3.わかって、いたのに
小百合は智哉と腕を組み、そのグループに向かってにっこりと笑った。あ、作った笑顔だ。
「そこ、通らせてもらえる?」
「邪魔しないでよ」
小百合の意図がわかったのか、智哉も加勢した。嫌な笑い声を立てていた数人は、二人のその様子を見て大人しく道を譲った。三位という評価のことだけはある。
二人が通った後を、僕と夏目が続いた。女性が言っていた『ホモカップル』とは、僕と夏目のことだろう。
「お前、消えろよ」
通り過ぎるときに言われた。誰が言ったかはわからない。それに同調するかのように、邪魔、と違う人が小さな声で言った。
消えろ。存在を抹消しろということだろうか。それは『死ね』と同意語だ。
吐き気がする。人の悪意に接すると、それが体の中に溜まった。その悪意は、たとえ自分に対してもモノでなくても関係なく溜まっていく。『あの事件』でも、僕は悪意を溜め込みすぎて、消化するのに時間がかかった。
ふと、振り返った小百合と目が合った。慌てて平気な顔を取り繕ったが遅かった。胸に手を置いているのにも気付いたのだろう。
小百合は綺麗な笑みを浮かべた。
「由宇と夏目くんは付き合っていないわよ。二人は私の友達。私の友達に失礼なことを言わないでね」
「僕からもお願いするよ」
珍しく智哉も笑顔を作った。僕から見れば、それは不本意で作った笑みだということがわかるが、他の人には綺麗な笑みに見える。
男女グループはバツが悪そうに僕達が来た方向へと歩いていった。その姿を確かめると、小百合と智哉はすぐに腕を解いた。本当に、どこが『お似合いカップル』なのだろう。
『お似合いカップル』の隣にあったのは、『似合わないカップル』だった。丁寧に『似合わない』の下に括弧書きで『気持ち悪い』と付け加えられていた。
そこには予想通り、僕と夏目の名前があった。それも三位。一位、二位は男女カップルで、一位は男性の容姿が良く、女性は中の下というところで、二位はその逆だった。三位に僕達というのは、小百合と智哉が知られていることからの結果だろう。これが、夏目が『僕に向かってくる』と言っていた理由か。
いつ撮ったのかわからない写真に、僕の平凡な顔が写っていた。これで、僕は名前も顔も不特定多数に知られる。
「消去法かな」
「なんで夏目くんなのかなー。私も由宇と一緒が良い」
「『似合わない』だよ?」
「『カップル』でしょ?」
確かに、と頷くと、小百合は楽しそうに笑った。『カップル』に妙に拘っている。
下の順位を見てみると、やはり大学ということもあって、バラつきがあった。僕と同じように、同性カップルも何組か挙がっていた。本当のカップルは何組あるのか甚だ疑問だ。
あとのランキングは取るに足りないものばかりだった。好きな学食メニューなど、学校特有のものが調べられていた。別に興味ないし。
小百合は次に行きたい所が決まっているようで、案内地図の一点を指した。
「ここに行きたい」
「『お化け屋敷』ですか」
「…好きだよね」
夏目と智哉は溜息を吐いた。僕も釣られて苦笑する。
小百合はオカルト系には異様に興味を示した。『あの事件』は、オカルトな要素が多く出てきたため、最終的な謎解きのような解決は小百合にピッタリだった。学祭のお化け屋敷なのだから、高いレベルは望めないが、小百合はそれでも見てみたいのだろう。
「僕は良いけど。どうする?」
「私と由宇が良ければ全て良し!」
どんな理屈だ。呆れて智哉と夏目を見ると、二人は不満を言うことなく苦笑いをして承諾した。少なからず興味があるのかな。お化け屋敷といっても、入ってみないとどういったものかはわからない。大きく日本風、西洋風にも分かれる。
二分くらい歩いたところで、そのお化け屋敷がある校舎へと辿り着いた。小さい校舎だが一、二階全体を使っているため、規模は大きい。入り口からはどの系統のお化け屋敷かわからない。
何か少し気になってきた。
「二人一組で入るみたいなんだけど、私は由宇と入るねー」
小百合は僕の腕を引いて入り口へと向かった。自然と智哉と夏目が組むことになった。小百合が入場料を払おうとしているのを制して、僕は四人分払った。学祭でやっているものは値段が安い。別に大した出費じゃなかった。それなのに、小百合と智哉、夏目はそれぞれに感謝の言葉を言った。
だから照れるって。
「じゃあ、お先に」
五分後に入る智哉と夏目に軽く手を振った。それに夏目は同じように手を振り返し、智哉は優しい微笑で応えた。
小百合が掴んだ手に、決心が鈍りそうになった。もう、こんな穏やかな状況はありえなくなる。 |