第七十一話 マルコの青春その四
「僕はこのまま自分のペースで行くから」
「ああ、それじゃあな」
「うん」
二人は別れた。そうしてそれぞれのペースで走る。マルコはさらにスピードを速める。その速さはかなりのものでコースの半ばに達した頃にはトップ集団の中にいた。
「まだこんなにいるのか」
マルコは周りを見て呟く。
「こんなにレベルが高いとはな。それに」
側で走っている面々を見てまた呟く。
「大学生とか社会人も多いな。プロは流石にいないか」
いてもおかしくはないが今回はいなかった。まずはそれには安心した。流石に彼でもプロが相手では分が悪いどころではないからだ。
しかし大学生や社会人なら負ける気はしなかった。そう思うと気合がさらに入った。
「よしっ」
ペースをあげる。そのままトップ集団のさらに前に躍り出ようとする。
だがその横にまた誰か出て来た。今度は顔がはっきり見えない。
「誰だ!?」
しかし今はそこに構ってはいられない。走ることに集中しなければならないからだ。
「くっ」
顔を見るのは諦めた。そのまま前に進む。
「顔を見るのは後だ、それよりも」
心の中で言う。
「優勝だ、それが先だ」
そう誓って走る。足にも力が入る。そうして走って走ってその果てには。ゴールが見えてきた。
その前には誰もいない。彼の後ろにいるらしい。歓声も聞こえはしない。ただ走るだけであった。
そのまま走りテープを切った。完走だけではなかった。彼は自分で言った通り見事優勝を果たしたのであった。
「やったね、マルコ!」
ゴールを通り過ぎたマルコに近寄ってきたのはトムであった。そして彼だけではなかった。
「おめでとう、マルコ君」
「マルコ君!?」
マルコは大人の女性の声にふと顔をあげた。
「今の声は」
「よくやったわね」
そこにいたのはメアリーであった。トムの従姉の。彼女がトムの側に来ていたのである。
「メアリーさん!?」
「そうだよ、メアリーだよ」
トムがにこりと笑ってまたマルコに言う。
「ここに一緒にいたんだ」
「そんなの初耳だぞ」
マルコは目を丸くさせてトムに問うた。
「何時の間に」
「だってあえて言わなかったし」
トムは笑顔でマルコに対して言うのであった。
「驚かせようと思ってね」
「驚かせよう!?」
マルコはその言葉に余計に目を丸くさせる。目だけでなく首も傾げる。そうしてトムにまた問うのであった。
「どういうことだ。話がわからないんだけれどよ」
「うん。マルコも彼女が欲しいって言っていたじゃない」
「そういえばそうか?」
記憶にない。そんなこと言ったのかと自分の記憶を探る程であった。
「覚えていないけれどな」
「そうだったっけ。けれど」
「ああ、じゃああれか」
ここまで話をしてやっとわかった。つまりは。
「メアリーさんを俺に紹介しようってわけだな」
「駄目かな」
「駄目だって言われるとな」
マルコもどう答えていいかわからない。それを言われると弱い。
「俺も何て言えばいいのか」
「私じゃ駄目かな」
ここでそのメアリーもマルコに尋ねてきた。
「マルコ君さえよかったら」
「言っておくけれどあれだよ」
ここでトムがまたマルコに対して言う。
「メアリー今フリーだから」
「そうじゃなきゃ俺に紹介しないよな」
マルコはそうトムに問うた。
「そもそも」
「まあそれはね。わかる?」
「わからない筈ないだろうが」
マルコはまたすぐに言い返した。
「彼氏いて他の男に紹介する奴なんか最低だろ。御前は最低な奴じゃない」
「有り難う」
「褒めているわけじゃないぞ」
一応そう断る。
「ただな。どうしても言わずにはいられなかっただけだ」
「けれど。最低じゃないっていうのはいいことだよね」
「むしろいい奴だな」
実際にトムは悪人ではない。だから彼がそんなことをする訳がないのはわかっている。そのうえで話をしているのである。
「御前は」
「重ね重ね有り難う。それでね」
トムはまた言葉を続ける。
「どうかな、メアリーは」
「いきなりそう言われてもな」
マルコは困った顔になる。その後ろでは。
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