第十三話 オフレコその七
「誰でもって?」
「そうよ。貴女だって御堅いようで」
「わかってるわよ」
また顔を横に向けて視線を逸らす。
「あまり苛めないでしょ、それで」
「別に苛めてなんかいないけれどね」
「それでどうしてマルティなのかしら」
聞きにくい状況に陥っているがそれでも聞いた。流石は新聞部であった。
「よかったら教えて。あっ、オフレコだから安心してね」
「それじゃあ」
そこまで言われてからようやく話す。前置きが長いのは店の中だからであろうか。
「それはね」
「うん」
ごくりと固唾を飲んで次の言葉を待つ。その言葉は。
「優しいからなのよ」
「それだけ?」
「それだけ充分じゃないの?」
カトリは逆にキョトンとした。
「それだけで」
「けれどマルティよ」
「それでどうかしたの?」
「学園一のスケベ大王が」
「僕ってえらい言われようだな」
「何言ってるのよ。八条スポーツのエロ方面担当じゃない」
「まあね」
「って今」
「あっ、しまった」
また失言であった。
「い、今のもオフレコだからねオフレコ」
「わかったわよ」
ナンシーにそう返す。
「とにかくね。それでね」
「ええ」
何かナンシーの言葉が文法まで変になってきていた。
「優しいからなのね」
「だって男の人って心が大事じゃない」
「まあそう言われるけれど」
「だったらそれでいいんじゃないの?」
「言われてみればそうだけれど。マルティよ」
「人間誰だってそういうこと興味あるじゃない」
カトリの言葉はまたしても真理をついたものであった。
「だから八条スポーツだってそうしたこと書いてるんでしょ」
「まあね」
失言をしてしまったので頷くしかなかった。完全にカトリのペースになってしまっていた。
「誰だって同じだから」
「ふうん」
外見はあえて聞かなかった。そんなものは人の好みでかなり変わるものであるからだ。それを言えばきりがなくなってしまうからだ。
「だからまずは優しさ」
「男は心だってことね」
「そういうことよ」
「成程ね」
そこまで聞いてやっと頷いた。
「わかったわ。それでね」
「秘密にしてってことね」
「だ、だからね」
また目を伏せて視線を逸らす。
「その、私が彼と付き合ってることはその」
「またえらく不安そうだね」
マルティもそんなナンシーの様子にかなり突っ込んできた。
「どうしたんだよ」
「だって。私が」
口をシャコ貝の様に波立たせる。
「男の子と付き合ってるなんてさ。それもこんなにいちゃいちゃして」
「確かに意外だったけれど」
「うんうん」
カトリの言葉にマルティが頷く。
「けれどね。それでも」
「そんなに隠すことないんじゃないかな」
「だって」
それでも目は伏せたままだ。
「私がさ」
「だからそんなの誰だって一緒だから」
「そうそう」
「ううん」
そう言われてもまだ難しい顔をしている。
「とにかく内緒にだけはしてね。ここのお店おごるからさ」
「別にそんなのいいけれど」
お嬢様のカトリはそんなことは一切気にはしていない。
「別に。ねえ」
「僕だってお金あるし」
「いいからおごらせてよ」
それでも彼女は言う。
「お願いだから」
これは口封じの為である。言うならば賄賂だ。
「いいわよね、それで」
「まあそこまで言うのなら」
「僕だっていいけれど」
「じゃそれで決まりね。けれど」
「わかってるわよ」
いい加減そうも言いたくなってきた。くどいからだ。
「言わないから」
「お願いよ、本当に」
「誰にも言わないから。大丈夫よ」
「本当に、本当よね」
「だから言ってるじゃない」
流石にむっとしてきた。
「私がそんなこと言う?」
「言わないけれど」
「僕も言わないよ」
マルティも言った。
「だから安心していいから」
「うん」
これでやっと納得した。どうにもあれこれと難しいナンシーであった。
オフレコ 完
2006・10・29
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