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第三十二話 薬は恐ろしいその四
「私のお薬ではどうですか」
「君のお薬って」
 ジミーは今度は彼女に顔を向けることになった。
「まさか。それ?」
「はい、これです」
 にこりと笑った彼女が持っているのは何と毒々しい紫色の薬である。何故かそれはトリカブトを思わせる感じであった。不思議なまでに怪しいイメージを放っていた。
「ベッキーがいつも作ってくれるお薬です」
「ベッキーって」
「はい」
 にこりと笑う。
「妖術で作ってくれたんです」
「妖術、ねえ」
「あからさまに怪しいよね」
 ロザリーがまた述べる。彼女もコゼットも同じ考えであった。
「そうね。何か得体の知れない薬ばかりで」
「どうしたもんかね。っていうか」
「ジミーの風邪、なおるのかしら」
 それが問題点の筈であるが何故かそれはかなりどうでもよくなってきている。何かアンジェレッタとセーラの薬の話になっていた。しかもどう見ても風邪薬に思えないのが話をさらにややこしくさせていたのであった。
「ううん、こうなったら」
「はい」
 アンジェレッタとセーラは実は好戦的な性格ではない。だから張り合うということはあまり好きではないのだ。それはこの場合でもそうであった。
「両方飲んで」
「どうぞ」
 二人はそれぞれ持っている薬を差し出してきた。ジミーはそれを見て青い顔をしていた。緑に紫に青と色が揃ったのであった。
 だがそれはジミーにとってはいいことではなかった。むしろかなり悪いことである。
 それでも彼は決めるしかなかった。覚悟をである。今意を決した。
「よし、じゃあ」
 二人に対して言う。
「頂戴」
「おい、そうするのか」
「死ぬ気!?ジミー」
 ロザリーとコゼットはジミーのその決断に驚きを隠せなかった。
「片方だけでもやばいってのに」
「両方だなんて」
 二人は息を飲む。ゴクリ、と音がする。その音こそが地獄のはじまりであった。
「じゃあ」
 ジミーはその薬を受け取った。そして一気に飲んだ。
「死ぬか!?」
「化け物になるか!?」
 皆ジミーを注目する。しかしジミーは運がよかった。
 何と生き残った。化け物にもなりはしない。だが。
「うう・・・・・・」
「大丈夫かい?」
 声をあげたジミーにロザリーが問う。
「ああ。けれど」
「けれど!?」
「何か異様に目が冴えてきたんだけれど」
「風邪は元気がつけば吹っ飛ぶよ」
 アンジェレッタがにこりと笑って述べてきた。
「だからね。元気がつくようにしたのよ」
「病は気からと申します」
 セーラはセーラで言う。
「ですからベッキーはいつも精神を高ぶらせるお薬を用意してくれるのです」
「それでか」
 ジミーはそれを聞いて納得した。
「それで今こうして」
「元気になったよね」
「どうですか?」
「まあそれはね」
 二人に答えはする。
「けれどさ。これって」
 それでも言わずにはいられなかった。そして言う。
「効き過ぎなんだけれど」
「だからいいのよ」
「病は完全に消さなければなりませんから」
 やはり二人はそんなことを気にはしない。わかってはいるがやはり納得はできない。
「これで明日から学校行けるよね」
「けれどさ」
 ジミーの言葉は続く。釈然としない気持ちがこみ上げてくる。
「当分寝れそうにもないんだけれど」
「やっぱり変なことになっちまったね」
 ロザリーはそんな彼を見てまた呟いた。呆れた声になっている。
「予想通りっていうか」
「まあ化け物にならないだけましかもよ」
 コゼットの言葉は実に惨いことを平気で言っていた。
「あの二人のお薬一緒に飲んでだから」
「かも知れないね」
 それから一週間ジミーは眠れない日々を過ごした。どうにも薬というものは時として非常に厄介な事態を引き起こすものであるようだ。


薬は恐ろしい   完


 
                 2007・1・29
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