれる存在になっていたのかもしれない。それは、横の友達の位置として。
「親友だと思っていい?」
「もちろん、思ってほしいよ。夏目以上の親友だと」
 そう、もう答えは出た。また二人の側にいて悪意が僕に降りかかってこようとも、二人から離れる選択肢はなかった。頭痛がしても、気分が悪くなっても耐えられる。そんな僕を二人が好きでいてくれるなら、もう何も望みはしない。
 智哉はゆっくりと顔を上げた。交差する瞳の中に、妖しい光が見えた気がした。
「じゃあ、思い出に小百合みたいにキスしていい?」
 気持ちに決着をつけるということか。小百合もそうして何かを吹っ切ったようだったし。
 そして、それを拒む理由もなかった。
「いいよ。それが望みだったのなら」
 僕の許可に、智哉は僕の頬に手を置いた。それは顎へと辿り着き、そっと固定する。そして、顔を近づけた。ゆっくりと迫ってくる整った容姿。じっと見ているのも不躾かな、と目を軽く閉じた。
 重なるのは唇と想い。夏目とも小百合とも違う、横に位置する友達。横ということは恋人に近いのかもしれない。でも、それは違うとはっきりとわかる。
 今は恋愛なんてしなくても、この四人の距離が心地良かった。ゆっくりと唇は離れた。
そして、智哉は僕の背に手を回して支え、そっと横に寝かせて軽く掛け布団を乗せた。ぽんぽん、と優しく叩く。
「もう少し休んでいた方がいいね。小百合が迎えに来るまで、僕はここにいるから」
 智哉は優しい笑みを浮かべて僕の髪を梳いた。安心できた。これから、僕はこの手と一緒にいれる。夏目と、小百合と、智哉。いつかは離れるとしても、今だけは確実に側にいる。それだけが真実だった。
「ありがとう」
 眠りに引き込まれる前に、これだけは言いたかった。重い瞼はそのまま視界を閉ざし、安らかな睡眠へと導いていった。
 五感で感じるのは、近くにいる智哉のことだけ。


「由宇が幸せなら、僕も嬉しいです」
 夏目は本当に嬉しそうに言った。隣で小百合は困ったような笑みを浮かべていたが、負の感情は見えない。
 あれから一時間ほど経った後、小百合と夏目が休養室のドアを叩いた。二人は何も言わないでもわかったようだ。大分回復していたので、智哉と一緒に二人と合流した。小百合は宣言したとおり、全てに収拾を着けてきたようだった。廊下を歩いていてすれ違った人々は、僕を見て驚いた表情をしたり、薄く微笑む人までいた。なんか、同情されている気がする。
 一体何をしたんだ。
「小百合、どうやって処理したのか教えてくれる?」
「まずはあのランキングを外させた。それから、由宇は重い病に罹っていて、私たちが側で看護しているって噂を流したの」
「なんというか…当たらずとも遠からず、だね」
 重い病は、悪意を溜め込む性質のことを指しているのだろう。まあ、四人でいるのは看護だとは言えなくもない。嘘は言っていないが、誇張し過ぎている。さすが小百合というべきか。
 小百合とその場にいた夏目は、苦笑して続けた。
「見事な手際でしたよ。由宇のため、と気を張っていたのでしょう。休養室から出てきたときは泣きそうな顔をしていましたが、すぐに顔を引き締めていました」
「夏目くん!」
 泣きそうな顔をしていた。小百合が? と疑問に思ったが、小百合でも傷付くことがある。僕が傷付けた。それなのに、僕のために事を収めてくれた。
 小百合、君は夏目くらいに大切なんだ。
「由宇、わかってるの。私のことも大切に想ってくれていることは。だから、気にしないで」
「そうだよね」
 智哉は小百合にふっと笑みを浮かべた。
 戦友、とでもいうところか。小百合は智哉の差し出した手を軽く叩いた。パンッという高い音は、変わらない友情を示しているように聞こえた。
 表面上では何も変わっていないように見える僕達の関係。しかし、内部で確実に変わっていた。それは、僕が望む形に。
 最後の最後、僕は運命に逢った。


本編は『最後の、最後』です。この話はどちらも選ばなかった、という選択もあったということで書いてみたものです。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう