4.暗闇の、中で
「和洋折衷ってところね」
小百合は仕掛けを悉く無視していった。入った途端に照明は淡くなり、進行方向が蛍光塗料で示されているのがはっきりと見える。小百合は先を歩いていた。繋いだ手は離れない。
和洋折衷と評したように、フロアによってお化けの種類が違うようだ。初めの方は日本のもののようだった。こんにゃくが頬に当たりゾクッとしたが、恐怖を感じるものではない。先を歩く小百合は、角を曲がったところで突然出てきた幽霊を模した生徒に驚くことなく、じっくりと観察して批評をしていた。流石オカルトには詳しい。
世界観は布で仕切られていた。そこで小百合は手を離した。黒い布を除けて進むと、そこは西洋の内装になっていた。透けて見える貴族風の女性は、映写機か何かで映しているのだろう。これは怖いというより不思議な感じだ。幽霊洋館、というような印象を受ける。小百合はそこにある小物を手に取って検分していた。ああ、だから手を離したのか。
「安物だけど、ここには合っているわね」
「小百合、お化け屋敷を違った意味で楽しんでるね…」
アンティークの小物は偽物のようだが、それでもそれなりには見えた。小百合は満足したのか、すたすたと先に進んでいった。
また仕切りがある。小百合は先に行っている。その布の先には小百合がいるはずだった。
しかし、その布の先には扉があった。ノブを回してみても開かない。ここからは先は一人で行くということか。それなら、時間が経てば開く。思ったとおり、扉は自動に開いた。
先には階段があった。二階も全体的に使っているはずだから、昇るのは当たり前と言える。足下を照らす小さな豆電球の光だけを頼りに歩いた。この明るさなら、踏み外して怪我をすることもないだろう。また、仕切りの布が現れた。それを軽く払う。
何も見えなかった。真っ暗で、小さな光さえない。加えて静まり返っていた。床にも布が敷いてあるようで、今までとは違う感触がした。壁にも布が掛かっているようで、ざらざらした手触りを感じながら、壁伝いに歩いていった。これは、嫌な怖さだ。
「お前は自分に価値があると思っているのか?」
どこからか、声が聞こえた。機械で変えた低い、耳障りな声だ。これがここの仕掛けか。
自分の価値なんて自分で測れるものではない。だからこそ、いつも迷っている。
「からかわれているのに気付かないのか?」
誰に言っている? これは前に言われたことがある。…『あの事件』で言われた。
一歩一歩が重くなってきた。
「好きだと言われて浮かれているのか?」
浮かれてなんていない。ただ、信じているだけだ。疑うのはいつでもできるから、今は信じていたかった。小百合と智哉を、裏切る形で離れたくなかった。
「お前はあの二人に合わない」
…僕のことだ。録音テープを流しているのかと思ったが、これははっきりと僕のことを言っているのだとわかる。そして、この情報は『あの事件』を知っている人にしかわからない。ランキング集計の際、小百合と智哉のことを調べたときに行き着いたのだろうか。二人が僕のことを好きだと言ったことまで知っている。
「消えろ」
さっき言われた。まさかお化け屋敷で聞くことになるとは。死んでいる人に「消えろ」と言われても、と軽く考えようとしたが無理だった。吐き気とともに頭痛が襲った。
「お前なんか、いらない」
全否定された。いらない。それは僕が一番苦手とする言葉だった。不必要。無くていいモノ。無価値。
必要とされたいから、夏目を助けるフリをしているのかもしれない。そんな自己嫌悪が頭痛を酷くした。
「だから…今日決着をつけるんだ…」
力無く、前に触れた布を捲った。まだ、小百合はいなかった。 |