第四十話 一輪の花その三
「あるかしら」
「かなりあるよ」
そう言いながら店の中を指差す。
「ほら、例えばさ。これなんか」
「うわあ」
見ればスズランである。
「これだって」
今度出されたのはチューリップ。どれも春の花である。
「これだってそうだし」
「何か一杯あるのね」
「白い花って多いからね」
ロミオはそう彰子に語る。その横にいる明香もまたお店の中の花々を見ている。やはり彼女も白い花に注目しているのは彰子と同じであった。
「だから色々あるけれど」
「どれにしよう」
「ロミオさん」
「あっ、明香ちゃん」
ふと気付いたように明香に声をかける。
「何かな」
「花言葉ですけれど」
「いや、ちょっと待った」
だがロミオは花言葉というものが出ると一旦彼女を制止してきた。何かあるようであった。
「花言葉を言うと意味が違ってくるよ」
「えっ」
「あっ、そうね」
明香が表情こそ変えはしないが少し戸惑ったような声をあげるとその横で彰子が納得したように声をあげてきた。どうやら彼女はわかっているようだ。
「花言葉ってお国によって違うからね」
「そういうこと。僕の国とここ日本でも意味が全然違っていたりするよ」
ロミオはベネズエラ人である。だから日本人である彰子や明香とでは同じ花を見てもそれを意味する花言葉は全く違っていたりするのである。
「だからさ。それを言うとややこしくなるよ」
「そうだったんですか」
明香はそれを言われてようやく気付いた。
「それじゃあ」
「明香」
ここで彰子は妹に声をかけてきた。
「何、姉さん」
「難しく考える必要はないわ」
彼女はにこりと笑って妹に述べてきた。
「どうしてなの?」
「だって。私も明香も日本人じゃない」
彼女が言う根拠はここであった。そのことをはっきりと言ってきた。
「だから。日本の花言葉でいいのよ」
「あれっ、それじゃあ」
ロミオは彰子のその言葉を聞いてふと述べてきた。
「彰子ちゃんが明香ちゃんにプレゼントするっていうこと?」
「そうなの」
彰子はロミオにもにこりとした笑みで答えてきた。
「その通りよ。だからね」
「日本の花言葉でいいんだね」
「ええ。それじゃあ」
「あの、姉さん」
明香は戸惑いを続けながら彰子に問うてきた。
「私にって」
「いいのよ。だってね」
声に戸惑いを見せる妹に対して言う。それは姉の顔であった。
「明香が教えてくれたから。オカザクラのこと」
「けれど」
「いいの。私からのささやかな御礼よ」
にこりとした笑みで妹に声をかける。
「だからね。いいでしょ」
「いいの?本当に」
やはり表情は変わらないが声は戸惑わせたまま姉に問う。
「本当に私に」
「妹なのに何言ってるのよ」
そう言って彼女を安心させる。
「お姉ちゃんからの贈り物よ。遠慮なく受け取って」
「じゃあ」
やっと受け取る気になった。彰子としてもこれで一安心であった。
ロミオに顔を向ける。そうして注文に入った。
「じゃあロミオ君」
「うん」
ロミオもにこやかに返す。営業スマイルであるがそれは営業スマイル以上のものがあった。彼の人柄が出た笑みであった。こうしたところがロミオらしかった。
「どれがいいかな」
「明香ちゃんへのプレゼントだよね」
「そうなの。どれがいいと思うかしら」
「それじゃあ。そうだね」
一旦店の中を見回した後で彰子に答える。
「スズランなんかどうかな」
「スズランね」
「うん。外見も明香ちゃんに似合うし。それに」
「それに?」
「花言葉がいいんだよ」
彼は語る。
「スズランって確か」
彰子はスズランの花言葉を頭の中で探る。そうして出て来たのは。
「純潔だったっけ」
「それと繊細だね」
「あと幸せね」
「幸せ」
明香はその言葉を自分でも呟く。
「姉さんが私に幸せを」
「当たり前じゃない。妹だから」
「有り難う」
それを聞いてまた御礼を言う明香であった。今度は表情が微かに綻んでいた。
「いいわね、それで」
「ええ」
姉の言葉にこくりと頷く。
「じゃあロミオ君」
彰子はあらためてロミオに対して言う。
「スズラン頂戴。白いのをね」
「うん、わかったよ」
ロミオも快くそれに頷く。そして。
「はい、これ」
「ええ」
スズランを受け取る。彰子がそれを明香に手渡す。それで贈り物としたのであった。
二人は並んで歩いて家に帰る。明香はそのスズランを手に抱いている。
「姉さん」
「何?」
「姉さんはいつも私と一緒よね」
「当たり前じゃない」
自分よりも背が高い妹の方を向いて答える。その顔はにこりと笑っている。
小説・詩ランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。