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第八十六話 ベンの兄弟その六
「そろそろ帰って来る頃だと思ったけれど」
「お兄ちゃん」
 ベンを兄と呼ぶ声が聞こえてきた。
「誰か来てるのね」
「それも大勢ね」
 声は一つではない。複数だった。
「只今」
「どうも」
 皆がいる部屋にやって来た。ベンと同じ黒い髪と同じ目にアジア系の肌と白人の顔立ちをしてそれぞれ非常によく似た顔をしている三人姉妹だった。
「クララです」
「ルーシーです」
「ケイトです」
 三人はそれぞれにこりと笑って名乗ってきた。挨拶は礼儀正しいものだった。
「ごうぞごゆっくり」
「楽しんでいて下さい」
 そう言って自分達は自分達の部屋に入る。ジュリアはそんな彼女達を見て悪い印象は受けなかった。それをベンに対して話す。
「悪い娘達じゃないじゃない」
「そうだよね」
 ジミーもそれに頷く。
「どんな困ったちゃん達かって思ったけれど」
「ああ」
 ベンは相変わらず疲れた顔で二人の言葉に頷いた。
「それはな」
「家事も手伝いそうね」
 ジュリアはまだはっきりとはわからないがこう述べた。
「真面目そうだし」
「家事まで手が回らないんだよ」
「回らない!?」
 ここでまた妙な言葉が出た。
「何、それ」
「だから。言ったままだよ」
 また二人に対して述べる。
「回らないんだよ」
「だから何で回らないのよ」
「他に何かやってることあるの?」
「あるよ」 
 言葉がさらに憔悴したものになった。
「家族達の世話でね」
「家族達・・・・・・」
 またよくわからない言葉が出た。
「家族達って。五人家族じゃないの?」
「人間はね」
 人間という言葉が出た。これまた実におかしな言葉だった。
「人間・・・・・・」
「何がなんだか」
「だから・・・・・・あっ」
 ここで部屋に新たな客が。それは。
 見れば亀だった。ゾウガメだ。ゾウガメはゆっくりと、だが確実な歩みで部屋の中に入って来た。皆をまるで意識せずに堂々としたものだった。
「ゾウガメ・・・・・・」
「どうしてここに」
「家族の一人なんだ」
 ベンの言葉であった。
「これがね」
「そうだったの」
 ジュリアはここで合点がいった。それで納得した顔で頷くのだった。
「それであの娘達は」
「わかってくれた?」
「いいえ」
 だがジュリアはそれでも首を横に振るのだった。
「それでもわからないわね」
「どうしてだよ」
「ゾウガメよ」
 自分の側まで来たゾウガメの甲羅をさすりながら話をする。その感触は冷たく硬いものだった。まさに亀の甲羅のそれである。
「大人しいし草食性で餌もそんなに食べないし。飼い易い方じゃない」
「ゾウガメだけだとね」
「ゾウガメだけって」
「今まで黙っていたけれど」
 ここで部屋のある場所を指差した。
「あそこ見て」
「あそこ?」
「そう、あそこ」
 指差したのは部屋の奥だった。そこにあるのは。
 木の枝を指差しているのだ。だがよく見れば。その木の枝の一部は。
「あっ、カメレオン」
「いたんだ」
「これもいるんだ」
 カメレオンもいるのだった。
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