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第百二十九話 カラオケにてその五
「ジャズもやれるなんて」
「サックスも。好きだから」
 ギターだけではなかった。
「だから。それでね」
「凄いのね」
 今の言葉はローリーのものでもジュリアのものでもなかった。
「管君って。凄いわ」
「凄いの」
 その隣にいた彰子にもいつもの調子の家持だった。
「僕って」
「本当に凄いわ。プレスリーにビートルズで」
 ちゃんと聴いているがやはりローリーとジュリアは彼女のことに気付いていない。家持に対することだけでもう一杯一杯になってしまっていた。
「それにジャズもなんて。サッテモよね」
「サッチモだよ」
「そうそう、サットモ」
「だからサッチモ」
「サッチモ。その人のも歌えるなんて」
「そうだよね」
 ローリーは彰子が家持の隣の席にいることの意味にまだ全く気付くことなく呟いた。
「ここまで歌えたなんて」
「全くよ」
 彰子に気付いていないのはジュリアも同じだった。というよりかは今は彰子は目には入ってはいなかった。家持だけを見てしまっていた。
「意外を通り越して衝撃よ」
「全くだよ。けれど」
「けれど?」
「これはいいことだよ」
 こう言うローリーだった。
「これってね」
「いいことなの」
「歌が上手いことはいいことだよ」
 ローリーはこのことは素直に賞賛していた。
「それはね。それだけでいいことじゃない」
「まあそれはね」
 ジュリアにも異論のない話ではあった。
「いいことね。確かにね」
「そうだよね。だからそれはいいよ」
「けれどなのね」
「うん」
 結局はそうなるのだった。話はどうしてもイメージの話になってしまう流れだった。
「管って。どうもプレスリーとかビートルズってね」
「イメージじゃないのよね」
「ギターを持つのだって」
 そのこともだった。どうしても二人のイメージではなかったのである。
「絶対に想像できなかったし」
「わからなかったわよね」
「ううん、しかも凄く上手いし」
「あれね」
 ここでジュリアはよく言われる言葉を口にした。
「人は見かけによらない」
「それだよね。やっぱり」
「あんたも風紀委員だし」
「僕もなの」
 自分の話にもなったのはローリーの計算外のことだった。
「僕もその中に入るの」
「当たり前でしょ」
 ジュリアの言葉にいつもの歯切れが戻った。
「あんたが風紀委員って聞いて暮らすの外じゃ驚く声が多いじゃない」
「それが楽しいんだけれどね」
「楽しんでもいるし」
 そこも指摘するジュリアだった。
「そういうところなのよ」
「そうだったんだ」
「そうよ。まあとにかくよ」
 また言うジュリアだった。
「管に関してはね」
「とりあえずイメージを捨ててだよね」
「そうよ。そういうふうにしないと」
 どうしようもない、そう結論を下したジュリアだった。
「それでいいわよね」
「僕はそれでいいよ」
 ローリーにしろ偏見の乏しい人間なので彼女の言葉に素直に頷いた。
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