第三十八話 恐怖の生活指導その五
「全くよお」
「あたし達こんなのやらされるようなことしたのかしら」
「した」
監督役の風紀部員の一人が言う。
「だからエスケープは重罪だ」
「ちぇっ」
「やっぱり逃げられないのね」
二人はその言葉を聞いてつい舌打ちする。その間も手は止めてはいない。
「この掃除が終わったらそれで許されるからな」
「はいはい」
ジャッキーがその言葉に応える。
「つまりやれってことね」
「そういうことだ。わかってるじゃないか」
「わかっててもやるのは気が進まないわ」
こうした時にすぐに出て来るのはジャッキーならではであった。
「全く」
「それにだ」
風紀部員はここで一言述べてきた。
「何?」
「気分がいいものだろう」
「どうしてだよ」
「掃除をして何かが綺麗になるというのは」
「いいや」
その言葉をテンボが否定する。彼は首をゆっくりと横に振る。
「それはないね」
「何だ、詰まらん」
「俺は散らかってる部屋の方が頭の回転が早まるんだ」
そのうえでこう言う。
「そっちの方がな。綺麗だと落ち着かない」
「あたしも」
ジャッキーもであった。
「散らかって何があるのかわからないところを走り回るのがいいんじゃない」
「それでいいのか」
「それがいいのよ」
彼女もおおむねテンボと同じであった。
「わかってないわね。全く」
「君達が風紀委員にならなくて何よりだ」
「おっ、そういえば」
テンボはここであることを思い出してきた。それで風紀部員に問う。
「あんた達風紀部員だよな」
「何を今更」
テンボの言葉に思わず突っ込みを入れる。流石にこれは話が今更であった。
「うちの風紀部員のローリーだけれどよ」
「ローリー=ハイデルか」
「そう、そいつ」
「姿が見えないけれどどうしたの?」
「系列が違う」
風紀部員は二人にそう述べてきた。
「系列!?」
「うちの学校って風紀部にも系列があったんだ」
「広いからな」
それが答えであった。八条学園はあまりにも広い。だから同じ競技でも部活が幾つもあったりするし風紀部にしろ系列があったりするのである。
「分かれている」
「じゃあローリーはあんた達とは関係ないのか」
「あいつは好きになれない」
風紀部員は憮然として述べてきた。
「どうしてもな」
「またそれはどうして」
テンボは掃除を続けながら彼に問う。
「同じ風紀部員だろうに」
「同じ風紀部員だからだ」
これが答えであった。
「ああした浮ついた男は嫌いだ」
「まあ確かに浮ついてはいるわね」
ジャッキーはその言葉に反対することなく頷いた。
「あんな風紀部員いないし」
「そもそもあんた達白ランだしな」
「いいだろう」
彼は自分の服を自慢してきた。
「身も心も引き締まるぞ」
「そんなものかね」
「そんなものだ」
そうテンボも答える。
「下着も透けない優れものだ」
「ああ、それね」
ジャッキーはその言葉に頷く。
「白だと下手したら透けるからね」
「特に赤とか黒のトランクスだとやばいよな」
「そうよね。それ女もだし」
どちらかというと女の方が深刻な話であるかも知れない。白いズボンやスカートを穿くことも多いからだ。こうしたことには男よりも気を使う。
「第一ズボン上から隠してるわね」
ジャッキーはそれも指摘してきた。
「その長い上着で」
「待てよ」
ここでテンボは気付いた。
「その制服は」
「どうした?」
「風魔の川太郎とかいう漫画の真似か?」
「小次郎だろう?」
風紀部員は憮然としてそれに返す。
「確か」
「あっ、それか」
「変な間違いだな、また」
「まあいいってことさ。それでな」
テンボはそれを気にも留めずに言う。
「ローリーとは仲が悪いんだ」
「白服は潔白の証」
まずはこう前置きをしてきた。
「嘘は言わない。その俺が言うぞ」
「ああ」
「悪い」
一言であった。その一言で嫌になる程見事に伝わる。
「わかったな」
「風紀部も色々あるものだな」
あらためてこの学園の広さがわかる。テンボとジャッキーはその広さを噛み締めながら掃除を続けるのであった。
恐怖の生活指導 完
2007・3・6
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