第四十話 一輪の花その四
「私は明香のお姉ちゃんよ。だから」
「そうね」
「そうよ」
そう言ってから妹に頷く。
「水臭いことはなしよ。この世で二人きりの姉妹なんだし」
「ねえ姉さん」
明香はその言葉を受けて姉にまた言う。
「何?」
「何時までも一緒じゃ駄目かしら」
「何時までもって?」
「いつも一緒で何時までも一緒」
こう姉に語り掛ける。
「駄目?私達」
「何言ってるのよ」
妹のそんな言葉にも優しい笑みで返す。
「当たり前でしょ。それは」
「当たり前なのね」
「そうよ。だから姉妹なんだから」
またそれを言う。
「言うまでもないじゃない」
「うん」
その言葉にもこくりと頷く。
「それでね」
彰子は話題を変えてきた。
「今夜だけれど」
「あっ」
明香はその言葉にふと何かを思い出してきた。
「どうしたの?」
「晩御飯の買い物がまだ」
「まだだったの」
「ええ。だから」
「わかったわ。今からね」
妹の言葉に応えて言う。
「お買い物行きましょう」
「ええ。何がいいかしら」
ふと思い出したように言葉を続けていく。二人並んで。
「今日は」
「今日の当番は私だったわね」
「そうだったの」
「そうよ。だから」
考えながら言葉を続ける。
「お魚でいいかしら」
「お魚」
「そうね。今日はちょっと寒いし」
少し首を傾げさせて述べる。それからまた口を開いてきた。
「お鍋なんかどうかしら」
「お鍋」
「そうよ。お魚は安いので。寄せ鍋みたいで」
「いいわね、それ」
明香は姉のその言葉に頷いてきた。まんざらではないといった様子であった。
「それじゃあそれでいいわね」
「ええ」
姉の言葉にこくりと頷く。これで決まりであった。
「それでいいわ」
「お野菜もたっぷりと買って」
「姉さん、卵も」
「雑炊ね」
「それが最後にないと」
「そうよね。やっぱり」
「ええ。最後は」
二人は鍋の最後は雑炊といったグループであった。といっても餅やうどんを入れるのも決して嫌いではない。だがやはり最後は雑炊なのであった。
「卵と」
「お魚がなかったらどうしようかしら」
「その時はあれよ」
それにもにこりと返す。
「鶏肉があるじゃない」
「そうよね」
「そういうこと。だから安心して」
「わかったわ。じゃあ」
そんな話をしながらスーパーに向かう。夕暮れの空気が二人を包み込む。彼女達はその中に姉妹水いらずの時間を過ごしていた。
ロミオはその時も花屋で働いていた。真面目にせっせせっせと働いている。
「よおロミオ君」
店長が彼に声をかける。
「はい」
ロミオはそれに応えて顔を向ける。そうして店長に応える。
「何ですか?」
「今日はもうすぐしたら終わりだから」
「ちょっと早いですね」
「いや、それがね」
店長は太った大柄な男だった。口髭がやけに似合っている。その口髭を綻ばせて言うのである。
「生まれたんだよ」
「お子さんがですか」
「これで三人目な。いや、それで」
左手を頭の後ろに回してにやけながらの言葉だった。嬉しく嬉しくて仕方ないのがよくわかる。彼もそれを隠そうともしていない。
「今日はね。わかるよね」
「はい、それじゃあ」
彼はそれに頷く。そういう事情だったのだ。
「バイト代はそのまま支払うからさ」
「けれどそれって」
「いや、いいんだよ」
しかし店長は言う。
「俺からの気持ちさ。だからさ」
「いいんですか」
「ああ。楽しくやってくれよ、その分でさ」
と言いながら言葉を付け加える。
「といっても二時間がそこらの分だからあんまり多くはないけれどね」
「いや、それは」
口ごもって彼の言葉を言おうとするが店長の言葉はそれよりも早かった。
「いいからいいから。わかったね」
「じゃあ」
「今日はこれでね」
「はい」
こうしてロミオはその日のアルバイトを終えた。意気揚々と家に帰る。しかしその彼に今トラブルが迫ろうとしていたのであった。これは彼にとって思いも寄らぬことであると共に騒動のはじまりであった。
一輪の花 完
2007・3・15
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