第三十五話 十三日の月曜日その五
「どうなってるのよ、一体」
「だから厄日なんだよ」
彼は言う。
「わかったか?」
「ええ。そういうことなら」
妹もそれを聞くと納得した。
「それにしても落雷に隕石?」
「他にもプールに落ちたり妖術の火の玉受けたり一六〇キロの剛速球まともに受けたりもしたぞ」
「兄さんでも流石にそれはまずかったでしょ」
「よく生きてるなとは自分でも思う」
彼は玄関に入ったところでそう述べた。家の中はあまり変わりがない。ごく普通のアパートになっている。普段の彼等の生活の場所そのままであった。
玄関から家に入る。そこで二人はふと気付いた。
「あれっ、まさか」
「ああ、何かな」
何かが違う。二人は家の中の雰囲気を察して言い合う。
「どうしたの?」
「おおいチャン」
誰かの名前を呼ぶ。
「いるか?」
「グム、いるの?」
春香も呼ぶ。やはり返答はない。
「おかしいわね」
「ああ」
洪童は妹の言葉に頷く。
「何かありそうだな」
「何かしら」
「さあな。まさかとは思うけれどな」
ここで強烈に嫌な予感がした。
「ニシキヘビとかが入り込んできたとかな」
「まさか」
「そのまさかだよ。それどころかな」
嫌な予感はさらに膨らむ。
「ジャイアントアナコンダとかな」
連合のあちこちの星系にいるアナコンダのさらに巨大なものだ。その大きさは二〇メートルを優に越え半分水棲である。性質は大人しいがそれでも食べる量はかなりのものである。動物園にもいるが人気の動物でもある。
「そんなの出たら大騒ぎよ」
「落雷に爆発に隕石に通り魔だぞ」
ここまでの不幸はそうはない。有り得ない。
「また何があるのか」
「ないでしょ」
春香も幾ら何でもそれは信じなかった。といよりは信じたくなかった。
「そんなことは」
「とりあえず行ってみよう」
彼は言った。
「どうなったのかな」
「そうね、まずはそれが大事ね」
妹は兄の言葉に頷いた。
「一体何があるのか」
部屋に入る。そこで二人が見たのは部屋中に転がる兎の糞であった。
「何だ、こりゃ」
洪童はそれを見て思わず目が点になった。
「兎のうんこかよ」
「そうみたいね。ちょっと」
春香も部屋の中を見回す。すると兎達は無事だった。しかしそこにいた兎達の数がかなり違っていた。倍位にまで増えてしまっていた。
「どういうことだ、これ」
「私に聞かれても」
春香も何が何なのかわからない。
「子供が生まれたのか?」
「まさか」
春香はそれを否定する。
「そんな筈が」
「いや、待て」
ここで洪童は気付いた。
「あれ」
「あれって!?」
見れば何故か壁に穴が開いていた。そこから野兎達が入ってきたのだ。それが兎が増えた理由であったのだ。
「なあ」
洪童は春香に問う。
「何で野兎が街の中にいるんだ?」
「いや、私に聞かれても」
彼女もその理由はわからない。
「何が何なのか」
「そうだよな」
その言葉に兄も頷く。
「これも不幸か」
「とにかく掃除しましょう」
春香は気を取り直して言ってきた。
「それから壁をなおして」
「ああ、じゃあ業者さん呼ぶか」
「その間に私が掃除しとくから」
「いや、その前にだ」
洪童は兎達を見る。
「こいつ等何とかしないとな」
「どうするの?野兎もいるけれど」
「そうだな。何かチャンやグムとも仲良くやってるし」
それ自体は構うところがなかった。
「一応病院でワクチンとか打ってもらうか。一緒に買うぞ」
「わかったわ。それにしてもね」
「何だ?」
「このうんこの山。何かすっごい大変よ」
「壁もだな。ったく、碌なことにならねえな」
洪童はそれを見てぼやく。これもまた不幸のうちであった。二人はそれから真夜中まであれこれとして眠れないのであった。
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