第八十三話 ルシエンのプレゼントその三
「よし、決めたぞ」
「何にするの?」
「あれだよ」
笑ってダニーに囁くのだった。
「これならどうだ?」
「あっ、それって」
そのプレゼントを聞いてダニーも顔を綻ばせる。
「いいじゃない。いい変化球だよ」
「そうだろ?ちょっと工夫すればいいんだな」
「そういうこと。何事も工夫なんだよ」
にこりと笑って将来自分の義兄になるかも知れない相手に告げる。
「だからルシエンさんもね」
「わかった、それじゃあな」
「それにしても」
ダニーは今度は感心したような顔になった。白い喫茶店の中でその顔が映える。
「やっぱり変化球も投げられるんだ」
「俺は元々どっちでもいけるんだ」
ルシエン自身の言葉であった。その声ははっきりとしている。
「何でかな。アンネットに対しては」
「それもわかるよ」
ダニーにしろその理由はどうしてであるかは察しがついた。彼の性格がわかっているからだ。それなり以上に深い付き合いになっているからだ。
「どうしてもストレートしか投げられなくなるんだね」
「ああ」
その通りであった。こくりと頷いてみせる。
「どうしてもな。正面からな」
「結構どうでもいい相手には変化球って投げられるよね」
「そうなんだよ」
そうした性分なのであった。
「けれどな。これがアンネットになると」
「本命になると力が入るってことだね」
「心でな。そうなるんだよ」
それがルシエンなのだった。どうしてもそうなるのだ。
「それがかえってよくなかったか」
「これ今まで言わなかったけれどね」
ここでダニーは言うのだった。
「何だ?」
「姉さんも見ているから」
こうルシエンに告げた。
「俺をか」
「そうだよ。ルシエンさんが何をしてくるかね。よく見てるよ」
「そうだったのか」
「だからアベレージヒッターなんだよ」
ここでさっきの言葉とリンクした。そういうことなのだ。アベレージヒッターはパワーヒッターより打球を見る傾向にある。慎重にボールをバットに当てるからだ。
そのアベレージヒッターの姉をさしてまた言う。
「ストレートを投げてばかりじゃ幾らコントロールがよくてもね」
「駄目か」
「しかもルシエンさんって」
ルシエンにはまだ問題があった。
「何処に投げるかすぐにわかるし」
「わかるか」
「凄くわかり易いよ」
こうも告げる。
「だからそこもなおしてね」
「じゃあ今回はいいんだな」
「何処に投げるかはわかるけれどね」
一応はこう忠告する。
「それでも投げる球種が違うのは大きいけれどね」
「よし、それじゃあ」
(しかし姉さんも)
ここでダニーは心の中で呟くのだった。
(本当はルシエンさんのことがあれなのに。わからないな)
「じゃあ今度の休みな」
ルシエンはまだ何処に投げるのかはっきりさせていたが今回はそれでよしとしたのだった。ここまで来て変えるつもりもなかったのだ。
「アンネットにそれをプレゼントだ」
「うん、僕からは何も言わないし」
ダニーはこう断る。
「今回もそれでいいよね」
「ああ、それで頼む」
ルシエンも彼に応えて言う。
「向こうがわかっていてもできるだけ秘密にしておきたいしな」
「それはわかるよ」
惚れた相手には何事もできるだけ秘密にしたい。そうした微妙で複雑な心境がルシエンの中にもあるのであった。彼も繊細なのだ。
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