第百十三話 禁断の愛その四
「ねえアンジェレッタ」
「お薬って」
「間違いなく惚れ薬よ」
こう皆に答えるアンジェレッタだった。
「これはね」
「そうよね?」
「だったらどうして?」
「それが私にもわからないのよ」
アンジェレッタ自身も首を傾げさせていた。
「これがね」
「そうなの」
「効かない筈がないわ」
どうやらあの薬にはかなりの自信があるようである。
「あのお薬がね」
「そんなに凄いの?」
「トリスタンとイゾルデよ」
エウロパの古い伝承である。ワーグナーの楽劇でも有名だがこれ等の話は連合でもよく知られているしまた楽劇が上演される回数も多い。
「それに匹敵する効果があるのよ」
「トリスタンとイゾルデねえ」
「またえらく効果に自信があるのね」
「そうよ。あれを飲んで最初見た人を好きにならなかった人はいないわ」
断言であった。
「一人もね」
「じゃあ今は?」
「彰子は?」
「何の変わりもないわね」
これはアンジェレッタも認めるところであった。
「おかしなことにね」
「お薬が効かない体質なのかしら」
「ひょっとしてそれ?」
「いえ、それはないわ」
しかしここで蝉玉が断ってきた。
「それはね」
「ないの」
「この前風邪ひいた時ちゃんと効いてたし」
「そうだったの」
「現にほら」
今の話もしてきた。
「ちゃんと寝たじゃない。だからやっぱり」
「効いてはいるのね」
「絶対にね。それによ」
今度はアンジェレッタに顔を向けて問うた。
「あんたのお薬にしろそんなにやわな代物じゃないでしょ」
「勿論よ」
確かな声で頷いてみせての言葉だった。
「そんなお薬なんか何の意味もないから」
「そうよね。だから効いてるのは間違いないわ」
「じゃあどうして?」
「普段とあまり変わらないみたいだけれど」
「っていうか全然?」
そうとしか見えないのだった。
「変わらないみたいな」
「どうしてかしら」
「まだ様子見が必要みたいね」
蝉玉が言った。
「それでなのね」
「そうね。それじゃあ」
「とりあえずは見てなのね」
「それしかないわね。さて」
蝉玉はあらためて彰子を見て言った。
「どうなるかしらね」
「まだまだこれからってことね」
こうしてまだ様子を見るのだった。見れば彰子は普通に明香と話を続けていた。
「それで明香」
「どうしたの?姉さん」
「どうしてここに来たの?」
こう妹に尋ねるのだった。
「何かあったの?」
「ええ、それだけれどね」
いつもの調子での言葉のやり取りが続いている。皆それをじっと見ている。やはりおかしなところは何もなく二人共冷静なままである。
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