第二話 妹と兄その五
「うちのアリスは何処?」
「ええ、奥の部屋にいるわよ」
ジョーは答えた。
「ルーシーやケイトと一緒に」
「そうですか、よかった」
「いい娘ね。真面目にちゃんと勉強して」
ジョーは笑みを浮かべてスターリングに言う。
「私から教えることはない位よ」
「それはどうも」
「だから私からは何も言うことはないけれど」
「僕からも」
「お兄ちゃんには私から色々言いたいわよ」
蝉玉はまだ兄に対して何かと含むものがあった。
「本当に大丈夫かしらってね」
「公明もちゃんとやってるわよ」
ジョーはむくれ続ける蝉玉にも言った。
「だから安心して」
「そういうことなら」
「それで顔出す?」
ジョーはスターリング達にまた尋ねてきた。
「妹さん達に」
「いえ、遠慮します」
スターリングは落ち着いた様子でそれに答えた。
「勉強の邪魔になりますから」
「俺もそうさせてもらいます」
ベンも言った。
「ここは静かに勉強した方がいいですから」
「そうなの」
「まあ玄関でここまで騒いで今更って気もするけれど」
エイミーは両手を後ろに回してそう述べた。
「ここは帰りましょ。何もなかったってことで」
「ただ単に蝉玉の勝手な暴走ってわけだな」
ベンが溜息混じりに述べた。
「やれやれだ」
「うう・・・・・・」
言いたくても言い返せない。何故ならその通りだからだ。
顔を真っ赤にさせて身体を震わせる蝉玉を引き摺って部屋を後にする。そして一旦隣にあるスターリングの部屋に入った。そこのリビングで四人車座になった。
「まあ何もなくて何よりってわけだ」
最初にベンが言った。
「とりあえずこれで一件落着だな」
「私はジョーお姉ちゃんが出て来た時点で大丈夫と思ったわよ」
エイミーがそれに応えて言う。
「こりゃ安心だって」
「僕はまあ最初から」
スターリングは最初から焦らず、落ち着いて考えていたのである。
「わかっていたけれど」
「結局私の一人よがりだったてことね」
「うん」
「それ以外の何なの?」
「まあ気にすることはないよ」
三人はそれぞれ声をかける。優しい言葉はスターリングのだけであった。
「何か馬鹿みたい」
蝉玉は状況を受け入れて言う。同時に天井を見上げた。
「私一人で勝手に騒いで勝手にここまで来て。それでスターリングのとこに邪魔になって」
「僕の部屋に来るの嫌だったの?」
「えっ」
この言葉は予想していなかった。突然のことなのでギョッとした顔になる。
「来たのはじめてだったけれど」
「あっ、そういえばそうだったっけ」
言われてそれに自分でも気付く。
「うん、そうだよ」
「何かはじめてじゃないみたいだけれど」
蝉玉はその整った顔を急に赤らめさせながら言う。
「いや、いきなりだったから、その」
「それで来てどう?」
「悪いわけないでしょ」
顔を赤くさせたまま答える。
「だって。来たかったんだから」
「そう」
スターリングはその言葉を聞いて嬉しそうな顔を見せた。
「そう言ってもらえると有り難いけれど」
「いい来訪じゃなかったけれど」
それが残念と言えば残念だった。
「けれど。まあいいかしら」
「俺達ぎなかったらもっと?」
ここでベンが笑みを浮かべて言ってきた。
「えっ!?」
「だって彼氏の部屋にはじめての御訪問」
「お邪魔虫がいたらムードがぶち壊しよね」
エイミーも参戦する。ベンと共同戦線を張り蝉玉に意地悪な笑みを浮かべていた。
「ここは退散ってことで」
「後のこと、じっくり聞かせてよね」
「ちょ、ちょっと待ってよ二人共」
本当に帰ろうとする二人に慌てて声をかける。
「何でそうなるのよ」
「何でって」
「私達だってわかってるわよ」
意地悪をしていることがだ。だが別のことをわかっているとあえて言う。
「だからね」
部屋を出ようとする。
「ごゆっくり」
「あの、そのね」
蝉玉が一人で慌てて焦っていた。スターリングは平気な顔でコーヒーを飲んでいる。
「何をそんなに慌ててるの?」
「何がってちょっと」
落ち着き払っているというよりは何処か天然な彼氏の態度にかえって自分が慌てる。
「貴方からもちょっと」
「ちょっとって二人共まだ帰らないでしょ」
「えっ!?」
彼の言葉にピタリと動きを止める。
「あの、今何て」
「だってさ。二人共君をからかってるだけだよ」
「私を!?」
「まあ落ち着きなって蝉玉」
「スターリング・・・・・・」
彼を見て何か雨に濡れた猫みたいな顔をする。
「そうやって慌てたままだと余計に不味いからさ」
「・・・・・・うん」
スターリングを見る。後ろには今人気の男性五人組バンドのポスターがあった。枕元には本が何冊か置かれていた。そういったものを見ているうちに落ち着いてきた。
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