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第二百四十六話 階段でその七
「階段を降りるだけでね」
「本当にそれだけだけれど」
「歌わないし」
 アラベラはその場面では歌わないのだ。階段を降りるだけである。
「それで。コップを差し出すだけだけれど」
「その短い場面が」
「アラベラの一番重要な場面の一つなの」 
 まさにだ。そここそがだというのだ。
「全てを決める場面なのよ」
「そうなのね。全てが」
「そう、全てがよ」
 また言う彰子だった。
「これはいつも言ってるわよね」
「ええ、本当に」
「私も言われたの」
「姉さんもなの」
「そこをしっかりとしてこそだって」
 舞台にとってはというのだ。
「そう言われたの」
「ええと、それだと」
 明香は彰子のその話を聞いてだ。
 思い出した様にだ。こう述べたのである。
「姉さんが部活に入ったのは」
「明香に勧められてだったよね」
「そうよね。じゃあ誰に教えてもらったの?」
「先生になの」
 顧問の先生の一人にだというのだ。教えてもらったというのである。
「教えてもらったの」
「そうだったのね」
「そうなの。それで階段の場面には気をつけてるの」 
 彼女も教えてもらったというのである。そうした意味では今の明香と同じである。教えを受け継いでいく、そんな風にもなってもいる。
「そうしているの」
「成程、先生から姉さんに」
「そして私から彰子にね」
「なっているのね」
「何かおかしいわよね」
 彰子はにこりと笑ってだ。明香にこんなことも言った。
「部活に入ったのは私の方が後なのにね」
「それは関係ないわ」
「ないの?」
「だって。アラベラは姉さんの方が先に歌ってるから」
 役においてはだ。彼女の方が先輩だというのである。
 それでだ。彼女が自分に今こうして教えるのはというのだ。
「いいの」
「そうなるのね」
「ええ。それに」
「それに?」
「私、アラベラのことはよく知らなかったから」
「ズデンカのことは知ってても」
「アラベラは。観てるだけだったから」
 舞台においてだ。彼女はこれまでズデンカに専念していた。しかしアラベラはだというのだ。
「だから」
「それでなのね」
「ええ、それでなの」
 また言う明香だった。
「実際に演じて歌うとなると」
「そうよね。私も」
「姉さんもなの」
「ズデンカって。深いのね」
 彼女が今演じているだ。その役がだというのだ。
「こんないい娘なんて思わなかったわ」
「ズデンカはいい娘なの」
 実際にそうだと話す明香だった。
「姉思いで一途で」
「アラベラも妹思いだけれど」
「そうしたところは姉妹で似てるのね」
「そうね。似ている部分もあるのね」
 二人でそのことにも気付いていった。
「違う部分もあって似ている部分もある」
「同じソプラノだけれど完全に同じじゃない」
「歌だけじゃなくて性格も」
「そうした二人なのね」
 こう考えていってだ。そのうえでだ。二人でだ。
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