第三十六話 馬鹿兄貴は永遠にその一
馬鹿兄貴は永遠に
春香が男と出会っていると聞いた洪童はまたしても狂った。またしても訳のわからない呪術に凝るのであった。
「ワイルドジョーカーナンテアトデワカルナンテアリカ!」
訳のわからない呪文をよりによってクラスで唱えている。
「クサカガイキテイテカブトデデルナンテサクヒンチュウデカタリヤガレ!」
「何かすげえ訳わかんねえ言葉だな」
「一体何言ってるんだ?」
クラスメイト達は彼の呪文を聞いて首を傾げさせている。
「変な呪文だな」
「それでも呪詛しているのはわかるな」
「ああ」
それだけはわかる。しかしそれ以上に訳がわからない。
「ファイズトブレイドハツナガッテイテテンノウジハオルフェノクノテサキダッタ!」
「とにかくまた馬鹿なことになるな」
「そうだな、それはわかる」
彼等は言う。とりあえず洪童は今度もまた狂っていたのであった。
春香はそれを全く知らない。家でも兄が馬鹿なことを喚いていることだけはわかっていた。
「ケンザキハニンゲンニモドッテヨカッタ!」
「兄さん」
「何だ!?」
洪童はまたしても訳のわからない兄の儀式を見て首を傾げている。その兄に対して声をかける。
「今度はどうしたの?」
「何でもない」
憮然として妹に返す。
「気にするな」
「気にするわよ」
春香も気にしないわけにはいかない。
「何が何なのか」
「そうか」
「そうかじゃないわよ。全く」
また兄に対して言う。
「明らかに変なんだけれど」
「だから気にするな」
相変わらずの調子であった。
「じゃあな」
「兎に迷惑だから静かにね」
「わかったよ」
だがその言葉は聞いていない。春香が去るとまた訳のわからない呪文の詠唱をはじめる。
「ゲンバカントクハオルフェノクヨリツヨイ!」
騒ぎはとりあえずその日は洪童の儀式だけだった。しかし次の日から話がとんでもない方向に動くのであった。
洪童は登校するといきなり喚き出した。
「わかったぞ!犯人が!」
「何だ!?」
「あたし達の出番!?」
テンボとジャッキーがそれを聞いて席を立ってきた。ところが洪童はその二人に対して実に素っ気無く嘘の話で返したのであった。
「ああ、御前等に頼みたい人がいるんだ」
「何、誰だ」
「それは一体」
「生活指導のロシュフォール先生さ」
通称鬼のロシュフォール。逆らう人間がいない程の怖い先生である。連合軍の連合軍付最上級曹長に匹敵する程恐ろしいと呼ばれている。
「あの先生がか」
「よっし、あたしの名推理見せてやるわ」
二人は喜び勇んでそのロシュフォール先生のところに向かう。そのまま生きて帰っては来なかった。
「これでよし」
洪童は教室を出て行く二人を見て言う。
「邪魔者はいなくなった」
「あいつ等は邪魔者か」
「まあそうだな」
クラスメイト達もそれに頷く。とりあえずその二人がいなくなって厄介事が一つ消えた気分になったからだ。洪童もそれを考える変な冷静さは残っていた。
「とにかく。犯人がわかった」
「犯人!?」
「そもそも何が何だか」
皆話が読めない。洪童が何を言いたいのかわからない。頭がおかしくなったのではなかろうかと本気で思っていた。その予想はかなり当たっていた。
「春香に言い寄っていた間男!」
彼はクラスの中で滅茶苦茶なことを滅茶苦茶な声で叫ぶ。
「そいつの正体がわかった!」
「何か話が滅茶苦茶になってるな」
「ジョンの話が滅茶苦茶になってないか?」
「というか訳がわからないんだけれど」
ジョンも何が何なのかわからなかった。洪童は完全に頭をクラッシュさせていたからだ。
「何でこうなるのか」
「こいつなあ」
「どうして女の話と妹の話になると」
ジョンだけでなくクラスメイト達も首を傾げさせていた。洪童はいつも彼女の話や春香の話になると異常なまでに狂うのだ。
それが今だった。かなりどうにもならない。
「どうしよう」
ジョンが皆に問う。
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