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第百五話 遅れてきたヒーローその五
「九十六パーセントよ」
「それでないと飲んだ気がしないわ」
「強いわね、相変わらず」
「ああ、全くだよな」
 今のアンネットの言葉にジュリアとロザリーが呆れたように言う。
「どうしてそんなに酒が強いんだかな」
「ロシア人だからよ」
 アンネットはロザリーの今の言葉に平然と答える。
「だからよ」
「それだけか?」
「ええ、それだけ」
 返事は不変の響きを持っていた。
「ロシア人は皆お酒が大好きでしかも強いのよ」
「それは知ってるけれどな」
 連合では誰でも知っていることだ。ロシア人と酒が切っても切れない関係にあることはロシアが地球にあった頃からだ。あまりにも寒く飲まないと凍えてしまうからだ。だからロシアでは軍への給料が滞ってもまだ何とかなるが酒がなくなっては暴動が起こるのだ。酒はロシア人にとっては命なのだ。
「それでも。平気な顔で飲むっていうのはな」
「私達も人のこと言えないけれどね」
 ジュリアは早速バーボンをボトルごとラッパ飲みしだしていた。
「それでも。ウォッカは強過ぎるでしょ」
「火点けたら燃えるしな」
 ロザリーはブランデーをストレートでやっていた。
「ウォッカだけはな」
「ロシアじゃあれよ」
 アンネットは何とそのウォッカを飲んでいる。ストレートでだ。氷も何も入れずコップにそのまま入れて水を飲むようにして飲んでいるのである。
「これを飲めれば一人前なのよ」
「ウォッカをか?」
「そうよ、まずはこれ」
 九十六パーセントを飲んでも素面である。
「これを飲まないとロシア人じゃないのよ」
「凄い国だな、おい」
「そんなの飲めないと駄目だなんて」
 ロザリーもジュリアも言葉がない。
「あたしには無理だよ、それだけは」
「私も」
「何、大丈夫よ」
 しかし当のアンネットは涼しい様子である。
「誰でもロシアにいれば飲めるようになるから」
「寒いからか?」
「その通り」
 やはり理由はこれであった。
「我が国ってあれなのよね。持ってる惑星が寒い星だばかりだから」
「あれ何でなのかしらね」
 ジュリアはアンネットの今の言葉について真剣な顔でロザリーに尋ねた。
「前から不思議に思っていたけれど」
「呪いじゃねえのか?」
 ロザリーも小声でジュリアに答える。
「ロシアにかけられたよ」
「呪いなの」
「ロシアだぞ」
 かなりな言葉である。
「寒さからは逃げられなかったんだろ」
「そうなの」
「ロシアつったら冬だ」
 最早固定観念となっている。
「春夏秋はあっという間で」
「後はずっと冬なのね」
「しかもとんでもなく寒くて凍える冬な」
 それがロシアの冬である。地球にいた頃と同じような極寒の惑星ばかりがロシアにある。勿論農業はできる。ロシアは寒い惑星ばかりだがそれでも連合屈指の農業国でもある。春夏秋の間に農業が可能だからだ。これは不幸中の幸いであると言えた。
「あれからは逃げられないんだろうな」
「冬将軍ってしつこいのね」
「皆あったかい星だって持ってるのに」
 アンネットは羨ましそうに言う。
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