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第七十八話 カレー薀蓄その三
「辛口がいいのよ、私は」
「彰子ちゃんは甘口だったっけ」
「確かね」
「甘口は。どうもね」
 七海の顔が微妙なものになるのであった。
「好きにはなれないわ」
「甘いの駄目?」
「カレーはね」
 これは七海のこだわりであった。
「どうにもこうにも」
「何かよくわからないこだわりね」
「そうよね」
 日本人ではない二人にとってみればそうなのだ。何故か日本人はカレーの甘さや辛さ対して異様なまでにこだわりを見せるのだ。
「カレーの甘口辛口って」
「そんなにこだわるものかしら」
「こだわるわよ」
 七海の言葉は日本人としての言葉であった。
「絶対にね。譲れないものだってあるし」
「何かねえ」
「わからないわね」
 二人にはどうしても理解できないことであった。
「それって」
「そうよね。何でそこまでこだわるのか」
「カレーよ」
 七海の今度の言葉はこうであった。
「カレーが甘いか辛いかっていうのはそれだけで大きな問題なのよ」
「そうかしら」
「さあ」
 まだ二人には理解しかねるものがあった。というよりかは全く理解できなかった。
「それって」
「そうよね。何が何だか」
「まあわからないならわからないでいいけれどね」
「ええ。それじゃあまあとにかく」
「できたわよ」
 ここでカップヌードルができた。七海はそのヌードルの蓋を九分程度剥がしてプラスチックの透明なフォークで食べだしたのであった。
「どう、美味しい?」
「ええ」
 パレアナの問いに答える。答えながらヌードルをすすっている。
「やっぱりカップヌードルはカレーよね」
「カレーから離れないわよねえ」
「本当」
 二人もいささか呆れ気味であった。
「何か話がそっから離れないっていうのも」
「どうしたものかしら」
「カレーは身体にもいいわよ」
 それでも七海はカレーから離れないのであった。
「お肉もお野菜も入れられるし」
「そういえばそうね」
「シチューと同じね」
「しかもシチューと違って」
 話は今度はカレー賛美に変わってきていた。
「御飯にもパンにもかけたり漬けられるし。それで食べられるじゃない」
「そういえばシチューは御飯にはね」
「かけるのに無理があるわね」
 そういうことであった。シチューは元々洋食であり白い御飯には合わないところがある。おかずにはいいが少なくとも御飯にかけるには無理があるのははっきりとしている。
「だからよ。その点カレーは」
「違うって言いたいのね」
「私御飯の方が好きだしね」
 今度は話がそちらにも行った。
「だから余計にいいのよ」
「それはいいけれどさ」
「けれど」
「今度は何?」
「まさかよ」
「ねえ」
 二人の言葉は念を押すようなものになってきていた。
「あんたそのヌードルのスープをまさか」
「御飯になんてことは」
「それはしないわ」
 それはないという。
「だって御飯にかけるにはあまりにも薄いじゃない」
「じゃあ濃かったら?」
「さあ」
 わからないと。そうした返事であった。
「どうかしらね」
「何かねえ」
「それはやっぱり」
「邪道だって言いたいの?」
「その通り」
 パレアナが腕を組んで言い切ってきた。
「流石にそれはね」
「何かお金のない大学生がしそうではあるけれど」
「幾ら私でもそれはないわよ」
 彼女もそれは否定する。
「確かに濃いとわからないのは事実だけれどね」
「じゃあ危ないじゃない」
「ねえ」
 コゼットがパレアナの言葉に頷いた。
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