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八条学園騒動記
作:坂田火魯志



第十九話 もてない苦しみその四


「ああ、その体育館なの」
「そうよ。来て」
 二人に対して言う。彰子と七美はそれを受けてコゼットについて行った。
 ついて行くと何か詠唱のようなものが聞こえてきた。それだkで不気味さが増していく。
「何よ、これ」
「いや、私もこれは聞いたことがなかったわ」
 コゼットは七美の問いに顔を顰めさせていた。
「何だろう、一体」
「最初は何だったのよ」
 七美はコゼットに問うた。夜の学校の中は草花ですら化け物のように見える。
「体育館の中で一人バスケットしてる幽霊だったのよ」
「まあ定番って言えば定番ね」
「けれどこれって」
 コゼットはその詠唱に顔を顰めざるを得なかった。
「何なんだろう」
「まあ碌でもないことやってるのは確かね」
 七美は直感でそう述べた。
「悪魔崇拝者か何かでしょうね」
「それって大変なことじゃないの?」
 彰子がそれに怪訝な顔をして問う。
「生贄とかやってたら」
「それよね。動物虐待よね」
 この時代では悪魔崇拝は問題にはならない。悪魔というものを調べていけばキリスト教のそれとはまた違う神であることがすぐにわかるからだ。実際には彼等は悪ではないのだ。もう一つの善であると言ってもいい。少なくともミルトンの失楽園にある悪魔達はどう見ても悪ではない。
 彼等がこの時代で問題になるのは生贄というものである。大抵の悪魔崇拝者達は単なる古代宗教の復活やキリスト教へのアンチテーゼとして信仰しているが原理主義者は何処にでもいるもので生贄にこだわる者達もいることはいるのである。それが問題なのだ。
「そうよね。まあそれをやってなくても」
「不気味そのものよ」
 七美もコゼットも述べる。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「もっととんでもないのが出るか」
「言うわね、コゼット」
 七美はここでコゼットの言葉に突っ込みを入れた。もう体育館に忍び込んでいる。
「よくぞここで」
「リラックスしないと」
 それに対するコゼットの返答もいい。
「いざって時に硬くなってたら困るでしょ」
「まあね」
「それでよ」
 コゼットはそっと中を覗き込む。
「何がいるのかしら」
「何かこの詠唱って」
「変じゃない?」
 七美と彰子はその詠唱を聞いて呟いた。それは確かに異様なものであった。
「エロイムエッサイムエロイムエッサイム」
 まずは普通の詠唱である。
「エコエコアザラクエコエコアザラク」
 これもまた普通であった。
「ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ」
 よく聞けば普通ではない。
「ゴマフアザラシモンクアザラシ」
 いきなり訳がわからなくなった。
「クロネコヤマトノタッキュウビン」
「何て言ってるかわからないわよね」
 七美は中を覗きながら呟く。奥では灯りが灯り変な集団が見えていた。
「そうね。何よこの呪文」
 コゼットにも何が何だかわからない。
「滅茶苦茶じゃない」
「昔の日本語かしら」
 彰子が首を傾げて呟いた。
「これって」
「そうなの?これ」
「ううん、自信ない」
 といっても一千年も前の言葉なのではっきりしたことは言えない。それどころか日本語ではなさそうなものまで混じっていた。
「アブラカタビラアラビレチャブレ」
「・・・・・・とにかくさ」
 コゼットは言った。
「見てみましょう、何がいるのか」
「そうね。絶対に何かいるわよね」
 七美がそれに頷く。
「それじゃあ」
「一体何が」
 そっと除いてみる。するとそこには訳のわからない異形の集まりがいた。
「・・・・・・何あれ」
 七美は最初自分が見ているものが何なのかわからなかった。見ればそこには全身を法衣で包み頭を三角形のフードで覆った者達がいたのだ。色は赤であった。
「今こそ我等の悲願を達成する時ぞ!」
「もてる者、幸せなカップルに制裁を!」
「・・・・・・ああ、奴等ね」
 コゼットはそれを見て彼等が何者なのかを悟った。
「本当にいるとは思わなかったけれど」
「嫉妬団よね」
「そうね」
 コゼットは冷めた目で七美の言葉に答えた。
「間違いないわね、あれは」
「噂じゃなかったんだ」
 見れば七美の目も冷めていた。二人の目はこれ以上になく冷めたものである。
「で、あの中にあいついると思う?」
「あいつって?」
 コゼットは七美に問う。
「決まってるじゃない。カムイよ」
「ああ、あれね」
 冷めた言葉が続く。
「絶対いるわね」
「そうよね、間違いなくね」
「あの」
 彰子が二人に囁いてきた。
「何?」
「何か変なことしだしたんだけれど」
「変なこと!?」
「うん、ほら」
 そっと指差す。すると嫉妬団の者達は呪文の詠唱を終え何か変なことをはじめた。







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