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第九話 冷酷な笑みその二
「ギルバートの方がずれてねえか?」
「やっぱりそう思う?」
「何ていうかよ」
 彼は言う。
「日本人が全員落語好きだったらそれはかえって恐いよな」
「そうね」
「他にも歌舞伎とかもあるけれどよ」
「本人はわかっていないわね」
「まあ俺は歌舞伎はあまり興味ないんだ」
「お笑いがないから?」
「ああ。ないだろ」
「甘いわね」
 プリシラはそれを聞いて言った。
「歌舞伎は只単に芝居をやるだけじゃないのよ」
「そうなのか」
「笑いもあるのよ」
「何っ」
 それを聞いた洪童の目が光った。
「それじゃあ」
「興味を持ったようね」
「ああ、今度研究してみる」
「ただし、一つ言っておくことがあるわ」
「それは何なんだ?」
 洪童は問う。
「歌舞伎の時代設定に突っ込んでは駄目よ」
「時代設定!?何かあるのか?」
「江戸時代の服を着てても鎌倉時代とか室町時代とか言うから」
「そりゃまたかなり強引だな」
「それは気にしないで。他にも以上に生き別れや偶然の再会が多いけれど」
「なあ」
「何?」
「俺韓国人なんでな。日本のことは詳しいつもりなんだが」
「そうよね」
 韓国では何よりも日本を見る傾向がある。日本と自国を比較して考えるし日本の製品ばかり見ている。そうした傾向が千年以上続いているのである。当然日本文化も追い求めている。
「それってストーリー上まずいんじゃないのか?新喜劇でもそれは」
「だから気にしたら駄目なのよ」
 プリシラは言う。
「いいわね」
「ううん」
 洪童はそれを聞いて難しい顔を作る。
「何とまあ」
 実際に歌舞伎では強引な設定が目立つ。死ぬ前に異常に時間がかかるとか偶然の生き別れや通り掛かりも多い。人が死んでも生き返ったり、幽霊になるのもざらであり鎌倉時代に握り寿司や蕎麦があったりする。蕎麦は江戸時代に流行りだした食べ物である。
 これだけでもかなりのものだが風俗習慣はそのまま江戸時代である。鎌倉時代の鎌倉に呉服屋があるのだ。なおかつ名前を少しいじっただけで誰にでもわかるような状態で出す。大石蔵之介は大星由良之助である。これでわからない人間がいようか。強引に室町時代と言って上演したのである。これを許した幕府の度量も素晴らしい。
 そrが歌舞伎である。かなり強引なシナリオはいいのである。面白ければそれでいいのだ。例え当時世界一の大都市であった江戸が人口数百人の過疎地に見えても。
「そこは観ないのよ」
「まあお笑いだけ観られればいいか」
「お勧めは法界坊ね」
「法界坊か」
「あれが一番いいと思うわ。他にもあるけれど」
「わかった、じゃあそれを」
「それでだ」
 ギルバートはまだ熱い演説を行っていた。
「僕が言いたいのは小式君!」
「ええ」
「あいつまだやってたのかよ」
「あの熱さはかえって鬱陶しいわね」
「大人になったらうざい上司とかになりそうだよな」
「求心力はないわね」
 そんな二人の言葉は耳に入らない。だがここで冷酷な突込みが彼を襲うことになった。
「委員長、それは違うと思うよ」
 癖のある巻き毛の黒髪に黒っぽい肌の童顔の少年がそこにやって来た。澄んだ空色の目をしている。このクラスの一員であるセドリック=リミニである。キリバスから来ている。
「リミニ」
「だってさ。それを言うと日本人は全員日本文化を何でも知っていなくちゃいけないよ」
「僕はそこまでは」
「うん、そう聞こえるよ。だからね。あまり彰子ちゃんに言うのも」
「無理があるというのか」
「僕はそう思うね。だから」
「わかった。じゃあこれで」
 ギルバートは話を止めた。
「済まないな、小式君」
「私はいいけれど」
 優しい性格である彰子はそんなことは気にしない。
「まあそんなところでね。じゃあ」
 こうしてギルバートの演説は終わった。セドリックがあっさりと止めたのであった。
「流石ね」
 プリシラはその様子を見て言う。
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