第八話 お金がないのはその三
「何?」
「私、お金を使うのは」
「お金使わないデートだってあるじゃない」
「そうそう」
「大切なことに使うのなら私もいいのよ」
彼女もそこまで愚かではない。それはわきまえている。言うならば分別をわきまえた守銭奴なのである。
「けれどね」
「どうしたのよ」
「何かあるの?」
「ホテル代って。どれ位かしら」
「なっ」
いきなりストレートな話なので二人は絶句した。なお蝉玉もエイミーもそんな経験はない蝉玉に至っては彼女もスターリングも奥手だからキスもまだである。この前彼の部屋にエイミー達と一緒に入ったばかりである。
「あ、あんたねえ」
「いきなりそんな心配しなくていいわよ」
「そうなの」
「あのね、相手はベッカでしょ」
「ええ」
「彼だったら別よ。変なことはしないわ」
「そうそう、フックじゃないんだから」
「へっくし」
教室の片隅でフックがくしゃみをしていた。
「誰か噂してるのかよ」
「風邪じゃないの?」
スターリングがそれを見て声をかけていた。
「風邪にはやっぱりゆっくりと休む方が」
「いや、風邪には薬だ」
だが真っ当な提案はギルバートの熱血提案の前に却下された。
「風邪には休養だけでなく今般からの治療が必要だ。それにはまず」
「薬が一番なのよ」
ヌッと小柄な女の子が出て来た。黒髪を左右で小さくテールにした紫の目の女の子で薄い褐色の肌をしている。コロンビア出身のクラスメイトの一人アンジェレッタ=ダラゴーナである。
「やっぱりね。病気には風邪よ」
「そうなのか」
「それでね。これをまず」
何か色々と出してきた。
「飲んで。それからこれ。そして」
「ってちょっと待てよ」
嬉々として薬を出してくるアンジェレッタに対して言う。
「一体どれだけ薬持ってるんだよ」
「ってそんなにないけれど」
「何処がだよ。ざっと見ただけで一つ二つ三つ」
わざわざ数える程ある。
「そんなに飲めるかよ。一体何なんだよ」
「全部健康の為よ」
アンジェレッタは平然として言う。
「やっぱり人間お薬で身体整えないとね。よくないよ」
「おい、そんだけ飲んだら身体がかえっておかしくなるよ」
「大丈夫よ。私なんか子供の頃から毎日飲んでるけど平気だから」
「俺は平気じゃねえ。そもそも」
「ほら、風邪なんだから無理しない。委員長、押さえてて」
「うむ」
「おい、ちょっと待て。スターリング、何とかしてくれ!」
「何とかって言われても」
ギルバートの力で後ろから両手を押さえられる。そこにアンジェレッタがにこやかな顔で近付いて来る。その手にはしっかりと薬がある。
「もう僕じゃ何も」
「おい、そんな殺生なって。アンジェレッタ、もう風邪はなおったよ」
「無理したら駄目よ。やっぱりお薬できっちり治さないと」
「って誰か何とかしてくれ!」
「・・・・・・あっちはあっちでえらいことになってるわね」
蝉玉はこめかみに汗を一筋たらしながらフック達を見て呟いた。
「アンジェレッタとギルバートが周りにいるのを確認しないから」
「けどアンジェレッタっていつもどれ位お薬持ってるのよ」
エイミーも首を傾げて言う。
「あんな小さなペーチから幾つも幾つも。瓶まで出して」
「あれ四次元につながってるんじゃないの?」
蝉玉も以前からそれを不思議に思っていたのだ。
「何かさ。そんな感じ」
「そうかも」
エイミーもそれに頷く。
「そうじゃなきゃあれだけ入ってないわよね」
「まあ世の中色々とあるから」
「気にしたら駄目ね」
「そうよ。それでね、ペリーヌ」
蝉玉はあらためてペリーヌに声をかけた。
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