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第百九話 いきなり殺人事件その五
「だからだったんだけれど」
「食べるのに理由が必要なの?」
「あるだろう。何らかの根拠が」
「じゃあ好きだし食べたかったから」
 それ以外には理由がないというのがベッカの主張だった。
「だからなんだけれど」
「うぬぬ・・・・・・」
「ついでに言うと黒いざる蕎麦じゃないよ」
 このことも言うベッカだった。
「赤いざる蕎麦を食べたよ」
「赤!?よし、また一つわかったぞ」
「また一つわかったって?」
「そうだ」
 また言い出すのだった。やはりそれがどうしてなのかはテンボ自身にしかわからない。もっとも彼自身もわかっているのかどうか甚だ疑問であるが。
「御前はもうすぐ事件に出会うことになる」
「事件って?」
「殺人事件だ」
 また随分と剣呑な話になってきた。
「それに出会うことになるぞ」
「何でそう言えるの?」
「俺は天才だ」
「それはいいから」
 もう彼の主張は聞かないことにしていた。
「とにかく。殺人事件って?」
「世界は犯罪で溢れかえっている」
「そうなのよ」
 さっき推理の大間違いを指摘されたジャッキーは全く落ち込むことはなく話に加わってきた。その不死身さだけは見事なものがある。
「だからあたし達がいるのよ。わかる?」
「お巡りさんじゃないんだ」
「国家権力はいざという時には全くの無力よ」
「その通りだ」
 テンボも同じ考えであった。
「だからこそ。謎を解いていくのよ」
「犯罪。それはドラマだ」
 今度のテンボはかつてシェークスピアの舞台俳優だった耳の聞こえない探偵に鳴っていた。少なくともそのつもりではある。
「その中でも殺人は。最大のドラマだ」
「ドラマなんだ」
「人生をかけたな。そこにあるものは劇だ」
「ドラマと劇は一緒じゃないのか?」
「また言葉が無茶苦茶してきたわね」
 皆は呆れた声を出す。またしても。
「だからだ。御前は殺人事件に出会うことになる」
「話がわからないけれど」
「最後になればわかる」
 自分だけは自分自身を名探偵だと確信しているテンボだった。
「最後にな」
「わかるとは思えないけれど」
「俺にわからないことはない」
 それでも言うテンボであった。
「それはわかっておくことだな」
「期待しないで待っておくよ」
 これでとりあえずお昼御飯の推理やら殺人事件の話も終わったのだ。話が終わってから暫く経って。ベッカが街を歩いていると道で人が死んでいた。
「・・・・・・何、これ」
「だから。死体でしょ」
 丁度彼とデートをしていたペリーヌが言う。
「うつ伏せになって息をしていないから」
「じゃあひょっとしてこれって」
「殺人事件よね、やっぱり」
 言葉は冷静なものだったが態度は違っていた。二人共かなりあたふたしだしている。
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