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第五十八話 切り札は女王その一
                  切り札は女王
 遂にラビニアと勝負の時になった。フックとタムタムは自分達の教室で最後の打ち合わせを行っていた。共に張り詰めた顔を見せている。
「いよいよだな」
「ああ」
 タムタムがフックの言葉に頷く。
「わかっているな」
「勿論だ」
 フックは真剣な顔で応える。
「ちゃんと覚えてるぜ。そっちはどうだ?」
「こっちもだ」
 既に教室の中には張り詰めた空気が漂っている。盗聴等はクラスメイト全員でチェックしたうえで皆で厳重にガードしていた。何しろラビニアといえばミンチン先生と並ぶ二年S1組の宿敵だからだ。それも当然であった。
「完全に癖は頭に入れた」
「準備万端ってわけか」
「お互いにな」
「じゃあいいな」
 フックが言った。
「行くぜ」
「よし」
「いいのね、もう」
 皆を代表してビアンカが二人に声をかけてきた。
「戦場に行く準備は」
「ないのは盃だけだな」
 フックは不敵に笑って余裕を見せてきた。
「出撃前の一杯が欲しいんだがな」
「それは後だ」 
 タムタムがフックに告げる。
「勝った後だ。それでいいな」
「勝った後か」
 それを言われてフックの顔が引き締まる。
「絶対に勝つってことか」
「そういうことだ。わかるな」
「俺は負けないぜ」
 自信ではなかった。そこにあるのは己への暗示であった。絶対的な暗示、それを今自分自身に対してかけていたのである。フック自身が。
「何があってもな」
「その意気だ。では」
「おう」
 遂に立ち上がった。二人同時に。
「出陣だな」
「後には退けない」
 まるで睨み合うように見合う。それは気合故であった。
「勝つまでは」
「よしっ」
 頷き合う。そうして教室の扉を開けラビニアのクラスに乗り込む。後にはクラスメイト達が続く。
 ラビニアのクラスではもう彼女のクラスメイト達が待っていた。フックとタムタム、そして二年S1組の面々の姿が見えるとその顔を一変させたのであった。
「時間丁度か」
「来たな」
「時間は守る主義だ」
 タムタムが彼等に対して言う。既に睨み合っている。廊下で既に一触即発の状況だった。
「俺はな」
「俺は違うがな」 
 フックは大胆不敵といった有様をその顔にも見せていた。
「けれど今回は特別さ」
「負けに来たってわけじゃないな」
「俺は勝つ勝負しかしないさ」
 フックはまたしても不敵に笑って述べた。
「女の子に対してはな」
「よし、じゃあやってみせろ」
「その勝つ勝負ってやつをな」
 彼等はあえてフックをけなさなかった。そうして無闇に刺激することを避けたのだ。彼とフックの後ろには二年S1組の面々が揃っている。彼等も強張った顔でそこにいたからだ。
 タムタムとフックを先頭に教室に入る。そこにはもうラビニアが机を用意して待っていた。もうカードも置かれ彼女自身も不貞な笑みを浮かべてそこにいた。波打つ金髪に好戦的な黒い目をしている。生まれは南アフリカだ。何でも祖先はアパルトヘイトを施行して暴利を貪っていたという。今でもとかく噂の絶えない悪徳企業の娘である。彼女自身最悪の性格として知られ学園一の嫌われ者である。その彼女が膝までの青地のチェックのブリーツスカートと赤いネクタイ、白いカッターと紺のベストに身を包んで立っていた。その姿でフックを見据えている。
 フックも彼女を見た。まずは不敵な笑みを彼女にも向けた。
「キザな格好してるな、相変わらず」
 最初に口を開いたのはフックであった。
「イギリス人か?それとも立派なご先祖様の格好かい?それは」
「どちらでもないわ」
 ラビニアもまた不敵な笑みをそのままにフックに言葉を返した。
「私自身のセンスよ」
「そりゃ立派なセンスだ」
 フックは心にもないことを出した。
「おかげで何処の美女かと思ったぜ」
「有り難うと言うべきかしら」
「そうだな」
 社交辞令だが既にそれは開戦の言葉になっていた。
「中身まではわからないがな」
「あら、言うわね」
 二人は殺気さえ漂わせ合いながら言葉を続ける。
「私も今目の前にいる人が気になって」
「あんたに気になってもらえるってことはそいつは相当な美男子なんだな」
「顔はいいかもね」
 それは認めた。
「中身はどうしようもない屑だけれど」
「どんな屑だか」
 フックは冷笑を以って今のラビニアに応える。
「俺にはわからないがね」
「軽薄でね」
 ラビニアはそれを受けてフックに言う。その不敵な笑みのままで。
「女好きで単純な男よ」
「それはまた最悪だな」 
 またしてもあえて笑ってみせる。挑発とわかっていて。
「とんでもないロクデナシだ」
「そのロクデナシが今から血反吐を吐くのよ」
 ラビニアはまたしても言葉を出す。今度はその笑みを余裕を感じさせるものにして。この笑みもまたあえて作っているのだ。駆け引きによるもので。
「ここでね」
「同じ話なら俺も知ってるぜ」
 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだった。フックはまたしても言葉を出す。
「今からここでな。一人の高慢な女が地獄を見る」
「地獄を?」
「そいつに一言言っておくさ」
 ラビニアを見据えていた。好戦的な目で。
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