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第五十二話 セーラの魔術その一
                   セーラの魔術
 セーラがアンの為に人肌脱ぐ、このことはすぐにクラスの皆に伝わった。それに最初から気付いていない面々だけを除いてではあるが。
「ねえ明香」
 彰子は何も気付いていない顔で妹に話をしていた。二人は今学校の喫茶店で話をしていた。
「最近クラスの雰囲気がおかしいの」
「おかしいって?」
「何かセーラちゃんが意気込んでて」
「意気込んでいて?」
「うん、そうなの」
 そう妹に話している。やはり何も気付いてはいない。
「何かおかしいのよ」
「どういうふうに?」
 明香はそう姉に尋ねてきた。
「おかしいの?」
「ええ。それなのだけれど」
 姉もそれに応えて述べる。
「アンちゃんがどうとかって。何なんだろうね」
「アンさんが」
 明香はこれですぐにわかった。
「そうなの」
「何かな、本当に」
「姉さん」
 明香は姉の首を傾げている様子を見て問うのだった。
「それはね。多分」
「多分?」
「いえ、やっぱりいいわ」
 言おうとしたところで止めた。気付いていないのならそれでいいと判断したからだ。
「別に」
「何もないの?」
「ええ」
 そう姉に答える。
「けれど。悪いようにはならないわね」
「!?」
 妹の今の言葉にまた首を傾げさせる。
「何が?そんなに悪くならないって」
「セーラさんだから」
「セーラちゃん頭いいからね」
 やはり彼女はずれていた。しかも自分ではそれに気付かない。
「やっぱりこういう時は頼れるわよね」
「けれど姉さん」
 ここでまた明香は姉に言う。
「やっぱり。よく見た方がいいかも」
「何を?」
「いいえ、別に」
 言おうと思ったがやはり止めた。どうにも言えない。
「何でもないから」
「そう。じゃあ約束のことだけれど」
「歴史の参考書のこと?」
「ええ、これ」
 参考書を一冊すっと彼女に差し出す。見ればかなり分厚くて細かいものである。
「借りたいって言ってたわよね」
「ええ」
 実は明香は姉に参考書を貸して欲しいと言っていたのである。彰子は成績優秀でありとりわけ歴史には強い。明香も成績はいいがどちらかというと理系なのである。だから文系の姉に参考書を貸してくれるように頼んだのである。そういうことであった。
「それがこれよ」
「これだったの」
「思う存分使ってね」 
 にこりと笑って妹に述べる。
「それでいい成績取ってくれたらいいから」
「有り難う」
「何かあったら任せて」
 にこりと笑って妹に述べる。
「私は明香のお姉ちゃんなんだからね」
「うん」
 明香もにこりと笑って姉に言葉を返した。
「それじゃあ」
「御礼はいつものでいいから」
 また笑って妹に述べる。
「いい成績でね」
「姉さんもね」
「そうなのよね」
 妹の言葉に少し寂しい笑顔になる。
「私理系は弱いのよね」
 弱いといっても程度の問題である。これは明香も同じであるが彼女は実際のところは数学や物理もかなり成績がいいのである。だが文系が抜群によかったのだ。
「どうしても」
「私が文系が」
「姉妹で全然逆よね」
 そう妹に笑う。
「変なものよね。何から何まで姉妹で全然違うし」
「そうね」
 明香も姉のその言葉に微笑んで頷く。
「不思議なことね」
「けれどそれがいいのよね」
 しかし彰子は妹にそう述べてきた。
「お互い全然違うから」
「上手くやっていけるのかしら」
「きっとそうよ」
 彰子は言う。
「私がもう一人いたら怖いもの」
「それは私もかしら」
 ここでは考えが一致した。そうしたところは同じなのであった。
「やっぱり」
「そうよ。けれどそれでいいじゃない」
 それをいいとしてきた。
「だから二人でずっといたくなるし」
「そうかも」
「ねえ明香」
 また優しい声を妹にかける。
「また何かあったら言ってね」
「ええ」
 姉の言葉にこくりと頷く。そうして姉の参考書を受け取って勉強に向かうのであった。姉妹は二人で一人、そうした関係になっていたのである。
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