ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第三十九話 鬼の風紀部その四
「面白いのは事実なんだから」
「面白くなかったらどうするんだい?」
「その時はあれさ」
 そうおばちゃんに言う。
「読むの止める。それだけ」
「それだけなのね」
「そう、それだけ」
 やはりあっけらかんとして何の迷いもない言葉であった。彼にとっては本当にそれだけであった。
「だってさ、面白いから読むんじゃない」
「まあそうだね」
 おばちゃんもこの言葉には納得して頷く。
「いいこと言うじゃないか」
「当たり前だよ」
 ここで調子に乗るのがローリーであった。
「そうじゃなきゃね、やっぱり」
「じゃあ明後日も来るんだね」
 おばちゃんはまたローリーに問う。
「明後日は確か」
「週刊チャンプの誕生日だからね」
「そうだったね。じゃあまた明後日ね」
「うん、じゃあ」
 そんな話をしながら本屋を後にする。上機嫌で雑誌を読みながら道を歩いている。
 しかしそこで。後ろから気配がした。
「誰かな」
 彼は漫画を読みながら気配に問う。
「また君達かな」
「わかるのか」
 あの白服の男だった。木の影からすっと姿を現わしてきた。
「わかるよ。だってさ」
 ローリーはまだ漫画を読んでいる。決して後ろを振り向こうとはしない。
「それだけ殺気を出していればね」
「殺気か」
「うん」
 やはり漫画を読みながら答える。後ろを振り向きもしない。
「わかるよ。それで何?」
「殺気がわかるのなら話は早いだろう」
 男はそうローリーに言ってきた。
「ローリー=ハイデル」
 彼の名を呼ぶ。
「覚悟しろ。いいな」
「悪いけれどさ」
 相変わらず後ろを振り向くことなく言葉を返す。
「今漫画読んでるから。それじゃあ」
「漫画を読んでいようと何であろうと」
 そんなことで仕事を止める筈もない。男の行動は決まっていた。
「覚悟するのだ」
 棒を手に襲い掛かる。だが。
 ローリーは振り向いた。一瞬だがその目に鋭い殺気が見えた、
「むっ!?」
 男がその目を見た時にはもう遅かった。雑誌の背で急所を叩かれていた。
 空中で動きを止める。それは一瞬のことで地面に崩れ落ちる。それで終わりであった。
「安心していいよ」
 気を失い倒れている男に対して言う。
「威力は抑えてあるから。気を失うだけだからね」
 そう言って踵を返す。そのまま何処かへと去っていく。
 こうしてローリーは刺客を退けた。このことはすぐに白服風紀部にも伝わった。
「おのれ、おのれ」
 彼等は会議室で呻いていた。
「ローリー=ハイデル、またしても」
「彼まで倒すとは」
 そう言い合い憤慨していた。かなり怒っている感じであった。
「また腕をあげたというのか」
「小癪な」 
 まずは悪口を言い合った後で本題に入る。
「それでだ」
「うむ」
 風紀委員らしく姿勢を正して会議に入る。中々切り替えが早い。
「どうする、次の一手は」
「そうだな、嘆いてばかりもいられない」
 本当に実に切り替えが早い。まるで悩んでもいないようである。
「どうするかだ」
「同志達よ、考えはあるか」
「ある」
 議長の言葉に応えて委員の一人が名乗りをあげてきた。
「ほう、どのような考えだ?」
「私が行く」
 やることは同じだった。
「私ならば奴を倒せる。今度こそな」
「やってみせるか」
「祝いを用意しておけ」
 彼は立ち上がり会議室を後にする。その中で同志達に述べた。
「最高級のシャンパンをな」
「ふふふ、優雅なことだ」
 議長はその言葉を聞いて満面に笑みを浮かべる。
「いいだろう。君ならば必ずやり遂げる」
「それでは我等は見守るだけ」
「今度こそローリー=ハイデルを」
 彼等は口々にまるで自分達の言葉がシナリオになっているかのように進めていく。これぞ様式美といった感じの話の進み具合であった。
「討つ!」
「ではその時の為に」
「そう、我が偉大なる」
「グレート=ハズバンドの為に」
 結局そのグレート=ハズバンドが何者かというと誰にもわからないのである。彼等でさえわからない。だが二つつだけ確かなことがあった。そのグレート=ハズバンドとやらが実在するならばお世辞にもセンスと人を見る目がないということだ。その二つだけは確かなことであった。
 その明後日の帰り道。ローリーの後ろに白服の男が一人転がっている。だがローリーはそれを一切気にすることなく前を進んでいた。
「あれっ」 
 その白服の男を見て彰子が声をあげる。彼女はたまたまこの道を歩いていたのである。
「何だろうこのお花」
 しかし彼女が見たのは男ではなかった。花だった。道に咲く一輪の花。それが彼女の目に入り胸に止まったのであった。一輪の花は男の戦いよりも尊い時もある。
「綺麗ね」
 その花を見てにこりと笑う。そこからまた話が動くのであった。


鬼の風紀部   完


                  2007・3・10
小説・詩ランキングsite_access.php?citi_id=254078182&size=200cont_access.php?citi_cont_id=766008103&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。