第百四十七話 騎馬の話その一
騎馬の話
ナンがポルフィと約束したその日の放課後。クラスの面々は乗馬のグラウンドの観客席にいた。ここで競技も行われたりする広い場所である。
「そういえばここって」
「来たのはじめてよね」
「そうだよね」
多くのクラスのメンバーがこう話すのだった。
「何か馴染みがないっていうかね」
「馬に乗らないとちょっとね」
「そうだよね」
「俺もそうだ」
ダンもここで皆に言うのだった。
「乗馬はしないからな」
「ダンってやっぱり海だからね」
七海がそのダンに話した。
「馬じゃないのね」
「北馬南船か」
ダンはこの言葉をふと出したのだった。
「それは中国だったか」
「そうよ。中国よ」
その中国人の蝉玉の返答である。
「地球にあった頃の中国の地形よ」
「そうだったな。北は馬での移動が容易で」
「南は河が多かったのよ」
その中国の地形の大きな特徴であったのだ。だから戦略や戦術も大きく違ったものになったしそれは政治にも及んでいたのが中国なのだ。
「まあ私はその時代に生きていないから実感はないけれどね」
「実感できれば怖いぞ」
ダンは言った。
「それはな」
「まあね。千年も生きていたら仙人だからね」
なお天本博士は仙人以上に生きている。
「そこまで生きていたら」
「けれど中国は北と南なんだ」
スターリングがふと口を開いた。
「アメリカじゃこれが東と西だって言われていたんだよね」
「東と西?」
「ほら、西部劇あるじゃない」
スターリングは蝉玉に応えて述べた。
「あれ。あるよね」
「ええ、あれね」
西部劇が何かは言うまでもなかった。アメリカの開拓時代、フロンティアの時代を舞台にしたジャンルである。ガンマンやカウボーイが荒野で銃を手に戦う世界だ。
「あれのことね」
「西部は馬なんだよ」
その西部についての話であった。
「もう荒野をそれで移動していたんだ」
「映画にある通りだな」
ダンは彼の話を聞いて納得した顔で頷いた。
「それは」
「うん。それで東だけれど」
西部のことを話した上で今度は東部の話をするのだった。
「東はミシシッピー河があってね。それを使って移動していたから」
「それで船か」
「そういうこと。ミシシッピー河を船で移動していたんだ」
このことは長江と同じであったのだ。中国の経済の大動脈であったその長江とだ。
「だから僕達は言うなら東船西馬だったんだよ」
「その地域によってそれぞれ違うか」
ダンはこのことを実感するのだった。
「昔の移動手段は」
「馬だけじゃないのよ」
蝉玉はこのことを強調するのだった。
「今だってそうじゃない」
「宇宙船は確かにあるけれどね」
スターリングもそれに続く。
「ほら、惑星の中だとそれこそ」
「車もあれば鉄道もあるな」
すぐにそういったものを話に出すダンだった。
「船もあれば飛行機もある。そういうことか」
「だから昔も馬だけじゃないのよ」
このことをまた言う蝉玉だった。
「中国でもアメリカでも。そういうものだったのよ」
「ああ、そういえば」
ロシア人のアンネットもふとしたように気付いたのだった。
「ロシアだってそうだったわね」
「ロシアもなの?」
コゼットはそれを聞いて目を少しキョトンとさせた。
「けれどロシアって平地ばかりだから」
「馬だって言いたいのね」
「違うの?」
実際にそれを聞き返すコゼットだった。
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