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第百四十五話 思い込ませるその四
「江戸時代の日本の岡っ引もいいんだな」
「あの二人に時代考証なんてないから」
 そんなものがある筈もなかった。
「別にいいわよ」
「よし、これでいい」
 何と色紙にサインペンで銭形平次のサインを書いてしまったのだった。
「これでな」
「ええ。ちゃんと書けてるじゃない」
 蝉玉はそのアルファベットでの銭形平次のサインを見てにんまりと笑っていた。
「オランダ語ってことでいいわね」
「何か凄い設定だね」
 かくいうスターリングは人形佐七であった。やはり彼もアルファベットで書いている。そうしてそのうえで青いカラーのサインペンでテンボ君とジャッキーちゃんに、と書いている。
「それって」
「いいのよ。わからないから」
 二人の頭脳の出来をよく把握しての言葉であった。
「とりあえず皆書いて。さて、私は」
 蝉玉はドルーリ=レーンであった。彼が服毒自殺していることは知っているがそれでもあえて彼ということにして書いてしまったのである。
「これでよし、ね」
「ホームズできたわよ」
「ハニー=ウエストも」
 偽造は続く。
「あとは。ネロ=ウルフに」
「九十七分署の面々も書こうよ」
 こうして瞬く間に普通の人間ならば誰が見てもおかしいどころではないサイン入りの色紙が出来上がっていった。そして皆それを用意したうえで二人を起こすのであった。
「大変だ!」
「シャーロック=ホームズが来たぞ!」
「何っ、シャーロック=ホームズ!?」
「本当なの!?それって」
 二人共実際にそれで目を覚ましたのであった。
「それで何処なんだ!?ホームズは」
「何処にいるの!?一体」
 早速辺りを見回す。しかしそこはナンのゲルの中だ。そして皆がいるだけである。それでも二人は周囲をしきりに見回していた。
「何処に行ったんだ!?」
「まさか消えたとか!?」
「ああ、さっきまでそこにいたのよ」
 こう二人に答えたのはルビーであった。
「残念だけれどもういなくなったわ」
「くっ、そうなのか」
「私達に会うのが怖くなって逃げたのね」
 何故かこうした考えに至る二人であった。しかしそれでもまだ辺りを見回してはいる。
 その二人に対して。まずは蝉玉が歩み寄ってきて告げるのだった。
「それはそうとね」
「ああ」
「どうしたの?」
「面白いもの貰ったわよ」
 こう告げるのであった。
「それも一杯ね」
「面白いもの!?」
「一杯!?」
「はい、これ」
 言いながら自分が書いたドルーリ=レーンのサインを差し出すのであった。勿論それが偽者であることは言うまでもないことではある。
「ドルーリ=レーンのサインよ」
「おい、そんなの本当にあったのかよ!」
「凄いじゃない!」
 二人はそのサインを見て会心の声をあげた。
「復活していたんだな」
「死んだと思っていたのが実は生きていて」
 二人が勝手にそう思っていることである。
「それが今こうしてか」
「夢みたいな話ね」
「そうでしょ?二人プレゼントしてくれって」 
 言いながらそのサインを出すのであった。しかも丁寧なことに二枚ある。一人に一枚ずつというわけだ。勿論そうしたことも考えてのことである。
「言い残してこれ置いていってくれたのかよ」
「すげえな、あの名探偵のサインかよ」
「耳が聞こえなくても活躍してるあの名探偵の」
 まずこの時点でおかしかった。この時代は耳が聞こえなくても機械や移植でどうとでもなるのだ。これは目や舌、鼻にしても同じである。
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