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第五話 好きだから仕方ないその五
「さっさと行けばいいのに」
「そんなのは駄目な娘のすること」
 だがアンネットはそれには取り合わない。
「相手を焦らさないと有難みがないから」
「その間に帰ったりすることはないの?」
「ないわ」
 ルシエンを見て言う。
「絶対にね」
「他の女の子が声をかけてきたらどうするのさ」
「そうなっても大丈夫よ」
 根拠があやふやにしか思えないがアンネットはきっぱりと述べた。
「彼はね」
「そうなの」
「絶対に、何があってもね」
 言葉が強くなる。それを見る限りどうにもアンネットはルシエンを信じているように見える。それでもあえてこうしているとは彼女も中々に意地が悪いと言えるものである。
 だがそこに一人の少女がやって来た。ブロンドの髪をショートヘアにした鳶色の目の少女である。モデルの様なスタイルの肢体を黒いストッキングに黒レザーのホットパンツとブーツ、胸が大きくはだけたシャツの上にホットパンツと同じく皮のジャケットを着ている。腕や脚には金や銀のアクセサリーがちりばめられ、化粧も濃い。まるでヘビメタである。
「あら、ダイアナじゃない」
「あの人、お姉ちゃんの知り合い?」
「ええ、クラスメイトよ」
「何か凄い人だね」
「いい娘よ、友達だし」
 実はその少女もアンネットや彰子のクラスメイトである。名前はダイアナ=ロスアンヘルス。チリ生まれであり実際に軽音楽部に所属している。クラスでは遊び人と噂され女版フックとまで言われている。
「大丈夫なの、あんな人が出て来て」
 派手な身なりで顔もいい女の子が出て来てダニーは不安になる。
「ルシエンさんに声かけられたら」
「かけるでしょうね」
 だがアンネットの返事はしれっとしたものであった。
「あの娘は」
「じゃあ危ないじゃない」
 ダニーは言う。
「早く何とかしないと」
「貴方に一つ言っておくことがあるわ」
 それでもアンネットの態度は不変であった。
「声をかけられてね、ホイホイついていく男には誰もデートに誘わないわ」
「!?」
「見てなさい」
 その声がクールなものになっていた。
「ルシエンをね」
「ルシエンさんをって」
 ダニーはルシエンに目をやる。そこで見たものは。
「あらルシエン」
 ダイアナがルシエンに気付いた。
「どうしたの?こんなところで」
 そしてお約束のように彼に声をかけてきた。
「アンネットを待ってるのさ」
 ルシエンはダイアナに顔を向けて答えた。
「デートなのね」
「まあな。君は?」
「私?私はただぶらぶらしてるだけ」
 思わせぶりに笑ってそれに返す。
「何となくね。一人だけで」
「そうなんだ」
「そうよ。それでね」
「まずいな」
 ダニーはダイアナの様子を見て顔を顰めさせる。
「このままだと」
「駄目よ」
 ダニーが出ようとするとそれは他ならぬアンネットによって止められた。
「お姉ちゃん、どうして」
「何度も言ってるでしょ、黙って見てなさいって」
「だってこのままじゃ」
「これも言ったでしょ。声をかけられてついて行くようじゃ駄目って」
 アンネットはあくまで動こうとしない。
「だから。貴方も動いたら駄目」
「そんなことしてたら・・・・・・うっ」
 ダニーはアンネットの目を見て思わず黙ってしまった。
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