第一話 おっとり優等生その三
「いるわよ、凄い奇麗な娘が」
「ふうん」
「って知らないの!?」
「知らないっていうか初耳だよ」
スターリングは目を少し丸くさせて言う。
「そんなこと」
「あっきれた。有名じゃない」
「そうだったんだ」
「八条学園の美人姉妹だって」
「だってこの学校生徒一万人以上いるしさ」
「まあそうだけどね」
姉妹といっても何人もいる。それでわかれというのもよく考えれば難儀な話である。
「で、どんな娘なの?」
「若しかして」
蝉玉の目の色が何か疑うものになってきていた。
「まさか、それはないよ」
「それもそうね」
一瞬浮気を疑ったがそれは単なる邪推に終わった。
「僕はフックとは違うからね」
「そうよね。一瞬だけど疑って御免なさい」
「この埋め合わせはデートでね」
「変なことしないでよ」
そう言う顔が少し赤くなった。
「私まだ高校生なんだから」
「了解じゃあファーストキスはまた今度で」
「うん。またね」
何となく気の強さが消えて慎ましやかになる。急に女の子らしくなった感じであった。
「それでさ」
「ええ」
態度も大人しく素直なものになっていた。
「彰子ちゃんの妹さんだけれど」
「ああ、彼女ね」
それに応える。
「明香ちゃんっていうの」
「ふうん、明香ちゃんか」
「一年のね、普通科の」
この学園は普通科の他に商業科、工業科、農業科、水産科、看護科等多くの学科があるのだ。一通り揃っていると言っても過言ではない。なお彰子達のクラスは普通科である。
「小式明香ちゃんだね」
「そうよ」
「じゃあ今度会ったら挨拶しておくよ」
「それだけなのね」
「それだけじゃ駄目なの?」
「逆よ」
顔が少しむっとしたものになる。
「それ以外何かあったら。許さないから」
「わかってるって」
何処となくスターリングが他の女の子に何をするのか不安な蝉玉であった。彰子はそんな二人のことには気付くこともなくいつもの通りおっとりした様子でその日を過ごした。そして家にもおっとりと帰った。
「只今」
「お帰りなさい」
物静かな様子の女の子の声が返ってくる。家からすらりとした長身の黒髪の女の子が出て来た。
その黒髪は肩まででそこが姉とは違っていた。顔つきは姉と似ているが目が少し切れ長で痩せている為に違う印象を受ける。その雰囲気も姉がおっとりしたものであるのに対して彼女のそれは静かでしっかりとしたものであった。姉妹であるのにその雰囲気は全く違っていた。
「お帰り、明香」
彰子は彼女に挨拶をした。明香は黄色のセーターに黒いズボンを履いている。
「今日は部活はなかったの?」
妹が姉に尋ねた。
「うん、休みだったの」
「そうなの」
「明香は?今日はアルバイトは休みなの?」
「ええ。定休日で」
「そうだったの」
「何か二人この時間に家にいるなんて久し振りね」
「そうね。といっても何もすることないけれど」
二人は廊下を進みながら話をしていた。わりかし広くていい家である。
「明香のバイト先って何だったっけ」
「ケーキ屋さんよ」
明香は答えた。並んで立つと妹の方が背が高い。小さい姉と大きな妹だった。どちらかというと明香の方がお姉ちゃんに見える。それは背の問題だけでなく雰囲気もそうであった。
「そうかあ。じゃあ余りものとかは」
「ある時もあるけれど」
「そういう時ね、持って帰って来て」
「えっ、けど姉さん」
実は彰子はお菓子部に入っているのだ。料理は得意だがその中でお菓子作りが最も得意なのである。家でもよく作ったりしている。
「いいのよ、お店のケーキとかも食べてみたいのよ」
彰子は言う。
「試しにね」
「勉強の為なの?」
「そういうこと」
妹を見上げてにこりと笑って言う。
「だからね」
「じゃあ」
明香はそれを聞いたうえで言う。
「何がいいのかしら」
「そうね、とりあえず苺とチョコレートとモンブランとピーチ」
「姉さんの好きなものばかりのような気もするけど」
「細かいことは気にしないでね」
「うん」
とりあえずは頷いた。姉の願いを引き受けるつもりであった。
「じゃあ明日」
「お願いね」
こうして明日はケーキパーティとなった。自分で作るのも食べるのも好きな彰子であった。そしてそんな姉が好きな明香であった。二人は全く似ていないが仲のいい姉妹であった。
おっとり優等生 完
2006・8・31
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