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第一話 おっとり優等生その一
                  おっとり優等生
 八条学園高等部二年S1組。数多いこの学園のクラスの一つである。
 このクラスには四十人以上の生徒がいる。連合各国から生徒が集まり実に賑やかである。何とこのクラスでは日本人の方が少なかったりするのだ。
 日本人は数える程しかない。そのうちの一人はクラスの纏め役でもある。その名を小式彰子。長い黒のロングヘアに二重の丸い大きな目、人形の様に白く整った顔立ちの少女である。背はあまり高くなく胸はお世辞にも大きいとは言えない。成績は優秀、性格はおっとりしていると評判である。クラスでは何かと人気がある存在である。
「けれどさ」
 そんな彰子を見ながらクラスの端で語り合う一組のカップル。
「彰子って何かね」
 中国風の赤い派手な上着にズボンの女の子がいた。髪形はかっての中国のそれのお団子頭、黒に少しダークブラウンがかかった髪にダークブルーの目をしている。背はわりかし高く彰子よりは大きな胸が上着からはっきりと出ている。少しすましたような顔をしている。目は切れ長で鼻は少し高い。アジア系に白人が少し混ざった顔をしていた。
「おっとりしてるわよね」
「何を今更」
 それに彼女と共にいる男子学生が応えた。こちらはブラウンのサラサラとした髪に黒い目、ソバカスが少し目立つ顔をした背の高い男であった。鼻は高く彫りもある顔立ちだがやはり純粋な白人という雰囲気ではなかった。肌も顔立ちもわりかしアジア系や黒人のルーツが見られた。彼はラフなグリーンのシャツに青のジーンズであった。
「彰子だろ、当然じゃないか」
「彰子だからおっとりしてるってこと?」
「そういうこと」
 男子学生は彼女に答えた。
「違うかい?」
「いえ、違わないわ」
 女子学生の返事も何か素っ気無いものであった。
「彰子はそうでなくちゃ彰子でないし」
「そうそう」
 男子学生は彼女の言葉に頷く。
「あれで鋭かったら何か怖いわ。おっとりしてるから何処か落ち着くのよ」
「それは僕達だってだろ」
 彼はその中国の少女に対してこう述べた。
「私だからって?」
「そう、劉蝉玉だから」
「何か気になる言い方ね」
 その少女劉蝉玉は彼氏にそう言われて少し憮然となる。目を横目にしてジロリと彼を見た。
 彼の祖父は連合軍参謀総長劉白凰である。元帥であり連合ではお偉いさんである筈だが軍人の地位がまあ他の職業と変わらない連合においては別にそうは見られない。それは彼女も同じで御爺ちゃんと言えば家になかなかいないといった認識しかなかったのだ。これは彼氏も同じだ。彼氏の名はスターリング=マクレーン。連合軍宇宙艦隊司令長官であるローラン=マクレーンの孫である。何と連合軍宇宙艦隊司令長官と参謀総長の孫が互いに同じ学校で同じクラスにいてしかも付き合っている。だがそれも連合では誰も驚くことではないのだ。
「じゃああんたもスターリング=マクレーンってことになるわよ」
「そうだね」
「そうだねって」
 蝉玉はスターリングのその言葉に少し拍子抜けしてしまった。
「僕はそれでいいから」
「そうなの」
「スターリング=マクレーンってことに満足しているから。それでいいさ」
「だったら私からは何も言えないわね」
「君もそうじゃないの?」
「っていうと?」
 蝉玉はスターリングのその言葉に目をしばたかせてきた。
「君も劉蝉玉ってことに満足してるんじゃない?」
「まあね」
 言われてみるとまんざらでもない。特にこれといったところはなく頷いた。
「私は今の私でいいわよ」
「そうだろ?僕だって同じさ」
「まあ悪いところはね。変えていきたいけれど」
 そうしたところも含めて自分自身がやはり好きだ。人間は大抵そうである。どうしても嫌いで仕方なくて塞ぎ込んだりする場合もあるがおおむねそうなのである。
「嫌いじゃないのは事実よ」
「それは彼女も同じってことなんじゃないかな」
「彰子も」
「そういうこと。少なくとも悪い奴じゃないだろ」
「あんまりおっとりなんで唖然としちゃうけれどね」
「まあそこは置いておいて」
 二人は彰子を見ながら話を続ける。今彼女はクラスメイトの一人フック=チャム=ハッタンと話をしていた。黒い日焼けした肌にコーカロイドが混じった彫りのある顔、そして髪はイエローだ。タイ出身でクラスきっての好色一代男、女の子の為に全てをかけている男だ。黒を基調としたパリッとした服に身を包んでいる。狙いは言うまでもない。
「でさ、彰子ちゃん」
「何?」
 彰子はおっとりした顔でフックに顔を向けていた。
「で、あいつが早速声をかけているけれど」
 スターリングがフックを指差しながら蝉玉に言う。
「成功すると思う?」
「無理に決まってるじゃない」
 蝉玉はフックを冷たい目で見ながらそれに答えた。
「フックって彰子には全然適わないんだから」
「そうなんだ」
「全くね。歯牙にもかけられてないのよ」
「ああ、やっぱり」
「まあ見てなさいよ、絶対に陥落させられないから」
「あのフックがねえ」
 それが少し意外と言えば意外である。フックはとにかく女の子にそのエネルギーの全てを注入しているのだ。その彼が陥落させられない、それはやはり恐ろしいことと言えば恐ろしいことなのである。
「今度の休みだけどね」
「うん」
「テーマパークなんてどうかな」
「テーマパークっていうとオズ?」
「そう、そこ」
 フックはオズというテーマパークの名を聞いて顔を綻ばせる。この八条学園がある惑星伊勢はおろか日本においてかなり有名なテーマパークである。
「そこにさ、どうかな」
「悪いけど今度の休みは」
 だが彰子は申し訳なさそうな顔でそれに応える。
「妹とね。ちょっと約束があるの」
「じゃあその妹さんとも一緒に」
「流石だな」
「普通ここで諦めるのにね」
 スターリングと蝉玉はフックの鮮やかな切り返しを見て思わず唸った。ここで断られて終わりではないのがフックという男の凄いところであった。
「三人でだ」
「ううん、三人だと」
 彰子はそれでもおっとりとした声で返す。
「何か。まずくない?」
「いやいや、これがまずくないんだよ」
「まずいよな、やっぱり」
「有り得ないわよ」
 二人はそれを見てまた言う。
「両手に花って言うじゃないか」
 それもまたよし、やはりフックはそいじょそこらのプレイボーイではなかった。それはそれでよいものだ、あわよくば、という男なのである。
「だからさ」
「お花ならお花屋さんでいいお店知ってるよ」
「なぬっ!?」
 これはフックだけでなく様子を見守るスターリングと蝉玉も発した言葉であった。
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