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第四十六話 妹への御馳走その五
「じゃあ後片付けが私がしておくから」
「えっ、別にいいよ」
 しかし彰子はこう言って自分がしようとする。
「私がするから七海ちゃんはゆっくりとしていてよ」
「何言ってるのよ、これは御礼よ」
 右目でウィンクしてこう返す。
「美味しいお鍋のフルコースのね」
「御礼ってそんな」
「いいからいいから」
 しかし彰子はまだ自分がしようとする。七海はそんな彼女に言うのだった。
「折角だから彰子ちゃんは二人の練習でも見てあげてよ」
「それじゃあ。いい?」
「ええ、任せて」
 こうして彰子は二人の練習の見学をすることになり七海が後片付けに回った。暫く鍋等を洗っているとそこに明香がやって来た。
「あら、練習は?」
「ちょっと喉が渇いたので」 
 遠慮がちな声で言ってきた。
「それで」
「来たのね」
「はい。今日はすいません」
 その遠慮がちな声でまた言う。
「来て頂いてそれに」
「いいのよ。食べた御礼にね」
 彰子に対して言った言葉を彼女にも述べる。
「気にしないでいいわ。それよりね」
「何でしょうか」
「彰子ちゃんから聞いたけれど。貴女達って昔から仲よかったのね」
「姉さんとですか」
「そうよ。何か羨ましいわ」
 にっこりと笑って明香に言う。
「仲のいい姉妹ってね。うちは賑やかだったから少し違うのよ」
「はあ」
「御粥作ってもらったんだって?」
「ええ、まあ」
 お茶をコップに入れながら答える。麦茶である。
「子供の頃ですけれど」
「そう、いいわね」
「あの時泣いて。姉さんとても驚いて」
「それね。彰子ちゃんにも聞いたわ」
 それを明香にも問う。問いながら彼女に対して顔を向ける。鍋を洗う手は止めてはいない。見ればかなり手際がいい。慣れている感じであった。
「どうしたの?一体」
「悪い意味じゃないんです」
 コップを両手に持って述べる。
「嬉しくて」
「彰子ちゃんの気持ちがなのね」
「姉さん、いつも私のことを心配してくれてるんです」
 そう七海に語る。静かな声だが感情がはっきりと伝わる声でもあった。
「それで。あの時もはじめてだったのに必死に作ってくれて」
「美味しかった?彰子ちゃんは泣いちゃったって言って失敗したって言ってるけれど」
「美味しかったです。けれど」
「けれど?」
「それ以上に温かかったです」
 ほんの少しにこりとした笑みになる。普段の表情のない彼女にとっては滅多にない温かい笑みであった。
「そうなの」
「はい。姉さんがこんなに私を大切に思ってくれてるんだってわかって。それで」
「いいお姉ちゃんなのね、彰子ちゃんって」
「私にとってはそうです」
 正直に七海に語る。
「いつも私のことを心配してくれて何でもできて」
「そうね、いい娘よ」
 七海もその言葉に頷く。
「ちょっとね。いえ、かなりおっとりしてるけれど」
「それでもあれなんですよ」
 お茶を飲みながら言う。そのお茶もほんのりと温かい。
「いざとなればすごくしっかりとしてくれるから」
「頼りになるのね」
「私、姉さんがいないと駄目なんです」
 世間では逆だと思われている。おっとりした彰子をいつもフォローするしっかり者の妹だと。だがそれは全然違うようである。七海は今の明香の言葉を聞いてそう思った。
「全然何もできなくて」
「そうなの」
「はい、だから余計に」
 顔も声も温かいものになっていく。
「姉さんが好きなんです」
「彰子ちゃんもそうよ」
 そう答えてきた。
「彰子ちゃんもね、明香ちゃんが好きなの」
「はい」
 その言葉ににこりと笑う。やはり微かな笑いであるがはっきりと心が伝わる笑みであった。
「よくわかります。だから」
「何時までも仲良くね」
 また声をかける。
「お互い身体寄せ合って」
「わかりました」
「じゃあコップ頂戴」
 飲み終えたコップを渡すように言う。
「洗っておくから」
「すいません」
「それでね。そのお姉さんが作ってくれた鍋を一杯食べたんだし」
 今度はそれについて言及してきた。
「頑張ってね。今度の舞台」
「はいっ」
 素直で澄んだ返事が返ってきた。
「絶対成功させます、春香ちゃんと一緒に」
「その意気よ。それじゃあ」
「また練習に戻ります」
「じゃあね。応援してるわよ」
「わかりました」
 こうして明香は練習に戻る。七海はその後姿を見送ってまた呟く。
「何か。仲のいい姉妹っていうのも。妬けるわね」
 にこりと笑って言う。けれど悪い気はしてはいなかった。


妹への御馳走   完




                2007・4・21
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