第二百四十四話 ブルマとタイツその一
ブルマとタイツ
明香はだ。歌劇場の楽屋でだ。無表情でいた。
しかしだ。そのオーラは暗い。何故ならだ。
目の前に用意された衣装を見たからだ。その衣装は。
「タイツですか」
「うん、そうだよ」
「それなんだ」
衣装部の面々がだ。にこやかに笑って答える。衣装部は通称コスプレ同好会とも言う。普段はコスプレを楽しんでいる。だが歌劇部には衣装で協力しているのだ。
「当時の時代を再現してね」
「その演出って聞いてね」
「こういう風にしたんだ」
「タイツにね」
黒タイツである。そして。
「ブルマね」
「王子様みたいな格好にしたんだ」
「そうですか」
暗い雰囲気で答える明香だった。
「それで」
「そうだよ。どうかな」
「いいと思わない?」
「自信作なんだよ」
衣装部の面々は爽やかな笑顔で述べる。その笑顔を見てだ。
明香は言えなくなった。笑顔の前にはだ。
「そうですね」
「いいよね、いやこの前さ」
「マウリアの人が衣装に協力してくれたけれど」
連合四兆の人間を翻弄し続けているそのマウリア人である。
「凄かったねえ」
「古代ローマなのにマウリアの服だったからね」
「そうそう、しかも演出までしたし」
自分達の専門分野でなくても何でも加わってくる、それがマウリア人だからだとだ。連合の人間は口を揃えて言うのである。
「何かあったら踊ったし」
「上演時間は倍になったし」
「凄かったよなあ」
「あれはないよ」
「ポッペアの戴冠がね」
モンテヴェルディのオペラだ。この時代でも上演されているのだ。
「それが何故かマウリアになってたし」
「流石に登場人物の名前は変わらなかったけれどね」
「ローマがマウリアって」
「しかも現代の」
「斬新ですね」
明香は戸惑いながらこう述べた。
「それはまた」
「うん、明香ちゃんはその舞台関わってなかったね」
「大学の公演だったし」
「僕達ちょっと援軍要請されて手伝ったんだ」
それで知っているのである。
「いやあ、あれじゃあ蝶々夫人だってマウリアにされそうだね」
「絶対にそうするね、その時の気分次第で」
「間違いなくね」
「そうですか」
「それで。明香ちゃん」
「この衣装どうかな」
話がそこに戻った。今の衣装のことにだ。
「このタイツとブルマでどう?」
「これでいいよね」
「役は何でしょうか」
その役のことをだ。明香は尋ねたのだった。
「ズボン役ですね」
「そうだよ。男の子の役ね」
「それだよ」
笑顔で答える衣装部の面々だった。まさにそうだというのだ。
そしてだ。明香にだ。その役のことも話すのだった。
「コシ=ファン=トゥッテやるから」
「デスピーナね」
「あの役は」
その役は彼女も知っていた。それもよく、である。
それでだ。それを聞いてあらためて衣装部の面々に述べた。
「あの役は女の子では」
「ほら、男の人とかに変装するじゃない」
「男の人に化けるよね」
「だからですか」
「当然普段の服も用意してあるよ」
言うまでもなくデスピーナは女の子である。そのオペラ、コシ=ファン=トゥッテの話を動かすかなり重要な役である。十六だがとてもそうは思えない程恋愛に長けていて人生にすれた女中である。
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